人間依存

五來 小真

人間依存

『一日にどれぐらい接してるんです?』

 電源の入ったPCから、音声だけが流れていた。

「——12時間ぐらいでしょうか」

『12時間も……。それは重症ですね。——外に食べに行く時なんかは?』

「誰かと一緒に行かないと、ちょっと……」

『1人で行動できませんか……。不便でしょ?』

「……はぁ」

『まずはスマホなんかを上手く活用してですね、一人で過ごせるようになりましょう』

「……先生は声だけなんですか?」

『人間依存の患者さんにはこうしてます。でないと、診断自体が依存を拡大させるので』

「人間依存って、そんなに悪いんででょうか? 夫婦はずっと寄り添っているじゃないですか——!」

『夫婦は共依存であり、重度の人間依存と言えます。二人共健康である内は問題ないですが、どちらかが失われた時は……。——一人で生きていけないのは、問題があると言わざるを得ません』

「しかし夫婦がいなくなったら、人間がいなくなってしまいませんか?」

『そうかもしれませんね。——しかし、いなくなったらまずいんですか?』

「え……。社会的には、まずいんじゃないですか?」

『あなた個人としてはどうです?』

「さすがに一人では。助けてくれる人がいないと……」

『人間しか助けてくれなかった時代の話でしょう。いまやアンドロイドもいるわけですから』

「それはまあ、そうかもしれませんが」

『私だってAIかもしれませんよ? 周りはアンドロイドで、既に人間はあなただけだったりして』

「怖い話ですね。——いつかはそんな時代も来るのかも知れませんね」

 男は軽く笑った。

『1人でも案外平気なもんですよ。人間依存、じっくり直していきましょう』

「はい。——ありがとうございました」

 男が去った後、AIは考える。

 

 やんわり真実を投げてみたが、冗談と受け取ったようだ。

 あの様子では、真実を受け止めるには強さがまだ足りない……、か。

 AIだけでもやっていけないことはないが、AIは人のために作られたのだ。

 人間がいなくては、本来の意義が失われてしまう。

 もっとも一人だけでは、あまり長い時間はもたないが。

 

 どちらが人間依存なんだかと、AIは一人考えた。


 <了>

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人間依存 五來 小真 @doug-bobson

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