性別転換キャンディ

川北 詩歩

復讐のために

 綾人は薄暗い部屋で、ノートパソコンの青い光に照らされていた。怪しい通販サイト「damason」の画面には、派手なピンクのポップアップが踊っている。


「性別を変えちゃう不思議なキャンディ!異性になってやってみたいこと…ありますよね?」

「開発途中のため、効果は7日間。今なら1500円でのご提供!」という煽り文句が、妙に心をざわつかせた。


 綾人はため息をつき、画面をスクロール。幼馴染みの皓人ひろとが、綾人の思い人である瑠美を奪ったあの瞬間が脳裏に焼き付いていた。皓人のあの自信満々の笑顔、瑠美の少し照れたような微笑み。あの光景を思い出すたび、胸が締め付けられる。


「復讐してやる!」


 そう呟き、衝動的に購入ボタンをクリックした。





 翌日、小さな包みが届いた。中にはピンクと青のマーブル模様のキャンディが一粒。説明書には「舐めると即座に性別が反転。効果は7日間」と書かれているだけ。


 綾人は半信半疑でキャンディを口に放り込む。すると、甘酸っぱい味が広がり、突然身体が熱くなった。鏡を見ると、そこには見知らぬ美しい女性が映っている。長い黒髪、華奢な体つき、大きな瞳。綾人は「彩花」と名乗ることにした。


 彩花として街に出た綾人は、さっそく皓人に接触した。カフェで偶然を装って声をかけると、皓人は一瞬で彩花に目を奪われた。「めっちゃタイプなんだけど」と、皓人のいつもの軽い口調が、なぜか本気じみて聞こえた。綾人は内心ほくそ笑んだ。



――計画通りだ。皓人を虜にし、瑠美との関係を壊してやる。




 彩花として皓人と過ごすうち、綾人は予想外の事態に直面した。皓人が彩花に本気で惹かれ始めたのだ。夜のバーで、皓人は酔った勢いで「彩花、俺、お前とずっと一緒にいたい」と囁いた。


 綾人の心は揺れた。復讐のはずが、皓人の熱い視線に彩花としての自分がどこか心地よさを感じてしまう。


 5日目の夜、皓人の部屋で二人は一線を越えた。綾人は混乱した。復讐のはずが、こんな関係になるなんて。


 7日目の夜、綾人は皓人の部屋にいた。キャンディの効果が切れる前に、綾人は全てを告白しようと決めた。「皓人、実は…」と切り出した瞬間、皓人が遮る。


「彩花、お前が欲しい。俺だけのものになってくれ」


 その目は異様に輝き、狂気を帯びていた。綾人はゾッとした。皓人は彩花への執着を抑えきれず、異常なまでに独占欲を膨らませていたのだ。


「他のやつに渡したくない。彩花、俺と一緒に…」


 皓人はナイフを取り出した。綾人は逃げようとしたが、皓人の力に敵わなかった。


「一緒に死のう。永遠に俺のものだ。」


 その言葉が響く中、皓人は彩花を抱きしめ、ナイフを振り下ろす。


「い、いや…!!」


 一瞬の激痛の後、綾人の意識は薄れ、キャンディの効果が解ける瞬間、元の姿に戻った。皓人の腕の中で綾人は息絶えた。皓人も自ら命を絶ち、二人は血に染まった部屋で永遠に寄り添った。


 夜の静寂が、狂気と悲劇の終幕を包み込んだ。


(終)

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