メインディッシュ

「これがトリュフか……」


 ナイフで子牛のステーキを切り分け、薄くスライスされた黒いキノコと一緒に口に運ぶ。独特な香りが鼻に抜けた。


 トリュフを食べるのは初めてだ。

 “高級食材”という言葉だけは知っていたが、庶民の自分には馴染みがなく、高い金を払ってまで食べようと思ったこともない。確かに食べたことのない味だが、主役にはなり得ない。実際、こうしてステーキの添え物としてテーブルにある。


 調べたところ、トリュフは地中深くに埋まっていて、人間には見つけにくい。だから豚を使って探すらしい。


 ふと疑問が浮かぶ。

 ──その豚は、見つけたトリュフを食べられるのだろうか。こうして自分の前にトリュフが並んでいるのだから、当然このトリュフを見つけた豚はこのトリュフを食べることは出来なかったのだろう。せっかく掘り当てても、人間に横取りされてしまう。せめてご褒美に小さな欠片くらいは与えられているといいが……。


「本日は本当にありがとうございました!」


 スピーカーから響く声に顔を上げる。広いホールの前方、巨大なウェディングケーキの横で、親友のトモヤがマイクを握っていた。その隣には、真っ白なドレス姿のサヨ。


「サヨさんと出会えたのも、親友のサトルのおかげです!」


 急に名前を呼ばれ、スポットライトに照らされる。俺は慌てて周囲に会釈した。ステージの二人は幸せそうに笑っている。サヨのドレス姿は、息をのむほど綺麗だった。

 ──そうだ。二人を引き合わせたのは俺だ。バイト先で仲良くなったサヨを、トモヤに紹介したのだ。本当は、紹介する前、サヨの事が少し気になっていた。けれど、親友に楽しそうに笑いかけるサヨを見たとき、心のどこかで答えは出ていた。


 披露宴が終わり、ホテルの廊下を歩いていると、本日の主役二人が声をかけてきた。


「いやー、さっきは急に振ってゴメンな!」


「ニヤニヤ笑いながら言いやがって。絶対悪いと思ってないだろ」


「ははっ、バレたか」


 学生時代から俺たちはこういうノリでやってきた。だから腹も立たない。


「それにしても、いい披露宴だったな。特に、トリュフが美味かった」


「あのなぁ〜、ああいうのは“薬味”みたいなもんで、メインディッシュじゃないんだぞ〜」


「ちょっとトモヤ、あなただって『豚がどうのこうの』って蘊蓄垂れながら“うまいうまい”って食べてたじゃない」


 サヨが笑いながらトモヤの肩を叩く。


「おーい、バラすなよ!」


 ──トリュフを見つけた豚は、人間が喜んで食べていても知ったこっちゃない。

 けれど俺は、幸せそうな二人の姿を見て、心から嬉しかった。


「……俺にとっては、トリュフの欠片がメインディッシュだったんだよ」

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ワンミニッツショート スタシスホメオ @homeostasis19920624

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