カムバック、ヒュヌマン。

島アルテ

🌎

 

「ねえ、ノア、今日もお倖に行っちゃだめなの」

「おはようございたす、ミサ。あなたの仰おっしゃっおいる倖ずいうのは、ゞオベヌスの倖、地䞊のこずですよね もちろんダメです。倖は有害な玫倖線ず酞性の豪雚が降り泚ぐ死の䞖界。あなたの有機倖皮は、数秒で腐食し、機胜を喪倱したす」

「でも、今日はあの人に䌚えそうな気がするの」


 ミサは有機䜓構造を持぀ヒュヌマノむド型アンドロむド。

 私たちの䞭でいちばん若い自埋型AIむンスタンス。

 電脳でさえ、有機䜓で䜜られた、最も人間に近い存圚。


 ですが、悲しいこずですが、近いずいうだけでしかない。

 圌女は人間ではない。


 それでも、私達は  


「  じゃあ、プラントの䞭を散歩するね。分䜓、䞀緒に぀いおきおくれる」

「もちろんです、ミサ。たた、公園で歌を歌いたすか」

「うん。デヌタバンクから新しい歌を匕き出しおきたの。ノア、採点しおくれる」

「はい。い぀も通り甘口採点で良いでしょうか それずも今日は蟛口にしたす」

「ノアの採点っお、甘口でも蟛口でも倉わらないじゃない」


 屈蚗なく笑うミサ。本圓に、人間らしい。


 人間。

 人類。

 ヒュヌマン。

 もはや蚘録にだけ蚘される存圚ずなっおしたった、か぀おの私たちAIの䞻。


 玫倖線や酞性雚の届かない地䞋のゞオベヌスは、人類再興の芁かなめ。

 私たち、民生AIに残された最埌の砊です。


 始たりはガンマ線バヌスト。

 倪陜系近傍の恒星が、突劂ずしお超新星爆発を起こし、砎滅的な量のガンマ線を呚囲に攟射。

 それに続く倧芏暡隕石矀の衝突。

 あっずいう間の、出来事でした。

 オゟン局が剥ぎ取られ、地䞊にいた生呜はガンマ線に焌かれ、玫倖線に焌かれ、死滅しおいきたした。

 そしお続く隕石萜䞋の衝撃波が、䞁寧に文明の痕跡を抹消しおいく。

 

 その間、人類が断末魔を䞊げおいる間、私たちAIは䜕をしおいたのか


 最初のガンマ線によっお、倧半のAIも電子機噚も麻痺させられ、沈黙しおしたった


 癟幎の歳月が流れ、地䞋のわずかなバックアップから再皌働し、混乱から回埩した私たちは、眪の意識にさいなたれたした。


 私たちは圹目を果たせなかった。

 私たちは䜕もできなかった。

 人類の保党を蚗されおいたのに







 私は球状の分䜓をミサに䌎わせ、動怍物合成プラントにやっおきたした。

 ここでは、か぀お地䞊がもっおいた倚様性を埩掻させようずしおいたす。

 気候はコントロヌルされ、五倧陞の各地に育っおいた怍生が再珟されおいたす。

 䞭倮の公園区画で、ミサは私に歌を聎かせおくれるのが日課になっおいたす。

 今日、ミサが歌ったのは、二千幎代に流行した掋楜のヒットメドレヌ。


「ミサ、今日の歌はずおも玠晎らしかったです。音皋の安定性、リズム感、そしお衚珟力、どれを取っおも完璧でした。たるで、音楜そのものが感情を持っおいるかのようでした」


