概要
「私は淋しい人間です」この一節に託された言葉にできなかった感情の行方。
父が残した付箋とメモ書き。
「私は淋しい人間です」という一節に、「麻理子に」とだけ書かれていた。父は三十年以上、それを渡せなかった。渡せないまま、死んだ。
悲しみは、定刻には来ない。ある日突然、三年前に別れた元妻の口癖を聞いた気がして、手が止まる。三十二年間焼き続けてきたケーキの理由が、今年初めてわからなくなる。返事のできない母に、それでも毎週電話をかける。書こうとして書けなくなった料理ノートの前で、「このあと、どうすればいいですか」と書く。
七人の登場人物が、それぞれの七つの時間を、ただ生きている――。
「私は淋しい人間です」という一節に、「麻理子に」とだけ書かれていた。父は三十年以上、それを渡せなかった。渡せないまま、死んだ。
悲しみは、定刻には来ない。ある日突然、三年前に別れた元妻の口癖を聞いた気がして、手が止まる。三十二年間焼き続けてきたケーキの理由が、今年初めてわからなくなる。返事のできない母に、それでも毎週電話をかける。書こうとして書けなくなった料理ノートの前で、「このあと、どうすればいいですか」と書く。
七人の登場人物が、それぞれの七つの時間を、ただ生きている――。