チャイムの向こうで恋をした
川野マグロ(マグローK)
幼なじみと私の想い
放課後の教室は、窓から差し込む夕陽に赤く染められていた。
机の上に伸びる影は長く、廊下のざわめきももう遠い。残っているのは私と千紗だけ。クラスの誰もいない教室は、不思議なほど静かで、胸の鼓動だけが大きく響いている気がした。
千紗は吹奏楽部の練習に行く前に、忘れ物を取りに来ただけだった。
肩にかけた楽譜ケースを抱え、いつものように明るく笑う。その横顔を見ているだけで、ずっと胸の奥が苦しくなる。
今日こそ言わなきゃ。言わなきゃ、この気持ちはずっと胸の奥に閉じ込められたままだ。
「じゃあ、また明日ね」
ドアへ向かう千紗の背中に、思わず声をかけていた。
「……千紗!」
振り返った瞳に、夕陽が反射してきらめく。喉が震える。けれど、もう逃げられなかった。
「……千紗、好きだよ」
言ってしまった。
空気が止まったみたいに静かになる。千紗が目を見開いて、口を開きかけた。その瞬間――。
キーンコーンカーンコーン。
下校を告げるチャイムが響きわたり、世界が動き出す。
千紗は小さく笑って、何も言わずに走り去った。残されたドアの余韻が、胸の奥に痛いほど響く。
私は机の横に手をつき、呆然と立ち尽くした。
やっぱり、だめだったのかな。
返事ももらえずに終わってしまった初恋。心臓の鼓動がどんどん弱くなるようで、呼吸さえ苦しい。
帰ろうとしたとき、カバンの中からスマホが主張する音がした。
「わたしもだよ」
最初は誰かのいたずらだと思った。けれど、メッセージの送り主は、千紗。
「……ずるいよ、千紗」
声に出すと、涙がにじんできた。でも、同時に頬が熱くなるほど嬉しい。
窓の外から、吹奏楽部の音が聞こえてくる。フルートの澄んだ旋律が、私の心をそっと包み込む。机に手を置いたまま、私は小さく呟いた。
「明日もちゃんと会える。だから、これでいい」
夕陽はもうすぐ沈む。けれど私の胸には、初恋の光がまだ、あたたかく灯っていた。
チャイムの向こうで恋をした 川野マグロ(マグローK) @magurok
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