足跡案内

日八日夜八夜

👣



「当店は、おしゃべりのうるさくない、とっておきに親しみのおけるガイドをご用意しております」


空色のスーツに銀色ネクタイの営業マンが白い机の前でニコニコ笑みを浮かべている。

違法サイトから見つけた店にしては、普通だった。


「当方の旅のガイドは、確実にお客様の気に入ることけ合いでございます。 なにせお客様をご案内するのは、、でして」


こちらの顔を見て、営業マンがしてやったりな顔をする。

近未来を意識したつもりなのかグレイのAIイラストが載ったデザインのパンフレットをおもむろに広げて、イヤーマフとゴーグルを組み合わせたような製品を指差す。


「当店の特許製品によって、未来のお客様の足跡だけを分離するのでございます。当店との特殊なコネクション筋の研究機関がちょちょいのちょい、と時空を歪めて近未来を取り出すことに成功しまして。こちらの製品で未来の足跡を視認して追いかけることができます。お気に召さないことがありましょうか。なにせご自身が行こうと思った場所、足を向けようと思った好みの場所に自分が案内してくれるのですからね」

 



─────────────────────────



点々と、雪道に現れる自分の足跡についていった。


認可前の特殊技術だとして値の張った商談だったが、なんともまあ快適である。

未来の足跡についていけば、そこに自分好みの絶景ポイントがあり、急かされることもガイドのうるさい雑談を聞くこともない。

ひたすら満ち足りるまで佇んでいられる。

 

この旅で心の静穏せいおんを取り戻している満足感をめながら進んでいくと、なぜか一部ピンク色に着色された足跡に追いついた。


(充電切れか、未来との接続エラー警告か何かだろうか?)


顔を上げて、その先に続く足跡を確認する。

一面に輪郭のにじんだピンクの不揃いな足跡がばらばらに雪を染めてかき乱し、そして──途絶えていた。


先には、なにも、ない。


思考が追い付く暇はなかった。

大きな黒い熊が目前に立ちはだかり視界を暗い影で覆った。


── 最後の足跡、最後の未来に、今がぴたりと重なった。




〈終〉

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