黒猫が2匹

ガビ

黒猫が2匹

 あの頃、毎日のように黒猫の夢を見ていた。


 あの頃というのは、妊娠期間のことだ。

 つわりで常に吐き気を催す上に、全身が怠く心細かった。

 しかし、旦那のシンが有給をとってまで側にいてくれたので、何とか精神を保っていた頃だ。


 最初は、「有給なんかとらないで良いよ。また、ゆとり世代はどうこうって嫌味言われるよ?」と強がっていた私だが、今では本当に感謝している。


 普段から明るく振る舞っている私だが、一皮剥いたら孤独が苦手な泣き虫なのだから。


 そんな時期に、小さな黒猫の夢を見ていた。


 撫でようとしたら逃げるくせに、こっちが意識していない時に近づいてくる黒猫の夢を。


 不吉の象徴とされる黒猫だけど、私は嫌いではない。


 まず、全身黒ってのがシンプルが故に美しい。

 あと、自分が認めた相手にしか心を開かないところも好感が持てる。


 そのことをシンに話したら、奴は朗らかな笑顔を浮かべながらこう言った。


「君にそっくりじゃないか」


 そうだろうか。

 私も社会人になってから何年も経つ。昔よりは人と積極的に関わるように努力しているつもりだ。


「んー。頑張ってるけど、営業スマイルの奥にある相手への興味の無さが隠しきれていないよ」


 私のことを誰よりも理解しているシンが言うのならそうなのだろう。


「まぁ、そういうのが苦手な君が僕は大好きなんだけどね」


「そりゃどーも」


 今、私はクールな嫁でいれているだろうか。

 照れ臭さから、己のお腹を撫でる。


 この世に生まれてこようと懸命になっている小さな小さな存在を想いながら、私は呟く。


「でも、この子は私には似てほしくないな。絶対苦労するから」


 私の思春期は、優等生とは口が裂けても言えないものだった。

 そんな私なんかよりも、派手さは無いけど真面目で優しいシンに似てほしい。


 そんな話をした晩も、黒猫の夢を見た。



\

 14年後。


「ママー! 明日三者面談なんだけどー!」


「は!? 急に言われても困るんだけど!」


 忙しい朝、私と娘のレイカは、今日も今日とて言い合いをしている。


 私の願いは叶えられず、レイカは私には似てしまった。

 ズボラなところとかが特に。


 でも、似ているということは好みが合致することが多いので推しのアイドルやアニメのキャラについて喋れるのは良かった。


 だから、その日の夜には仲直りをして、友達のように推しトークに花を咲かせていた。


「でさー……あ。これは関係ないからいいや」


「いやいや。気になりすぎるから言いなさい」


「でも、ホントに関係ないんだって」


「良いから、言ってみ?」


 観念したレイカは、少し恥ずかしそうにしながら言う。


「なんか、最近自分が黒猫になる夢を見るんだよね」




-了-

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