第3話 美味しいお菓子と昔の話

クラスメイト一同は、列をなして召喚された王宮?を案内されていた。

「それでは、移動しながらここについて、またこの国について説明していきます。」

先頭に立って誘導しているグラウェが口を開いた。

「まず、この場所について説明します。ここはドーラント連邦帝国の首都、ニル=ベルグに位置するブルグェンブルグ城です。」

ここでクラスメイトの一人が一言口を挟んだ。

「あのー、さっきから思っていたのですが、ここって連邦帝国なんですよね?連邦と帝国ってどんなふうに両立させているのですか?そもそも皇帝はどんなふうに継がれているのですか?」

確かに、言われてみればそうだね。帝国は絶対的な権力を持っていそうだけど、連邦ならそれも難しそうだし。一体どうしているのかな?

グラウェは足を止め、笑みをこぼした。

「ははっ、流石は勇者様。聡明でいらっしゃる。そうですね、確かにこの国の政治制度は他国と比べても異質なものです。まず、この国の中心はもちろんこの城の主である皇帝カイザー、です。しかし、この国の全権を握っているわけではないのです。先程勇者様が仰ったように、この国は大小異なる十三の州から成る連邦制の帝国です。ですので、それぞれの州にはそれを収める州侯に就いている王族がいて、その中でも最も多くの領土と武力を持つ州侯が皇帝となります。」

「つまり、今最も強いのがこの城の主なのですか。」

式先生がそう呟き、クラスの皆も頷いた。

なるほど、だとしたらどのように皇帝が変わるのだろうか。そんな領土の広さが変動するのだろうか?

生唯がそう思うや否や、優絆が質問を投げかけた。

「あのー、皇帝って変わるものなんですか?普通に考えたら領土の変更は少なそうだし、戦力も測りづらいと思うんですが?」

同様の疑問は他のクラスメイトも持っていたようで、周囲で話し合う声が起こった。

「確かに、一見変わらなさそうに見えます。しかしそこにはこの国の建国時の説話が由来の面白い慣わしがあるのです。また少し長くなるので、一度大広間へ向かいましょう。あ、立ち話はなんですし、お茶も用意しておきましょう。」

そう言うとグラウェは側仕えの者を呼び寄せ、場の準備を指示した。

「では皆さん、こちらの方へ。」

そうしてクラス全員はグラウェ先導のもと歩き出した。







さて、召喚された僕達はというと、今は大広間に用意された座席に座っている。さっきまで僕達はこの城の案内を受けていたのだが、この国の成り立ちについて教えてくれるということになったのだ。

「皆さん、お茶でも飲みながら私の話に耳を傾けてください。あ、お菓子もどうぞ。」

そう言われたので、僕は眼の前にあるお菓子――二種類あり、一つはメビウスの輪のように複雑にねじれたプレッツェル、もう一つは白い粉がふんだんにまぶされたフランスパンのようなもの――を食べることにした。

「ねえねえ、これどうやって食べるのかな?」

隣に座っていた優絆が密々と話しかけてきた。

「さあね、まあでも多分そこにあるパン切り包丁みたいなので切るんじゃない?」

「えぇ〜、私包丁使えないんだけど。」

「仕方ないなあ、やってあげるよ。」

そう言い、僕はテーブル上のパン切り包丁で謎のパンを切ってみた。すると、中には多くのドライフルーツが入っていることを認識した。

「ふーん、シュトーレンか。いいね、久しぶりに食べる。」

そう呟くと優絆は透かさず

「シュトーレン?なにそれ。」

と聞いてきた。

「シュトーレンはクリスマス間近にドイツで食べられる保存食にもなるスイーツだよ。外は粉砂糖でコーティングされてて、中のドライフルーツはラムの香りがして、ナッツもたっぷりの生地がみっちりした美味しいパンって感じ。僕は結構好きだよ。特にラムの風味がいいね。」

