吾妻透の死因は

@yocchikun

第1話

家の扉を開くとヘラヘラ笑う男がいた。


「吾妻透の死因は、脳出血ですね?」


見知らぬ男は笑顔でそう言った。吾妻透は俺の名前だ。


無視してキッチンへ入った、今日から俺も一人で飯を作らねばならん。


「吾妻透の死因は、焼死ですね?」


コンロをつけると、冷蔵庫から現れて男は言った。



飯を食う。


「吾妻透の死因は、窒息死ですね?」


まずい飯がもっと不味くなった。



食器洗いをする、不慣れなので少し食器がぶつかって少しうるさい。


「吾妻透の死因は、中毒死ですね?」


そうならまだマシだったかもな。



風呂の沸いた音がした。服を籠へと脱ぎ、浴室へ入る。


音もなく、男は浴槽に座っていた。


「吾妻透の死因は、溺死ですね?」


邪魔なのでどかした。この浴槽は男と体を寄せ合うために広いのではない。



パジャマへ着替え、寝床へ入る。今日のタイマーは昨日より多い。


布団を捲ると、男が横たわっていた。


「吾妻透の死因は、腹上死ですね?」


「そう見えるか?」


聞いてみようと思った、何故だか分からないが。


男は笑顔のままだった。笑顔のまま動きを止めて、30秒ほど空けて言った。


「いいえ、まったく。」


「そうか」


そうらしい。


腹が立ったので。


どうしようもなく腹が立ったので



殴って焼いて絞めて呑ませて沈めて少し迷って腹を割いた。



男はもう笑顔ではなかった。



ふと思い立って、赤ペンを鞄から取り出した。


顔に『吾妻 透』と書き、その横にいつものように『全問正解』という文言と花丸のマークを書き加えた。


俺は眠った、ベッドは広かった。

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