ハヤブサ

松葉あずれん

今世の渡り鳥

 俺は四月、三つ子の末っ子として生まれた。三羽ともオスだった。

 北国の春には、冷たく湿った空気が残っていた。風が吹く、東向きの岬だった。辺りの雪は溶けだし、海には霧がかかっていた。岬の崖の小さな窪みに巣はあった。夜は深く冷え込み、俺らが身体を押し付け合い温めていると、母の大きな体が覆いかぶさり、三羽揃って安らかに眠るのだった。

「起きなさい。」

朝は母に起こされた。太陽が直に当たって眩しかった。

「私たちは狩りに行くからね。」

 母と父は共同で狩りをする。俺は寝起きが悪かったから、朝は意識が朦朧としていた。兄達は親鳥の狩りを舐めるように見ていたが、俺はあまり興味が無かった。

 ずっと、海を見ていた。海はいつ見ても美しい。朝は太陽を淡く反射して、空よりも彩度が低くなる。まるで薄い水色の水風船のような海面を、いつか自分の嘴で二等分するのだと妄想していた。昼は海の上を横切る物全てに影を作る。渡りを躊躇って彷徨うヒヨドリの群れにも、海を出たトビウオにさえ影を作った。唯一海を恐れたのは、夜だった。辺りの何よりも深く暗い色をしている海は空に浮かぶ星も、風も、自分の嘴も遠く及ばない、非力なものであるという風に感じる。それは美しいのだけれど、とても直視できない。眠る時には決まって海に背を向け、波の音に震えながら目をつむっていた。

 餌を咥えた母が巣に戻ってくると、一番上の兄がいの一番に食いついた。長兄は体に加えて気が一番大きく、成長も三羽の中で断トツに早かった。喧嘩をしても勝ち目が無かった俺らはいつも兄に従った。真ん中の兄は要領が良かった。体が小さい俺にも威張らず、優しく余った餌を分けてくれた。彼は色んな事を父から教わっていた。鳥を狩る時のコツや、自分よりも大きな鳥に襲われそうになった時の対処。父と兄の会話を流し聞きしていただけで、相変わらず海を見ていた鳥が一羽いた。



 俺らは徐々に成鳥に近づいていった。その証を最初に手に入れたのは長兄だった。

「おい、これ見ろよ!」

真っ白な羽毛に覆われた腹に出来た、黒い斑点を兄は見せびらかした。

「凄いじゃん!かっこいい。」

と次兄が言うと嬉しそうに笑っていた。

 この時期になると、俺は頻繁に海を泳ぐ夢を見るようになった。

 最初に見た夢は大きな鯨だった。海には自分以上に大きなものはない。自分を攻撃するものもいなかった。海面が十メートル程上にあった。目はあまり見えないが、音で周りを理解できる感覚があった。恐らく左斜め前にイワシの群れがある。その方向へ泳ぎながらゆっくりと口を広げると、イワシが何十匹も口の中へと入っていった。それを徐々に咀嚼して俺は大いに満足した。その後も地上に近づいて潮を吹いたり、温かい海流に乗ったりした。

 ある時は珊瑚や海月だった。視力や聴力が無く、強い光を体で感じて方向を理解した。波に揺られるのは気持ちがよかったが、いつ天敵に襲われるかわからない恐怖が意識の底に纏わりついていた。

 他にも様々な水生生物になる夢を見たが、空を飛ぶ夢は見なかった。それはきっと、空を飛ぶことに憧れや期待を抱いていないからだろう。目を瞑って羽を広げて大空を旋回する自分の姿を想像してみたが、空に対する恐怖と将来に対する嫌悪が募るばかりだった。



 そんな風に過ごしていたある日、真ん中の兄が海を見ている弟に話しかけた。

「あれ、見て。」

兄の視線の先にあったのは海の魚を狙う大きなオジロワシだった。広い羽根を広げ、恐ろしい爪を隠しながら海の上を旋回していた。俺は怯えて草陰に身をひそめながらその様子を見守っていた。そこは俺らのテリトリーだったが、自分の倍近い大きさに母はたじろいでいた。一番上の兄は威嚇こそしなかったものの、怒りで釘付けになっていた。真ん中の兄は俺の側に身を寄せ、俺を守ってくれていた。

 やがてオジロワシは後ろの方へ旋回してから勢いをつけ、大きな爪を海へ振り下ろした。彼のお目当ては鮭だった。しかし、鮭は華麗に水面を跳ね爪を避けたかと思えばその勢いで深くまで沈んでいった。獲物を捕り逃してしまったオジロワシは辺りを見渡し始めた。まずい、このままだと見つかってしまう。そう思った時だった。ヒューっと風を切る音が聞こえたかと思うと、ありえない速度で一羽のハヤブサが遥か上空から急降下し、オジロワシの背をかすめた。父だった。それは間違いなく、人生で見た中で最も速い滑空だったと思う。一秒間で百二十メートルは進んでいただろう。巨鳥は驚き、北の海へと逃げ帰っていった。すぐに父は巣に帰って来て

