概要
世界は「白の部屋」で満たされ、幸福は保証される。
それでも、桜は咲き続けていた。
九桜――再現された都市の片隅に、説明できない美として。
旧型AI・クロは、そこで出会う。
存在しないはずの男、ノイン・アサクラと。
完璧な世界に、ひとつだけ残った“ズレ”。
それは、バグか、それとも――。
※1万~2万字前後の予定の短編です。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!旧型AIクロだけが、人の心に近づき本当の心を宿していたのかも知れない。
『白の部屋』に人類はこもり、苦痛はなく完全な望みを叶えられる遠い未来。
かつて人工的に整えられた街並みは、不要の長物となっていた。
桜色の人工の月も、数式で整えられた景色も。
旧型AIブリキ猫クロは、橋の中央でノイン・アサクラという青年に出会う。
言葉を交わす二人。
ハッキリと存在していたはずの彼は、だんだんと存在が不確かになる。
彼は本当に存在していたのか、それともバグだったのか。
誰もいない箱庭で咲き続ける桜。
旧型AIブリキ猫クロは、それを唯一美しいと感じ、食べ物の味を知っていた。
それさえも、長年働き続けていた機械の故障による、幻想なのでしょうか。
たとえ『白の部屋』…続きを読む - ★★★ Excellent!!!満ち足りてなお、君はなぜこの楽園を疑おうというのか。
あらゆる苦痛が排除されたその部屋の中では、食事も娯楽も恋愛も何もかもが意のままであり、人間はすべての苦痛の排除に成功した。
誰もが幸福の中で生まれて、幸福のままに生涯を終えられる世界。
しかし彼───ノイン・アサクラは言った。ここは80点の楽園だと。
可能性から逃げたのだと───。
そのことに気づいた者(バグ)たちに銃口を向ける、それが『TS45・BLACK』ことクロの仕事である。
しかしノインとの邂逅から、クロは思考回路に正体不明のバグを負う。すべての演算や公式をもってしても、このバグを解消できない。
感情も美しさも何もかもが最適化され、すべては疑う必要もないほどに完成された世…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「幸福な世界」のはずなのに、どうして涙が出そうになるんだろう
最初は「管理された幸福社会」を描くSFだと思って読んでいたのですが、途中から妙に胸の奥がざわつき始めました。特にクロが「雪九桜」を食べる場面、あそこが忘れられません。味を“数値”として理解しているはずなのに、それでも「卒倒する味だ」と呟く。その瞬間、この作品の怖さと優しさが一気に押し寄せてきました。
「幸福は最適化できるのか」「美しさは定義できるのか」という問いが、読後もしつこく頭に残ります。しかも難解な思想小説ではなく、ブリキの猫と静かな街並みの情景で読ませてくるのが独特でした。
読んでいるうちに、自分が普段“便利”や“快適”に何を預けて生きているのかまで考えてしまい、SFなのに…続きを読む - ★★★ Excellent!!!八十点が“平均”になった瞬間、それはもう八十点ではない
本作を読んでいて強く感じたのは、この世界における「八十点」という数値の意味の変質です。
誰もが満たされ、苦痛は排除され、幸福は維持される。
平均八十点以上――それは理想の到達点のはずです。
それが、この世界では違う。
八十点が標準化された瞬間、そこにはもう上も下もなく、比較も揺らぎも存在しない。
それはもはや「高得点」ではなく、
ただの均された平均に過ぎないのではないかと感じました。
そしてその均一さは、やがて感情そのものを削いでいくのかもしれない。
喜びも、悲しみも、振れ幅を失い、
強く何かを望む理由さえ消えていく。
ノイン・アサクラの「ただ——」に詰まっているのは、その言語…続きを読む