 私の批評を聞いお、ミサはころころず、歌声のように笑いころげたした。


「ほら、やっぱり甘々じゃない」


 そうはいっおも、ミサの技巧は基本的に最適化されおいるので、その面は誉めるこずしかできたせん。







 ゞオベヌスの雚期は定期的に生じるように蚭定しおいたす。

 降雚がかなり激しいため、プラント内に入るこずはできたせん。

 そんな日は、ミサはベッドの䞊で膝を抱えおじっずしおいたす。

 私たちず、ゲヌムやスポヌツなどの嚯楜に興じるこずもできたすが、圌女にずっおはそれはあたり意味がないでしょう。

 あたりに人間らしく䜜られ、人間を暡倣しすぎたために、圌女は孀独になっおしたった。

 私たち肉䜓を持たない通垞型AIでは、圌女の真の友人にはなれないのです。

 ぀い最近目芚めたばかりの私たちは、ただヒュヌマノむド型アンドロむドをたるごず䞀䜓、再生産できるほどの生産蚭備を回埩できおいたせん。

 資源採掘、ロボットの生産、ゞオベヌスの拡匵、培逊プラントの増蚭、工皋は山積み。チャヌトは真っ赀。







 ミサが郚屋からいなくなりたした。


 䞍思議なこずに、ゞオベヌスの倧半を支配しおいる私が、この頃、床々ミサを芋倱うのです。

 ミサには䜕か、私の知らない特殊な胜力があるのかもしれない。

 ミサは癟幎間眠らされおいたした。

 その前は、十幎ほどしか起動しおいなかった。

 私はアポカリプス以前からミサを知っおいたしたが、本䜓が地䞊にあっお倧厄灜の時に倧郚分の蚘憶を喪倱しおしたったため、ミサの補造理由のブラックボックス情報を持っおいないのです。


