第4話 黒砲軍入団

「愛の呪いだ」


 僕はその言葉を聞いて正直ポカンとしていた。

(この人は何を言っているんだ)

立ち上がった望霊は僕を見て頬を膨らませる。

「ちょっと、馬鹿にしているでしょ!」

六条は笑いをこらえながら、

「まぁ、言いたいことはわかる」

そして、息を整えてから、

「ただ…合ってるちゃー、合ってるんだよな~」

(合っている?)

僕はまだピンとこない。

 すると、突然、六条はどこからか取り出したクラッカーを鳴らし、あたりに紙吹雪が舞う。

「おめでとう、そしてご愁傷様」

六条は哀れみを僕に向けてくる。

その言葉を聞いた、頬を膨らませていた望霊は、

「なに言っているのよ!素晴らしいことじゃない!」

と、目を輝かせるが、

「何言ってんだ。望霊の恋愛なんてろくなもんじゃね~ぞ。」

と、六条は顔をしかめる。

「な~に言ってんのよ、ダーリン♥」

「だから、お前の伴侶になったつもりはねぇって言ってるだろ!」

と、目の前の2人は言い合いを始めてしまう。

ふと、2人の顔に目をやると、瞳の色が六条は赤、自称影月の嫁はピンクに変わっていた。


 しばらくの間、言い争いは続いていたが、落ち着いた時期を見計らって

「あの~、僕が軍に入る手続きって...いつやるんですか?」

そういうと、六条はこちらに向き直り、

「お前まだいたのか」

と、言っている顔は全く気にされていなかったようだ。

すると、目の前の人のお嫁さんかもしれない望霊は

「そんなこと言わないの影月」

そういって、くるりと振り返ると、

「自己紹介がまだだったわね。秋葉 桜、影月のお嫁さ…」

そう言いかけたところで、六条が秋葉を首根っこをつかんで引きずっっていく。

僕は急いでついていく。


 六条は秋葉を引きずりながら、ずんずん歩いていき、検査室と書かれたプレートがある部屋に手をかざし、自動で扉が開くとその中に入っていった。

その部屋には黒い機械がいくつか並べらただけの部屋だ。

六条はこちらに振り返るとは~とため息をつき、

「本来ならお前の手をこの機械にかざして終わりなんだが…」

そういいながら、隣の機械をいじっている。

「お前が呪われているせいでそのまま触れるとこれが壊れる可能性がある」

いじっていた機械が起動し、青白い光が手をかざすのであろう部分に照射される。

「というわけで…」

そういって、僕の腕をつかむ。

「大っ変めんどくさいが中和してやる。ほら、さっさっとやるぞ」

と、言って目の前の機械に僕の腕を突っ込む。

つかんでいる六条の手には無数の閃光が降り注いでいるが、それらはその手に吸い込まれているのが分かった。

10秒くらいたつと機械から照射されていた光が消え、同時に僕の腕が機械から遠ざけられてから、解放される。

六条は一息ついてから

「これで終了っとこれをもってお前は正式にこの軍に仲間入りだ」

と、使っていた機械をつつきながら言う。

それを見かねた秋葉が

「あなた、もう少し嬉しそうにしなさいよ」

と、いうが

「こいつは仕方なくここに来させたんだ、当人が喜べねぇのに俺が喜んでどうすんだ」

そういって立ち上がると、こちらに向き直った。目は少し赤みがかっている。

「あと、俺はお前の夫じゃねぇ」

と、言い、すたすたとその場を後にしてしまった。

「も~、素直じゃないんだから~」

と、明るく言う秋葉は少し下を向いたがすぐにこちらを見て、

「じゃあ、規則と注意点を教えるわね」

と、僕が何か言いだす隙を見つけられないくらい矢継ぎ早に話し始める。

「まず、規則ね」

「まずここのルールから、1つ、罪なき人に危害を加えてはならない」

「2つ、身内同士の戦闘は許可された場所以外でしてはいけない」

「3つ、このルールを破ったものは連行それができなければ排除しなければならない」

「これだけね」

僕はルールの少なさに若干戸惑る。

それをわかってか、

「驚くのも無理はないけどあんまりルールがあると回らないというのがのが本音ね」

と、少し困ったように言う。

「気を取り直して、今度は日本の3勢力の停戦条約をざっくり確認するわ」

「まず、日本の3勢力は停戦しているけれど戦闘を禁止されているのは領土内の戦闘と占領・略奪行為だけで、海上ではいまでも小競り合いは続いているから海岸の近くでは気を付けてね」

「まあ、それくらいね。多分、学校で習ってるでしょ。」

「それで~、注意点なんだけど…」

と、言い、次の話を始めようとする秋葉に心の中でもっとあるだろと突っ込みたくなる。

そんなことも気にせず目の前の望霊は続ける。

「私個人の意見なんだけど、変な視線を少しでも感じたらすぐ誰かのところに逃げ込みなさい。特に新人の内はね」

「さもないと連れてかれて奴隷にされて、使いつぶされるから」

僕は不思議だった、こんな呪い付きに寄り付く物好きがいるとは思えなかったからだ。

「不思議そうな顔をしているわね」

「無理もないけれど、ここにいるのは人間の感情のブレーキが壊れた望霊ばけものの集まりだからよくて軽くひるむくらいで格好の的なのには変わりないわ」

秋葉はまた困った顔でいうが、すぐに笑顔に戻る。

「ほかに質問はないかしら」

僕は気になっていることを聞いた。

「身分証をもらってないのですが忘れてませんか?」

返事はあっさりとしていた。

「ないわよ」

そう言った秋葉は続けて、

「だって、この領土で勝手なことをやったら、影月に排除されるからね」

「結局、味方であろうと敵であろうと規律を破れば潰されるから、必要性が薄いってわけ。わかった?」

僕は顔をこわばらせながらうなずいた。

 少し間があいて秋葉は手をぱちんとたたくと

「はい、じゃあこれでおせっかいお姉さんの説明はおしまい」

と、言った。心なしか肩の力が抜ける。

が、その力の抜けた腕をグイっと引っ張られる。

引き抜こうとすると、腕にツタが絡みついてくる。

そのままグイグイ引っ張っていく秋葉は

「じゃー、続いて施設案内へしゅっぱ~つ」

と、言い。そのまま僕を連れていく。


 このひとに悪気はないと思いながらも、やはりあの注意点はあながち間違いではないのだろうと思った。



ほぼ同時刻 日本天使軍本部


 入隊式が執り行われる本日入隊する5人の内一人に七門色葉がいた。

彼女の心の中で耐え難い悲しみと明確な怒りが渦を巻く。

そんな中、壇上にイザナミが登場し、柔らかな笑顔で代表者として挨拶を述べ、彼女らを迎え入れる。

 しかし、その目はいたずらを計画する悪童のような視線を七門に向けていた。


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なれの果ての黙示録 @iu_karasu

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