暗号式ラブレター

結城綾

暗号式ラブレター

 6708。交際中の彼女から、突然コミュニケーションアプリで送られてきた四桁の数字。深夜二時。丑三つ時で、月がよく見える頃合いだ。

 「これ、なんなの?」

 「君/に/暗号」

 それはそうだ。意味もなく送ってくる方がどうかし

ている。

 「なんだろう……ポケベル?」

 数字だけの暗号といえば、これだ。

 「違う」

 即決で否定される。流石に違った。そもそも僕らは、ポケベル世代から遥か彼方の時代を生きている。今そんな暗号を送っても、せいぜい懐かしいと言われて終いだろう。彼女がそんな無意味なことをする人間とは、到底思えない。

 「分からない。答えを教えて」 

 「ダメ、大事な暗号なんだから」

 大人しく降参しようと腹をくくったが、どうしても解いてほしいのか断られた。

「ヒントはもう送ったよ。変換してみて」君に暗号がヒント……?UniCode──なるほど、彼女が何を伝えたいのか理解出来た。確信に至るため、高速でメッセージを送信する。

「数字に法則性はある?四則計算の記号は使う?数字は文字に変換される?分類分けはされる?国際的に使われている?コンピュータに搭載されている?」

 これらの質問のすべてに──彼女は了承した。

 「返事を、聞かせて」

 無駄をしない性格とばかり思っていたが、こんな大胆な告白をしてくるとは予想外だった。ダジャレめいたことが好きなのも、意外だ。さてなんと返答するべきか迷っていると、煙草と酒から妙案を得る。

 5451、月似合う暗号。

 この返答に彼女は、「喜んで」と応じてくれた。

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暗号式ラブレター 結城綾 @yukiaya5249

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