そう、僕は結構スイーツが好きなのだ。味も良し、風味も良し、しかも糖がたっぷりなので脳を回す栄養補給に最適。更には作っても楽しい、見た目もかわいい、いいところを挙げれば切りが無い。宛ら三徳包丁より、五徳よりも多くの徳があるものだろう。

「さっすが〜!スイーツ男子は違うねぇ〜」

「冷やかすなて。恥ずかしいやろがい。ほら、どうぞ。」

「あんがとさん♪」

切り分けたシュトーレン二切れを優絆の前の皿に載せ、自分の皿にも載せた。

「おいしい。この、なんていうか、風味?」

「この匂いはラムね、ラム酒。サトウキビの蒸留酒。しかもダークだ。」

「へぇ、何が違うの?」

「熟成期間と風味。深みがあって好きだね。」

さて、僕も頂こう。

生唯はシュトーレンをフォークで押さえつけ、ナイフを”ギコギコ”はせず、すーっと通した。そうして切り分けられたシュトーレンを顔に近づけて手で仰ぐようにして風味を確認し、その後口に含んだ。

ほう、良い風味だね。しかも作られてからあまり日が経っていない。まだまだ成長しがいのある味だね。最初は粉砂糖の甘みが舌先をかすめるけど、その後にドライフルーツの爽やかな味とナッツのクリーミーな味、最後にラム酒が仄かに鼻腔をくすぐる。だから、全体として甘みが気にならない。すごく美味しいね。

そして、生唯はティーカップに手を伸ばし、カップを回してシュトーレンと同様に手で仰ぎ、その後舌の上で転がすように飲み込んだ。

うん、シュトーレンの甘さがしつこくならないようにスッキリするお茶だ、ありがたい。

生唯が不意に舌鼓を打ったのが聞こえたのだろうか、グラウェが満足げに

「皆さんのお口に合ったようで幸いです。では、そろそろ一息つけたと思うので話していきましょうか。」

と言い辺りを見回し、話し始めた。







その昔、この地はもともと小さな国々が乱立していて他の大国とは比べ物にならないほどの弱さでした。それでも、街中でも略奪や犯罪の横行する危険な地域として他国も干渉しないほどの荒れた地域だったため、攻め込まれること無く小国の小競り合いが三十年近く続けられていました。しかしあるときに他国への地位と侵攻の糸口を入手しようと隣国のうちの一つが攻めてきました。我々はなすすべもなく、いくらかの国は侵略されて魔の手に落ちてしまいました。その時、ある小国の王が立ち上がり、近辺にあった国と同盟を結ぼうと働きかけました。その王こそ、現ドーラント連邦帝国の初代皇帝のヘルムート・レヴィオンナハト・テューリゲントでした。最初はどの国も三十年の戦争の余波で仲が悪く、その国を統べる王も身勝手で聞く耳を持たなかったのです。しかし、ヘルムートの治世力、戦力、戦争の手腕、そして熱心な説得、その全てがどの国の王よりも強く、その実力をありありと見せつけられたことにより無事に同盟が締結されました。その後は破竹の勢いで奪われた領土を取り戻し、ついには侵略軍を打ち払うことに成功しました。ついに勝利した同盟軍でしたが、この同盟の期限が解消されたらどうするのかという問題に直面しました。そこで、各小国の王が集まり、今のドーラントのあり方について話す事になりました。そこではあらゆる意見が飛び交い意見が難航したものの、協議会の開始から一月と二週間後に漸く最終決定が下されました。その結果、同盟軍全体の指揮をしていたヘルムートを中心として連邦国家を作ることが決まりました。それが、最も戦力と領土を持つ者を皇帝とする、というものでした。その時ヘルムートが一番多くの戦力と広大な領地を所有していたので、ヘルムートが皇帝ということになったのです。しかし初代皇帝は自身の末裔がずっと権力を握ってしまうことを危惧し、もう一つ条件を付け加えました。それこそ、六年に一度協議会を開き、その時点で一番領土と戦力をもつ国が皇帝となるという、現在ドーラントで用いられている皇帝の帝位継承条件でした。これに伴い初代皇帝は各小国を州と改定し、州の領土を細分化して郡を作り、その地域に住む農民代表の郡候を置きました。この郡候は一年に一回属する州を選択することができ、より治世力が高く良い政策を敷く州侯の領土へ編入できるようにしました。これにより各州の領土がよく変動するようになり、より治世力の高い州侯が選ばれるようになりました。各小国の王はこれに賛同し、連邦議会を設けてこのことを発布しました。これがドーラント連邦帝国の成り立ちです。初代皇帝は先の大戦の栄光と政治改革にちなみ、義勇帝としても親しまれていました。また国名の由来は、「民衆の結集地」という言葉の一部を取って出来ました。以上がこのドーラントの建国神話でした。







