境界双子

星野 ラベンダー

境界双子

 ガラスの仕切りが置かれた、特徴的な部屋。刑務所の面会室で、一人の記者が、ある事件の犯人と、透明の板一枚を隔てて向き合っていた。

 双子の弟が兄を殺し、ずっと成り代わっていたという殺人事件。目の前の“普通そう”に見える青年はまさしく、人一人を殺した人間だ。


 弟は俯きがちに、記者からの質問に答えていく。


「本当にそっくりだった」

 

 この双子の兄弟は、頭の良さも、運動能力も、性格も、好きなものも嫌いなものも、癖や喋り方も、何に置いてもそっくりだったという。薄気味悪そうに弟は言った。


「いくら双子でも、普通、ほくろの場所とか数とか、そういう細かいところは違ってきますよね? ……ですがね、そこも含めて、兄と全部、何もかも同じだったんです」


 記者は被害者である兄の顔写真を、脳裏に思い浮かべた。目の前の弟と、写真の中の兄。確かに、二人は瓜二つだった。いや、もはや同一人物といっていいレベルだ。そんな話があるわけないのはわかりきっているが、いっそ「実はクローンです」「ドッペルゲンガーです」と打ち明けられたほうが信じられるくらいには。


「私と兄、間違わることが日常でした。両親ですら、私達の名前を正しく呼べたことのほうが少なかったんですよ。だから二人が一人になっても、何年間も気付かれなかった」


 弟は、力のない笑みを、灰色の面会室に響かせた。


「自分とそっくりすぎる兄弟のことを、小さい頃は、嬉しく思っていましたし、誇らしく思っていました。相手も同じだったでしょう。けれど、成長していくにつれ……どこまで行ってもそっくりなままの兄弟を、段々と、不気味に感じるようになっていったのです。

 なんといいますかね。向こうの姿を見つめていたら、鏡を見ている気分になってくるんですよ……。自分は本当に自分なのか、それとも兄なのか、考えれば考えるほど、わからなくなっていくんです。やがてもう、恐怖が何もかも上回るようになって……。それは、向こうも同じだったのではないでしょうか……。

それであの日、鏡に映るもう一人の自分を見て、“自分が二人映っている”って、一瞬わけがわからなくなって、パニックになって……気がついたときには、首を……」


 ガラスの向こうで、俯いていた顔が上がる。


「今もまだあやふやなんです。あのとき私は、どっちを殺したのだろうって」

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