概要
坂の途中で子どもの帰り道がずれ、
祭りの灯りは帰るべき向きへ戻ろうとし、
閉店間際の喫茶には、届かなかった言葉が残る。
そして今はないはずの坂の景色が、写真に写る。
喫茶あさがおで姉を手伝いながら、旧映画館通りの編集社「帆ノ緒舎」に勤める火岬柊羽は、
町では時折「道返し様」と呼ばれる恋人・凪紗とともに、
町の小さな怪異に向き合っていく。
凪紗は怪異を祓わない。
向きと順番を読み、返すべきものを返す。
柊羽は紙と記録の側から、ずれた出来事に“置き場所”を与える。
怪異を倒すのではなく、返し、置き、整える。
食卓と地図、恋人と町の境界をめぐる、港町の地方怪異連作。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!盛り塩不要、街に残された怪異は、騒がず穏やかに整えましょう。
舞台は瀬戸内の港町ですが、全国各地に古い言い伝えや、穢れに触れてはいけない場所などがあると思います。
近寄らないのが最も安全ですが、生活をするうえで戒めは昔話に置き換えられ、忘れてしまう。そんないくつかの場所に秘められたお話を、本作の主人公たちは過去を探り、不思議に寄り添い、整えて、あるべき姿を記憶に残していく。
ホラーの香りは、強すぎず、弱すぎず。
作者様のその加減が絶妙で、物語の品格を下げること無く、ホラー要素を盛り込んでいます。
粛々と綴られる怪異現象と人間ドラマ、これを読まないのはもったいない。
是非、この作品に触れて頂き、皆様が暮らす街の何気ない景色や、規則的な人の流れな…続きを読む - ★★★ Excellent!!!怖いのに、読み終えると町を大切にしたくなる怪異譚
瀬戸内の港町・帆ノ緒市を舞台に、喫茶あさがお、坂道、祭り、旧映画館通りなど、町の中に残る小さな怪異と向き合っていく物語です。
この作品を読んでいて強く感じたのは、怪異そのものの怖さ以上に、「町に残ってしまったもの」へのまなざしの優しさでした。
帰り道がずれる子どもたち。
どこか落ち着かない灯り。
届かなかった言葉。
受け取りに来なかった写真。
どれも派手に襲いかかってくる恐怖ではありません。
けれど、日常の中にほんの少しだけ混じった違和感が、静かに、確実に胸の奥へ残っていきます。
凪紗は怪異を力で祓うのではなく、向きや順番を読み、返すべきものを返していく。
柊羽は紙や記録、人の言葉を…続きを読む - ★★★ Excellent!!!心地よい不穏さと懐かしい匂い
瀬戸内の港町を舞台にした物語は、日常の小さな異変が描かれます。
帰り道が少しずれたりといった異変が続くと不気味さが増し、どんどん物語に引き込まれました。
ただ特徴的なのが、不気味さの中にも風景がどこか懐かしく、港町の穏やかな空気を感じ取れるところ。
そういった空気づくりが秀逸で、不穏でありながらの心地よさを読みながら感じたものです。
印象的だったのは、柊羽のもとへ「削除したはずの動画が消えない」と連絡が入り、不可解なコメントが次々投稿され始める場面。
現代のSNSや動画配信を通じたゾクリとする恐怖と、さらなる異変の広がりという構成の巧みさに驚きました。
まだ拝読の途中ですが、決し…続きを読む - ★★★ Excellent!!!民俗学ホラー×喫茶店ファンタジー
本作は、敵を退治するようなオカルトアクションではなく、主人公たちが町の言い伝えや順番を読み解き、ずれてしまった出来事に“置き場所”を与えるという、理知的なミステリー的要素をもつ一作です。
怪異を「倒す」のではなく「還す」という独自の民俗学風アプローチに加え、バディ要素もあり、お互いを補い合いながら町の調和を保っていく展開もまた、本作の魅力の1つと感じます。
作者様の手腕は、作品の空気づくりです。
喫茶店や古い街並み、祖父の日記を紐解く様子など、全体に漂う静かで、読み手は読み進めるほどにノスタルジーを感じる構造となっております。
瀬戸内の静かな港町を舞台に、記録を綴る青年と怪異を司る恋人…続きを読む