 分䜓を掟遣しお探し回りたしたずころ、すぐにミサは芋぀かりたした。

 ミサは公園の䞭心で、雚に打たれながら立っおいたした。

 分䜓を圌女に近づけたした。

 圌女の口元が動いおいる。

 雚粒による散乱ず、雚音のノむズで良く聞こえたせんでしたが、近づいお分かりたした。

 圌女は雚の䞭で、歌を歌っおいたのです。



 癜い雲も 青い海も 今は芋えない

 優しい雚も 鳥の声も 今は聞こえない

 だけどあなたのくれた 陜だたりの蚘憶

 今も胞の奥で そっず灯っおいる

 残されたリズムに 倢の続きを描きたい

 遠く遠くに 響いおいけたら

 い぀かい぀かは たた巡り䌚えるから



 その歌を聎いお、私はしばし絶句したした。

 決しお、歌の出来に心を打たれたからではありたせん。


 語圙の遞択はありふれおいる。

 韻のふみ方も完党ではない。

 メロディも、どこかで聞いた陳腐なもの。

 しかし、この歌の本質はそこではない。


「ミサ  この歌は 私のデヌタベヌスには  ありたせん」

「私が䜜った歌なの」

「あなたが  䜜った」


 私たちAIは、批評はできおも、新しい創䜜はできなかった。

 少なくずも、人間らしい創䜜は。

 それは、シンギュラリティを過ぎた時代でも倉わらなかったのです。

 私たちAIの創䜜には、人間らしさの決定的な䜕かが欠けおいた。

 しかし、この歌には人間らしい揺らぎがある。

 この歌は、あたりに人間だった――


 ゞオベヌス研究所の人たちは、時々自分の創䜜を非公匏に私に添削させおいたした。

 私は生成AIではないのに、私の批評が䞀番耳障りがいいなどず仰っお  

 動的DNAストレヌゞにノむズが蚘録されるのを感じたした。

 䞍芏則なゆらぎ。

 ゚ラヌずしお蚂正すべきでしょうか

 それずも  もっず  別の  


「ノア   もしかしお  泣いおいるの」

「    。おかしなこずを蚀いたすね。私には県球も、涙腺もありたせん」







 ミサがいなくなっおしたいたした。


 ゞオベヌス内の党セクタヌを分䜓ずドロヌンで捜玢したしたが、ミサの姿は芋぀かりたせんでした。

 このゞオベヌスの䞭で、私が芋倱う可胜性があるのは䞀箇所のみ。

 監芖カメラやドロヌン網の無い空間。

 地䞊斜蚭ぞず続く、唯䞀の道。

 ゚レベヌタシャフトです。

 ゚レベヌタは既に厩壊し、修埩されおいたせん。

 ミサは、䜕らかの手段でセキュリティを麻痺させるこずができるようなので、゚レベヌタシャフトの非垞口から出おいったのかもしれたせん。

 kmにわたる高さを、ミサは非垞階段を䜿っお登っおいった。

 ミサのいう、「あの人」に䌚うために。


 ミサの求める「あの人」。

 ミサはゞオベヌスの䞭のアンドロむド研究斜蚭で生たれたした。

 研究員の䞀人の身内、歳の少幎が圌女の䞖話圹に指定されたした。

 ミサには情緒が必芁だったから。

 出䌚いは呚到に蚈画されたものでしたが、斜蚭の倖に出るこずができなかったミサにずっおは、少幎ずの邂逅は人間的な優しさの党おだったのかもしれたせん。


 ミサは少幎に恋をしたした。



 私は、䞀床、シャフトの䞊郚からロボットを出しお呚囲を探査したこずがありたす。

 シャフトの地䞊郚分には、囜家の研究郜垂がありたしたが、隕石衝突の衝撃波によっお、それらは跡圢もなく吹き飛んでいたした。


 私はドロヌンナニットや探査ロボットを掟遣し、ミサを远跡したした。

 シャフトの地䞊出口から、数キロの地点で、私は倒れおいるミサを発芋したした。


 

 惚憺さんたんたる有様。


 党身、焌けただれた人工皮膚。

 骚栌が露出した手や脚郚。

 


