第37話 二人の祝杯
全ての嵐が、過ぎ去った。
碧山学院高等部の文化祭は、大成功のうちに幕を閉じた。
航汰は、バスケ部の仲間たちと、最後の片付けに追われている。
私は、そんな喧騒から一人離れ、いつもの図書室で、静かに本を読んでいた。
「よっ、名探偵。お疲れさん」
不意に、背後から声がした。振り返ると、汗を拭いながら、航汰が立っていた。
その手には、紙コップが二つ。
「差し入れ。お前の好きな、ストレートティーだ」
そう言って、彼は私の前に、湯気の立つ紙コップを一つ置いた。
「ありがとう」
私は素直に礼を言った。
二人で、窓際の席に並んで腰掛ける。
夕暮れの光が、私たちの足元に長く伸びていた。
「…聡子さん、どうなったか聞いたか?」
航汰が、ぽつりと言った。
「ええ。田舎に帰って、静かに暮らすそうよ」
「そっか…」
しばらく、沈黙が続いた。
どちらも、言葉を探しているようだった。
「なあ、莉子」
やがて、航汰が口を開いた。
「俺たち、やったこと、正しかったのかな」
その問いは、私の心の中にずっとあった問いでもあった。
私は、ゆっくりと首を横に振った。
「分からない。正しいかどうかなんて、誰にも決められないのかもしれない。でも…」
私は、航汰の目をまっすぐに見つめた。
「間違った物語を、そのまま終わらせちゃいけない。それだけは、確かなことだと思う」
私の言葉に、航汰は、少しだけ驚いた顔をしたが、やがて、いつものように、ニカッと笑った。
「だよな!やっぱ、お前はすげえよ」
彼はそう言って、私の頭を乱暴に撫でた。
私たちは、紙コップをそっと持ち上げ、カチン、と小さく合わせた。
それは、高校生二人だけの、ささやかな祝杯だった。
放課後の探偵〜ささやく死体【謎を解く香りは、アールグレイ】〜 兒嶌柳大郎 @kojima_ryutaro
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