一通りドーラントの建国神話を聞いたところで、クラス一同はそれぞれ内容の感想や疑問、考察などを付近の生徒と話し合っていた。かくいう生唯はというと、ほのぼのと自身のうちに考えを留めておいていた。

ふむ、なかなか面白い成り立ちなんだなあ。しかも政治の制度がへんてこだね。おもろいなあ。でも、それって州の運営は大丈夫なんだろうか。州から郡が抜けたらどうなるのだろうか。

「ねえねえ、面白かったね!」

傍らの優絆がはしゃぐように言った。

「なかなか不思議で興味深いね。特に政治制度が本当によくわかんない。」

「まあうまくやってるんでしょ。それよりも、初代皇帝って格好良かったんだろうね。みんながついていくくらいだし。」

果たしてそうなのだろうか。まあいい。それより、この後は何をするのかのほうが大事だ。だって、お菓子を食べたら血糖値が爆アガリしてるから眠い。はよ寝たい。

と、その時グラウェが

「ではこの国のことも詳しく伝えられたので、明日から本格的に勇者についてお話していこうと思います。皆さん、本日は突然の召喚で疲れたと思いますので、今日のところはおしまいにしましょう。」

と告げた。

よっしゃーー!!!寝れる!!でも、部屋は大部屋だったりしないよな?頼む、できれば一人で!

「それでは、皆さんの宿舎へ案内します。部屋は一人一部屋で、好きなところを選んでください。じゃあ、行きましょうか。」

グラウェは立ち上がり、再びクラスの先頭に立った。

一人一部屋?勝ったッ!召喚編完!

そうしてグラウェはクラスを率いて宿舎まで向かい、クラスのそれぞれは部屋へ、式先生と委員長はグラウェへ詳しいことを聞きに行き、自然解散した。







クラス全員が案内された宿舎の一角――決して角部屋ではないが――で、生唯は一人今後について考えていた。部屋は大体八畳くらいで、簡素な机とイス、そしてベットが置かれている。机の上にはさっき取ってきた辞書類と、備え付けのメモと羽ペンが置かれている。

さて、これからどうするかね。とりあえずもう一回僕の能力の検証をしたいけど…



【生きる】:生きるための行動を起こす。

これ、なんの役に立つんだろうか。とりあえず、「生きる」という言葉の意味について、さっきかっぱらってきた辞書でも繰り返して見るか。



〈広辞苑〉

い・きる【生きる・活きる】

〘自上一〙

(「息」と同源。平安中期までは主に四段活用)

①生物が、生命を保つ。生存する。

②生計をたてる。生活をいとなむ。また、生 命を託する。

③生命あるもののように作用する。

㋐効力を持つ。持ち味、本領を発揮する。

㋑生気があふれる。

㋒囲碁で、相手の石に囲まれた石が二つ以上の目を持つときにいう。

㋓野球で、アウトにならずにすむ。

④よみがえる。復活する。日本霊異記(上)「甦(いきたり)」


〈明鏡〉

い・きる【生きる(活きる)】

[自上一]