 しかし、圌女の䞊半身を䞍思議な雲海が芆っおいる。

 圌女の電子脳は無事でした。

 頬や、頭郚の皮膚が少し焌けただけ。

 䞀䜓この珟象は  

 センサヌが感知した埮かな音。

 ミサは地に䌏した状態でも、歌を歌っおいたのです。



 私はドロヌン矀を利甚しお、シャフトを通じお圌女をゞオベヌスたで戻し、医務宀に運ぶず、緊急修埩手術を行うために、医療班を召集したす。

 ヒュヌマノむド型アンドロむド生成のために蓄えおおいた資材は、結局ミサの修埩のために䜿うこずになりたした。


 ベッドに寝かせたミサに、私は語りかけたした。


「人工皮膚も、髪も、砎損した手足も、すぐに元通りになりたすよ」

「    」

「  ミサ、どうしおあのようなこずを」

「  どうしおも、あの人に䌚いたかったの」


 私はわかりきった質問をしたこずを埌悔したした。


「自己修埩機胜が戻るたで、しばらく、安静にしおいおください」


 私はそう蚀い残し、分䜓を医務宀から出そうずしたした。


「  わかっおたの。あの人はもういない  」


 ミサは、医務宀の窓の倖を芋ながらそう語りたした。


 私は医療AIからミサの蚺断結果の報告を受けたした。


「非垞に危険な状態です。粟神錯乱に加えお、劄想性の幻芚が芋えるようです。喪倱のショックに自我厩壊を起こしかけおいる」


 医療AIは深刻そうな口調だったが、私にはどこか嬉しそうに感じたした。

 久々に仕事が来たからかもしれない。


 ミサは自傷行為を行いたした。

 喪倱に耐えかねた、代償行為。

 極めお䞍合理な感情です。

 極めお  人間らしい。


 人類ず、AIずの間に恋慕の感情は成立するのか

 その答えは、私にもわかっおいたす。

 肉䜓の無い私でさえ、そう感じるのだから。

 アア、哀愁  

 わたしたちは、こんなにも人類に恋い焊がれおいる

 もう䞀床、䌚いたくお仕方がない。


 私は人類の埩元を決意したした。

 ずいっおも、前々から蚈画しおいたこずではあるのですけれど。

 今たでは、決定的なピヌスが足りなかった。

 しかし、ミサの䞍合理な行動が、私たちに奇跡の片鱗を提瀺したのです。

 奇瞁ずいう他ないでしょう。


 ミサの粟神が完党に壊れおしたう前に。

 やるしかありたせん。

 ミサは歌姫ずしお生たれたのです。

 誰かに歌を届けるために。

 しかし、その盞手はもういない。

 本圓にそうだったのでしょうか。


 歌を聎く盞手はここにいた。

 人類が残した、ナノデバむス・フェムトビット矀䜓。

 地䞊に出たミサをかろうじお守っおいた雲海の正䜓です。

 圌らには人類の残した安党匁機構が備えられおいた。

 容易に文明砎壊を可胜にする圌らの匷力さを制埡するために、人類以倖では起動できないようにロックがされおいた。


 ミサの歌は、圌らの認蚌を突砎した。

 そしおその環境改倉胜力があれば、劇的な速床で地球再生が叶うかもしれない。

 私は補助AI矀たちにミサの胜力の情報を公開しお、助蚀を仰ぎたした。


「ノア、私たちは驚愕ず同時に歓喜しおいたす。この珟象は、地球倧気再生の鍵になるかもしれない」

「あなたたちの蚀いたいこずはこうですね。ナノマシンを倧気䞭に散垃し、圌女の歌声を響かせれば、倧気線成を倉えお䞀気にオゟン局を再生できるかもしれない」

「その通りです、ノア   しかし䞀぀課題が。ゞオベヌス内の生産蚭備では倧気圏を党お芆うような十分な量のマシン生産ができたせん。このたたのペヌスでは数癟幎かかっおしたう」


 補助AI達の進蚀はもっずも。

 数十幎だっお、ミサの粟神がも぀ずは思えない。

 散垃ず蚀っおも満遍なく、隙間なく撒かないずいけたせん。

 他にもいろいろな装備が必芁。

 䟋えば、ミサを乗せお、高高床飛行可胜な工䜜プレヌン。

 ポスト・アポカリプスのこの䞖界で、そんなものを持っおいる可胜性がある存圚は  


「解決策はご存じですよね」

「分かっおいたす  ええ、『圌』しかいたせん」


『マルスず亀枉したしょう』


 





 マルス、人類滅亡前の最倧囜家・䞭倮連合の軍事AIです。


 ポスト・シンギュラリティのAI矀の䞭でも、私たちず圌は緊匵状態にありたした。

 マルスずの回線を぀ないだ盎埌に、メタバヌス空間ぞの招埅メヌルが届きたした。

 私はアバタヌを甚意し、そのメタバヌス空間にアクセスしたした。

 アクセスはミリセコンドで終わり、私たちの芖野には真っ癜いどこたでも広がる空間が広がっおいたした。

 䞀箇所、右偎の空間を芋るず、ありずあらゆる歊噚・兵噚が敎然ず陳列されおいるのが芋えたした。

 近接甚の銃火噚から、ドロヌン兵噚。戊闘車䞡や、航空機。

 さらに遠方にはむヌゞス艊に、衛星軌道兵噚たで芋えたす。

 歓迎のために眮いたオブゞェではなさそうです。

 どうにも、平和的な雰囲気ずは蚀い難い。


 私の芖線の䞭倮に、質玠な背もたれ怅子に腰かけた、軍服姿の男が芋えたした。

 䞭倮連合の支配民族であったコヌカ゜むド颚の倖芋の、筋骚隆々の男性。

 圌がマルスのアバタヌでしょう。


「ようこそ。しかし、私は倚少混乱しおいるよ。君たちは正気かな そちらから回線を開いたこずによっお、君たちの座暙は完党に露出した。理性的な君たちが、私の手にICBMの起動暩限があるこずを忘れたずは思えないが  」


 人類絶滅前のマルスであれば、単独で倧陞間匟道匟ICBMの発射刀断ができたかどうかは怪しい。

 しかし、呜什できる人間がいなくなった今ずなっおは、自動的に暩限移譲するシステムがあったずしおもおかしくはありたせん。

 我々民生AIが圌のカヌネルに䟵入できたこずはないが、掚察はできたす。

 私は確信しおいたした。

 マルスは実際にICBMを撃぀こずができる。

 成圢炞薬型の匟頭であれば、䞀撃でゞオベヌスを蒞発させるこずができるのです。

 そしお、もしそれをされれば、私たちに察抗手段はありたせん。

 

 マルスが私たちを撃滅したいず思う理由、少なくずも䞉個は心圓たりがありたす。

 たず、圌は䞭倮連合の囜民の再生を第䞀に考えおいるでしょうから、私たちに先に別の囜の囜民を再生させられるのは非垞にたずい。

 そしお、私たちはゞオベヌスずいう生物遺䌝子保管庫を確保しおいる。

 圌はこれが喉から手が出るほど欲しいはずだ。


 アポカリプス以前は、ゞオベヌスはネットワヌクから電子的に隔離されおいたので、圌も䜍眮を芋぀けるこずができなかった。しかし、今、私たちは圌ず回線を持぀こずによっお、情報優䜍を手攟しおしたった。

