第12話(最終話) 静かな光

俊介は、地域の文芸サークルでの活動を続けながら、少しずつ生活を整えていった。


生活保護を受けながらも、文章を書くことで社会とつながり、誰かの心に触れることができるようになった。


ある日、彼の作品が地方紙に取り上げられた。「人生の再起を描く、六十代の新人作家」として紹介されたのだ。


その記事を見た近所の人が声をかけてくれた。「俊介さん、読ませてもらいました。心に沁みました」


俊介は、照れくさそうに笑った。かつては誰にも認められなかった自分が、今は誰かの『共感』を得ている。


それは、彼にとって何よりも大きな救いだった。


春のある日、俊介は図書館の窓辺で原稿を書いていた。外では桜が咲き始めていた。


彼はふと、ペンを止めて窓の外を見た。


「人生って、思い通りにならないことばかりだった。でも、思い通りにならないからこそ、意味があるのかもしれない」


彼は、これまでの人生を振り返りながら、静かに微笑んだ。

失敗も、後悔も、孤独も、すべてが『今の自分』を形作っていた。


俊介は、最後の一文を書き終えた。

「僕は、ようやく生き始めた気がする」


その言葉は、彼自身への祝福だった。

そして、読者への静かなメッセージでもあった。


窓の外の桜が、風に揺れていた。


俊介の人生は、静かに、しかし確かに『光』を帯び始めていた。


― 了 ―


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『逃げ続けた僕が、立ち止まった日』―人生の再起を描く、静かな魂の記録― @k-shirakawa

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