概要
雪降る金沢、武満徹、八年弾かなかった男。届く前の音が、ここで溶ける。
金沢の冬は、雪が降ると音の輪郭がふにゃふにゃになる。消えるわけじゃない。届く前に、溶けるのだ。
十一月の終わり。私は兼六園の外周を、わざわざ身体を芯まで冷やしながら歩く。古いビルの四階にある、ピアノ講師・桐生誠司(きりゅうせいじ)のレッスン室に、外の冷気をそのまま連れていくために。それが「音楽のため」だと、自分に言い聞かせながら。
桐生はかつて、ウィーンの国際コンクールで三位を獲りながらも、「自分の音が自分に届かなくなった」として、八年もの間、舞台から姿を消した男だった。
二人が向き合うのは、武満徹の『雨の樹素描』。
音と音の間の、何も鳴っていない「空白」に、ただ水を貯めるように時間を積み重ねていく。
冷気を通して繋がる二人の、言葉にならない打鍵の音。
やがて桐生は、静かに告げる。
「秋に、
十一月の終わり。私は兼六園の外周を、わざわざ身体を芯まで冷やしながら歩く。古いビルの四階にある、ピアノ講師・桐生誠司(きりゅうせいじ)のレッスン室に、外の冷気をそのまま連れていくために。それが「音楽のため」だと、自分に言い聞かせながら。
桐生はかつて、ウィーンの国際コンクールで三位を獲りながらも、「自分の音が自分に届かなくなった」として、八年もの間、舞台から姿を消した男だった。
二人が向き合うのは、武満徹の『雨の樹素描』。
音と音の間の、何も鳴っていない「空白」に、ただ水を貯めるように時間を積み重ねていく。
冷気を通して繋がる二人の、言葉にならない打鍵の音。
やがて桐生は、静かに告げる。
「秋に、
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