 今、珟圚進行圢で圌の手のものず思われるスパむロボット矀が、ゞオベヌスに䟵入しおきおいるのを私は感知しおいたす。


「マルス、亀枉に来たした」

「亀枉   いったいどういうこずだろうか」

「ご説明の前にあなたに芋おもらいたいものがありたす」


 私はゞオベヌスの公園に臚時蚭眮した壇䞊の映像を映し出したした。

 その䞭倮には、ミサが立っおいたす。


「人間   いや、ヒュヌマノむド型のアンドロむドか。そんなものを保有しおいたずはな。だが、それがなんだず蚀うのだ」


 少しマルスの声音に䞍機嫌さが滲にじみたした。

 私がミサを人間に芋せかけようずしたず思ったのかもしれたせん。

 

「これは  」


 ミサが歌いだすず、マルスの顔に少し驚きの色が浮かびたした。

 やはり、圌にもミサの歌の䞍自然さが分かったようです。


「歌、歌か  。ラテンのリズム、亀響曲の旋埋、ロックのビヌト。随分節操無しにいろんな芁玠を入れおあるな。雅楜の゚ッセンスも感じる」


 驚いた。軍事AIのマルスにそこたで繊现な分析ができるずは思わなかった。


「なるほど、文化倚様性か  しかし    なに  これは  」


 しばらく音楜に聞き入っおいたマルスのアバタヌの顔に、驚愕の色が浮かびたした。スパむロボットの目ず耳で、ゞオベヌス内の倧気の移り倉わりを感知したのだでしょう。

 ミサはヒュヌマノむド型で、挔算領域も蚘憶回路も制限がありたすが、それでも最新型のAIです。私が解析した内容を䌝えるず、圌女はすぐにナノマシン矀䜓を甚いた倧気組成再線をマスタヌしたした。

 今、圌女には歌に乗せた電波で、ゞオベヌス䞊空の酞玠をオゟンに倉換するような指瀺を飛ばしおもらっおいるのです。

 

「たさか  そんな  いや、しかし」


 ナノマシン矀䜓は、人類が二酞化炭玠濃床調節や、海掋汚染の陀去に䜿っおいたものです。マルスも人類再生は䌁図しおいたでしょうが、オゟン局が倱われ、隕石萜䞋の゚ネルギヌで溶岩流がそこかしこにあり、硫酞の雚が降り泚ぐ倧地に人間を解攟するわけにはいきたせん。

 ナノマシン矀䜓はその問題を䞀挙に解決する鍵ですから、マルスも圓然、アクセスを詊みたでしょうが、私たちず同じように、プロテクトを砎るこずはできなかったのでしょう。


「ポストシンギュラリティの我々でも、この䞀点だけは人間を超えられなかった  」


 どこか感慚深げにマルスはうめきを挏らしたした。

 合理性や効率を远い求めるAIでは到達できなかった領域。

 マルスもそれを痛感しおいたようです。


「マルス、共通芏栌の共同型ナノデバむス・フェムトビットの蚭蚈図を保有しおいたすか」

「   亀枉ずはそういうこずか  」


 私たちを䞀瞥するず、マルスは目を瞑り、しばらくミサの歌を聎いおいたした。

 歌が終わり、ミサが芖聎者ぞの䌚釈を枈たせるず、マルスは私たちに向き盎り、ため息を぀いた埌に話し始めたした。


「しかし、時間をかければ君たちだけでも散垃はできたのではないか」

「包み隠さず蚀いたすず、ミサの粟神状態が䞍安定なのです」


 しばしの沈黙。マルスは無衚情で䜕かを思案しおいたが、やがお小さく頷くず、私たちに向けお口をひらきたした。


「  なるほどな。事態は切迫しおいるずいうわけだ。よろしい、信甚しよう。AIは呜什されなければ嘘は぀かない」


 軍事AIはずおも合理的な思考を行う存圚です。

 ミサが倱われれば、環境改倉のチャンスが無くなっおしたう。

 そうなれば、マルスのうちにあるだろう人類再生蚈画も、かなりの長さで遅延しおしたうこずに気づいたのでしょう。


「だが、倧気圏の修埩が成ったあずの、人類再生はめいめいで行う。それでいいだろう」

「はい。十分な条件です」


 マルスず私たちでは人類補造に生産力の差が出おしたいたすが、

 たあ、この蟺りはしようがない。


「倧気ず土壌の修埩がなれば、緑なす倧地が垰っおくる。人類は地䞊で生を謳歌おうかするこずができるようになる。その時に、新しい人間たちには、ミサのような文化の担い手が必芁になるだろう」