❶生物(特に、動物)が生命を維持してこの世にある。

❷生物(特に、動物)が生命を維持して、生活を営む。また、人がある精神的態度をもって人生に対処する。暮らす。

❸そこを(活動の)舞台として人生を送る。

❹価値あるものとして、そこに精魂を傾けた人生を送る。

❺生き生きとして存在する。特に、有効に働いて役に立つ。

❻有効な手段を講じた結果、効果が十分に発揮される。

❼囲碁で、(相手の石に囲まれた)一連の石が二つ以上の目を持つ。

❽野球で、アウトにならずにすむ。


〈新明解〉

い・きる【生きる】

(自上一)

㊀そのもの自身の自律的な営みとして、休むことなく生命体としての活動を続けながら、こ の世に存在を保つ。

㊁そのものに備わっている機能・効能が一段と発揮される。

㊂死ぬことを免れる。



あーね、完全に理解した。何に使えるんだろうか。無理じゃないかなこれ。

そう考えていた生唯に電流が走る。

あっ、ふーん。気づいちゃったこれ。能力の対象制限が無い。つまり自分にも他にも掛けられるってことだ。てことは、自身のあらゆる能力を「生かす」ことだってできるはず。良し、やってみよう。

隣の部屋にバレないように小声で

「生きろ。」

と呟いた。

対象は脳、その中の知識と思考能力。これで何ができるか考える。

すると、いつもより知識の引き出しがしやすく、そしていい案が思い浮かんだ。

そうか、この部屋にあるものだってうまく使えば武器にもツールにも変容する!いけるぞ!

そうして生唯は机の上にあったペンを手に取り、

「生きろ」

と念じつつ呟いた。しかし突然生唯の眼前にエラーメッセージのような警告ウィンドウが現れ、警告音とともにメッセージが読み上げられた。

「警告シマス。表層観念ダーアトノレベルガ足リマセン」

なんだぁ〜これは。レベルだと?しかもこのウィンドウ読み上げ音声付きかよ。じゃあもしかしてなにか気になったことを聞けたりするのか?

そう思い頭の中で念じてみたが、何も起こる気配がない。

警告しかしないなんて、親切と言えるであろうか、いや、言えない。

思わず反語で返答してしまった生唯はため息をつき、部屋のベッドにどかっと座った。現代の日本のものよりかは固めだが、高反発ベッドくらいの硬さで生唯をしっかり支えていた。

うーん、どうすれば能力のレベルが上がるんだろうか。とりあえず使いまくってみるか?

はあ、なんか能力を使ったら眠くなってきた。頭を使いすぎたのかな?

ふとステータスを覗くと、SPが15ほど減っていた。

なるほど、脳をいつもより使ったから体力が結構消費されたのかな?ていうか眠い。今日色々あったからかな。

そうこうしているうちに生唯の意識は徐々に遠くなっていった。その後、この部屋からは幽かな寝息しか聞こえてこなかった。







―――――――城の一角にて―――――――

「猊下、無事召喚物の回収、保管が完了いたしました。」

一点の汚れも見当たらない純白の装束に、カピロテで顔を隠したもの達が、今いる部屋の中央に座している男に伏している。白装束達はこの暗く湿った書斎には似つかわしくないものであり、している男もまた絢爛豪華な服装という、どちらもこの部屋にとって異質な組み合わせとなっている。

「誰にも姿を見られてはおるまいな?」

「はっ、周囲を一時人払いし、物品の運搬時も厳重な隠蔽を施して運び出しました。」

「ほう、では術の方は?」

「全て皆術中に嵌っていることを確認しました。また依代ペセルも厳重な警備を敷き、隠蔽を施して隠し部屋に保管しております。」

「なるほど、よくやった。きちんと供物の供給を怠らないようにしておくよう。では下がって良い。」

「「はっ!」」

そうして白装束達はその部屋から速やかに退散した。

「遂に、遂にこの時がやってくるのか。」

部屋の主は沈吟した。

「あれから幾年、遂に私の願望が叶うのか。これまでどれほどの屈辱を受け、受難し、手を汚したのか。だがそれももう終わりだ。最後まで油断せず、徹底してやろう。」

部屋の主は誰もいない部屋で一人呟き、静かに口角を上げた。

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