1分で〇〇〇

『1分で功績自慢』


 聞いてくれよ。

 俺が最後に相手したメス、ふっくらしてて滅茶苦茶よかったんだ。

 腹があたる感触も、他のメスならブワッとくるのに、あのメスは滑らかだった。

 それだけ、自慢したかったんだよ――。



 ――ギョッとしたよ。

 いや、駄洒落じゃなくてな。

 ちょっと前に、殺し屋が主人公の映画を観たから。

 魚も最後に思う事はあるのか、なんて。

 ひとりで夜釣りなんかしてると、想像が膨らんだりするからさ。

 だけど確かに、男の声がしたんだ。

 幻聴だとしても、それはそれで嫌だろ。

 うちの奥さんは、そういうの気にする方だしさ。

 車で遠出しなくても出来る趣味に、切り替えようと思ってるんだ。



 ――って、事でさ。

 この釣り具一式、もらったんだよ。

 この部分、リールっていうんだけど。

 市販のセット商品と違って、滅茶苦茶が張るもんなんだよ。

 いやぁ、まいったなぁ。



 ……と、同期の社員がスマホを見せながら自慢してくる。

 休憩時間だから、自慢話はいいのだけど。


 有難い事に私は、部署全体に称えられる業績を上げる事ができ、出世している。

 その私と同期である事をアピールするために、休憩時間になると彼は寄って来る。

 申し訳ないが、休憩時間には脳を休ませたいので、話もほとんど聞き流していた。

 ただ今日の私は、少し前向きなのだ。


 彼は同じく同期の女性社員と結婚し、地道な努力で先に出世しそうだった彼女を無理やり寿退職させた。

 彼女の分の仕事が私と彼に振り分けられ、彼が簡単な業務だけを大袈裟に展開している間に、私ひとりで対応したプロジェクトがラッキーにも大成功したのだ。

 おかげで、必要のないダイエットにも大成功だ。


 まぁ、それはともかく。

 元同期である、彼女とは今でも連絡を取っている。

 自分が責任をもって養うと宣言しておきながら、安月給を勝手に消費しているそうだ。

 ブランド品を買っては貰い物だと言い張り、給料が少ないのは家計のやりくりが下手な嫁のせいだと主張する。

 カード明細に貰い物のはずのブランドから請求があり嘘がバレても、お礼をしただけだの、勝手に明細を見るなだのと喚き散らす。

 その主張と、彼女が『次にお礼が必要な高級品を断らず貰っただけでも離婚する』と宣言して、彼が偉そうに了承している音声録音も、私は聞いている。


 話は変わるが、私の父は釣りが趣味で、今でも一緒に夜釣りへ出かける。

 彼が貰ったと言う釣り具一式は、確かに上級者用のカスタムセットだ。

 素人がいきなり揃えられる物ではないが、そんな事を証言してやる筋合いはない。


 前向きに、できる事をするのが大切だ。

 彼女の戻る場所が用意されていると知った時、彼は最後に何を思うだろうか。

 今から想像を膨らませている。

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〇〇スイッチ押しますか 天西 照実 @amanishi

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