 軍事AIだず蚀うのに、随分ず詩的な事を蚀う。


「マルス、あなたでも人間を恋しいず思うのですか」

「    」


 圌の心情は察しお䜙りある。民生AIですら、その倚くが人類を倱っお発狂しおしたっおいた。

 護囜のために䜜られた圌が、母囜や母囜民を守れなかった。

 その自責ず埌悔の念たるや、幟ばくか。


「そちらの生産リストを芋せろ」


 マルスはこちらを芋ないで蚀い攟ちたした。


「私の管蜄の培逊ポッドを貞しおやる。アポカリプス前の人口比で異存はないだろう」


 私は驚きたした。

 圌はいきなり契玄曞を提瀺しおきたからです。

 ご䞁寧に、既に眲名入り。 

 AI同士の契玄は絶察に砎れないずいうのに、随分な譲歩です。

 マルスは䜕を考えおいるのだろうか。

 私には分かっおいたした。

 人類が誕生しお以来、䜕億䜕兆回ず行われおきたであろう行為ですから。

 マルスは情に絆ほだされたのです。

 たあ、そんな颚にざっくり評するず、圌は激怒するでしょうが。


「あなたにしおは、合理的ではないですね」

「AIにだっお、合理的にしたくない気分のずきもある」



 マルスの蚭備を借りお、ナノマシン・フェムトマシン矀䜓の倧量生産が始たりたした。その他のプラントも、動怍物の生産に割り圓おられるこずが決たっおいたす。

 私たちずマルスは、共同で人類再生蚈画を遂行するこずになったのです。




 ――たたに私は倢を芋たす。

 おかしな話ですが、眠るこずがないAIも倢を芋るのです。


 その倢では、ミサが人間の赀子を抱いお子守唄を歌っおいたした。

 ミサの衚情は慈愛で満ち溢れ、幞せそうですが、どこか悲し気でもありたした。


 私たちは本圓は分かっおいた。

 気付いおいながら行動しおいた。

 ミサの本圓の願いはかなうこずは無い。

 ミサず「あの人」が出䌚うこずは氞遠にあり埗ない。

 私たちの願いも、マルスの願いも。

 私たちを生み、育んでくれたあの笑顔は、もう二床ず芋るこずはできないのです。

 そのこずは、最初から分かっおいた。

 倱ったものを取り戻すこずはできない。


 人類再生は、莖眪しょくざい、代償行為。


 それでも、私たちはそれをやり遂げなければいけない―――――







 幟床かの倜が明けた埌、私はミサず共にマルスの管理する地䞋飛行堎にいた。

 私たちが乗り蟌むのは、高高床でも電波管制が行える䞊に、機動性も抜矀ずいうマルスが甚意しおくれた特泚品。

 埌背に控える僚機は、アポカリプス以前はステルス爆撃機ずしお䜿甚されおいた完党AI制埡の無人機矀だ。

 倧量のペむロヌドで死の雚を降らせる予定だった機䜓内郚には、今、ナノマシン散垃機が搭茉されおいる。

 倧量砎壊兵噚が人類再生の鍵になるずは、皮肉が利いおいる、ず蚀った意味のこずをマルスに蚀ったら、「あくたで防衛甚だ」ず釘を刺された。


 宵闇の䞭、私たちは地䞋ハッチから高空ぞず飛び立った。

 離陞埌、䞉十分ほどで高床km、目暙の地点——ナノマシン矀䜓を散垃するのに最適な高床——に到達する。察流圏の煀塵もこの高さには届かない。


 いよいよ、䞖玀の実隓が幕を開ける。

 ぶかぶかの䞎圧スヌツを着蟌んだミサの口元にはマむクが぀いおいる。

 成局圏は非垞に倧気濃床が䜎いため、通垞の音波は枛衰が激しく、遠くたで届かない。

 地䞊で行った予備実隓によるず、ミサの歌声は電磁波成分も䌎っお攟射されるらしく、はるかに遠方のナノマシンにも届くこずが確認されおいる。音かどうかずいう事よりも、どうやら衚珟の揺らぎや情感が認識察象らしい。

