満員電車で

へのぽん

満員電車で

 もっと話したい。

 昔みたいに一晩中、一緒にドラマなんか一気観して、懐かしのお笑い観て、二人笑い転げてたのにね。

 わたしたち、好きで好きで結婚したのに、お互い会社へ行って、狭いアパートに帰ってきて、それぞれ夕ご飯を食べて、それぞれお風呂に入って、同じベッドで、それぞれ起こさないように気遣って寝てる。

 疲れも、仕事の愚痴も、これからのことも話したいのに話せてない気がする。もちろん嫌いになったわけじゃないのよ。むしろわたしはもっと好きになってるんだけど。

 早く子どもが欲しいなって話しててたよね。いつしかそんなこと話せなくなってきた。家も欲しいなんて言ってたのに、何となくお互いムリなことも気づきはじめてるよね。

 こんなに二人で働いても、たくさん我慢しながら、朝から晩まで毎日仕事に行ってるのに、わたし一人でいるときに出るのは溜息だけ。

「おはよう」

「おかえり」

 こんな簡単な言葉すらかけあえない生活なんて予想してなかった。予想していたら結婚なんてしてないのかもしれないのかな。一緒に住んでるのに離れちゃった気がする。

「いただきます」

「ごちそうさまでした」

 わたしが作った料理はおいしかった?急いで作ったんだけど。冷えた料理を一人で食べるなんておいしくないと思う。あなたの作った料理はおいしかったよ。ありがとう。でもレンジでチンなんて味気ないよね。

「早く出世しないと」

 あなたの口癖。

 幸せなはずなのに、何でこんなに心が苦しいんだろ。洗濯もお風呂掃除も半分こしてる。辛さは半分こしたくない。わたし昨日柔軟剤入れすぎたかな。お風呂のシャンプーとリンスー買い換えたよ。わたしのシャンプー継ぎ足してくれてたね。ちゃんと気づいてる。いつもありがとう。心の中で言っても通じない。

 トイレットペーパーだけはどちらも替えんよね。使いきったら替えるって約束、わたしも見てないフリしてしまうんだよ。あなたが替えてくれるはず。あなたも同じようにしてるからおあいこだね。

 朝、二人とも重い体でリビングに行く。わたしたちが顔を合わせられるのは、昨日の疲れを背負いながらどちらともなく入れたインスタントコーヒーを飲むときくらい。

 お互い半分寝てるし。

 でも話したいね。だから同じ満員電車に乗ることにしてるの。わたしには少し早いんだけどね。

「昨日、洗濯ありがとう」

「ん?ああ。早く帰れたし。乾燥機に入れたまんま寝ちゃったよ」

「大丈夫。後はちゃんとしてある」

「中途半端なんだな、俺」

「窮屈かな」

「几帳面なA型だから。でもO型混じってるし。血液関係ないけど」

「何もやってないより少しでもやってる方がマシってね。わたしも窓は真ん中しか拭かないもん」

「最近電車でしか話せてないよ」

「この電車で逢ったからかな?」

「週末、仕事早く終わったら一緒に晩ごはん行こうな」

「うん」

 おわり



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満員電車で へのぽん @henopon

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