春夏秋冬の恋

凧揚げ

第1話

「「桜舞う奇跡はもう戻らない」」


 ある高校時代。夕暮れ時の街を歩くと、ふと胸の奥に沈んだ痛みが広がる。あの日、彼と最後に交わした言葉が耳に残って離れない。

 優しい笑顔の裏に隠された寂しさに、どうして気づけなかったのだろう。電話一本、手紙一枚、それだけで繋がっていられたはずなのに、私はそれを怠り、彼は静かに遠ざかっていった。

 季節は巡り、桜は再び咲いたが、彼の声はもう戻らない。花びらが風に散るたび、掴めなかった時間がこぼれ落ちるようで胸が締め付けられる。

 人は失って初めて、その存在の大きさに気づくのだと今さら知った。もし奇跡があるなら、もう一度だけ会いたい。何もいらない、ただ「ありがとう」と伝えるために。


「「真夏の暑い季節でも」」


 真夏の太陽みたいに、ただ眩しくてうるさいだけの人だと思ってた。だけど近くにいると、不思議と気持ちが軽くなる私もいる。

 失敗しても笑い飛ばしてくれるし、落ち込んでるときはいつの間にか横に座ってる。そんな人を「バカ」って呼ぶのは、ちょっと違うかもしれない。

 むしろ大切なことを忘れないようにしてくれる、私にとって特別な存在。帰り際、視線が合う。彼が差し出したのは、コンビニで買った小さなアイス。


「「生き死に関係なく大切にして」」


 彼は生前、私を傷つける言葉ばかり投げつけただから死んだ今も、私は彼を恨み続けていた。

 夜な夜な枕元に立ち、震える彼を眺めては溜飲を下げていたのに、絶対に安眠なんてさせないんだから。

 ある日、彼が涙ながらに「ごめん」と呟いた。その声は震えていたが、確かに私を呼んでいた。

 胸の奥に残った温もりが疼き、憎しみが少しずつ溶けていく。気づけば私は、ただ彼に触れたくて、ただ愛されたくて、幽霊になってもなお傍にいるのだと悟った。


「「春、夏、秋を巡り、そして私は冬へ」」


「寒い、暗い、なんで。

こわい、こわい、こわい、誰か出してよ。

目が見えない。

どうして、私は。悲しい、寂しい、ただあなたと一緒に生きたかっただけなのに」

 闇の底で震える心。

 死後の世界は、冷たく果てしない孤独だけを与えると思っていた。どれくらい時間が経ったのかもわからない。遠くに寒気を感じる。足音、懐かしい声が私を呼ぶ。

「……待たせてごめん」

 振り返ると、そこに彼が立っていた。温かな笑みを浮かべ、手を差し伸べてくる。涙ながら、私はその手を強く握る。

「やっと会えたね。これからはずっと一緒だ」

 永遠の束縛が、ふたりの歩みによって『永遠の愛』へと昇華していくのであった。

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