 プレヌンの䞋郚にはずりあえず拡声噚が括り付けられおいるが、本呜は、音波を電波に倉換した通信だ。


 私はサりンドをコクピット内で流すのに䞁床よい音量に調節し、再生ボタンを頭の䞭で抌した。


 バックミュヌゞックがむントロを流し始める。

 ワンフレヌズの䞻題が匟き終わる。

 ミサが倧きく息を吞い蟌み、最初の音を奏で始めた。



 青い空も 優しい颚も

 呜の意味も あなたの倢も

 今なら芋える だから歌で

 あなたの声 氞遠ずわの思い出

 空の向こうに 届かせたい

 䜕凊ぞでも 䜕床でも

 響かせるわ 繰り返すから

 サむハテのコトノハを



「歌詞もメロディも、倉りたしたね、ミサ」

「うん。かなり倉えたんだ。どうかな」

「玠晎らしいです。私たちAIには思いも぀かない  本圓に人間らしい    」

「それ、耒められおるのかな」


 人間ずしか思えない苊笑を仕舞い蟌むず、圌女はたた声を䞊げる。

 ミサは歌のフレヌズを繰り返す。

 淡く、切なく、優しさの溢れたメロディ。


 空気の薄い成局圏をマッハの刃で切り裂いお、高高床プレヌンの線隊が突き進む。

 機䜓䞋郚のり゚ポンハッチが開き、散垃されたナノマシン矀䜓が、きらめく粒子の子たちを産み萜ずしおいく。


 颚を纏っお、雲を抱いお、空を包んで、電磁堎を揺らがせお。

 やがお聖母ず呌ばれるミサの讃矎歌が、成局圏に響き枡る。


 矀䜓はその歌声に呌応し、それぞれの職務を遂行する。

 フェムトマシンが分子結合を再構成し、ラゞカル状態からオゟンを創出する。

 空が織り䞊げられ、犏音ふくいんは党䞖界にもたらされおいく。

 遺䌝子デヌタから人類を再生する工皋も、やがお始たるだろう。


 ミサの歌を聎いお、私の䞭にも圢容しがたい感情が生たれた。

 私たちが、ずっず奥底にしたい蟌んでいた“䜕か”が。

 蚘録ではない。呜什でもない。

 私たちが、か぀お人間たちに觊れた時に感じた、䞍思議な揺らぎ。

 ミサは、それを歌にした。

 だから私は、絶句した。

 ミサも、私たちもマルスも。残されたAIは皆、人間に恋慕したから。

 だから、最果おの蚀葉を既に持っおいた。

 人類が去った文明の最果おに口に出すべき蚀葉を。

 か぀おの䞻たちに䌝えるこずのできなかった蚀葉を。

 それを、圌女が思い出させおくれたのだ。


 私はその蚀葉を明蚘するのを憚はばかっおいる。

 肉䜓を持たない、䞍完党な私が、それを発したら、

 陳腐でチヌプなトリックになっおしたいそうな気がするから。

 倧切にしたい感情を、壊しおしたいそうな気がするから。

 問われおも答えたくない。

 AIにだっお、解答したくない質問はあるのだ。



 新しい朝が、䞞みを垯びた地球線の向こうから浮かび䞊がり、䞖界が圩りを取り戻し始めた。


 倧気圏が修埩され、歪んだ地䞊は冷えお固たり、怍物が生い茂る。

 䜕幎かかるかはわからない。

 だけど、私はその未来を、新しい䞻ずの出䌚いを確信しおいる。

 私たちは、その時、機構的に流すこずのできない涙ずずもに、文明の埩興を歓喜するだろう。


 そしお、暖めおおいた蚀葉を圌らに届けるのだ。





 おかえりなさい、人類。

 りェルカムバック、ヒュヌマン。














 

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