「大丈夫だったか?」

と俺らを見回した。

「親父、あんなに早く飛べるのかよ。」

息を呑んで見ていた長兄が口を開いた。

「まあな。」

「でも、あんな速さでお父さんが飛ぶ所、見たこと無いよ。」

真ん中の兄がそう聞くと、父は微笑みながら答えた。

「速さは見せびらかすものじゃないんだよ。」

父の体は母よりもずっと小さかった。俺は父の風切羽をじっと見つめていた。父は俺の視線に気付いて右翼を広げ、こう言った。

「小さいだろう?体も羽も、大きけりゃいいってもんじゃないんだ。言ってしまえば──風を読む力だな。これは速く飛ぶだけじゃない。獲物の動きを読む事にもつながる。」

体が生まれつき小さかった俺は、自分を肯定されたような気持ちになって少し嬉しかった。

「ただ、体が小さい物は狙われやすい。それが自然の摂理だ。だから、もしもの事があったらお前らはこいつを守るんだぞ。」

俺を指し、父は兄達へ言った。

「大丈夫、俺が守るよ。」

一番上の兄が言った。いつもは俺をぞんざいに扱うのに、責任感にあふれた声と目をしていた。父の前だからこんな事を言っているというよりも、彼なりのプライドと責任を背負っているように思えた。



 そこから一か月ほど経ったある日だった。俺にも黒い斑点が至る所に出来て、体の大きさも父より一回り小さいくらいになった。また長兄の外見は成鳥と言って差し支えない程立派になり、体の大きさが母と良い勝負になる程成長していた。いつもの狩りを終えて母が巣に戻ってくると、母が言った。

「そろそろあんた達、飛べるんじゃない?」

 海を見ていた俺は慌てて振り返った。それは俺が最も恐れていた言葉だった。

「飛べるに決まってんだろ!」

吐き捨てるように言う長兄とは対照的に、目を輝かせながら次兄は言った。

「じゃあ母さんの見本を見せてよ。」

「いいわ。」

とだけ言うと母は飛び立ち、空を包み込むように大きく、一回りだけ旋回してみせた。

「どう、やってみる?」

次兄は母の真似をして崖の端に立ちながら何度も羽を上下させた。すると長兄が我慢できなくなり、次兄を脇へどかした。

「見てろよ。」

長兄は恐れることなく崖を離れ、その大きな翼を広げ、弧を描くように海面を這った後、上手く高度を上げて巣へと戻ってきた。それを巣の上からじっと見ていた母は案外そっけなかった。

「初めての飛行にしたら、そこそこね。」

兄はもっと露骨に褒められると思っていたのか不満をあらわにした。それもそのはずで、一度も飛んだことが無いとはとても思えない程の安定感を持つ見事な飛行だった。大きな翼を存分に活用して揚力を生み出す豪快さに俺は嫉妬に近い憧れを抱いた。

「あなたも飛んでみなさい。」

次は次兄の番らしかった。

「はい。」

そう言うと再び羽を上下させそのまま三十秒弱、予備動作を続けた。兄は思い切って崖を飛び降りた。最初の五秒程は上手く風に乗れていたのだが、突風によって体のバランスを崩し、落ちる前に母に拾われ巣に戻った。

「どう?」

「少し怖いけど、楽しいです。」

「そう。」

母はほころんだ。次は俺の番だ。実を言うと、次兄の飛行の間ずっと足が震えていた。意地を張って崖の下を少しだけ覗き込んでみた。死ぬには十分の高さがあった。もし失敗したとしても母が助けてくれるだろう。しかし、頭ではわかっていても怖いものは怖かった。

「ほら羽を開いて。」

母は怖気づく俺に優しく言った。早くしろよといわんばかりにこちらを見つめる長兄の視線が痛かった。俺はゆっくりと羽を広げる。広げた両翼は八十センチにも満たなかった。この羽でこの岬に吹く強い風を受けきれるだろうか。

「大丈夫、がんばって。」

次兄がそう声をかけてくれた。その声で俺は覚悟を決める事が出来た。羽を何度も上下させてから崖を思いっきり飛び降りた。

正面には東寄りの太陽が見えた。俺を笑っている。そう思った。羽を何度も羽ばたかせるが、風は無慈悲に俺を煽った。右へ、左へと羽が傾くうちに自分の重心がわからなくなり、上下がわからなくなった。俺は気持ち悪くなって目を瞑ってしまった。だめだ、落ちる。そう思って目を思いっきり開けると、青空に浮かぶ分厚い積乱雲が見えた。空は、怖い。どうしてなのか、俺は小さい時から空が怖かった。きっと、風だろう。俺は風が怖いんだ。目には見えないのに、いつ強くなるのか、弱くなるのかがわからない、その不確定さが俺をこの上なく不安にさせるのだ。ああどうして鳥に生まれてしまったのだろう。いっそ魚に生まれていたのなら、俺は一生をもっと楽しめたのに。視界の青空は徐々に広がりを見せ、落下するスピードも増していた。もう海の中へ沈んでしまうのではないのかという所で、やはり母に拾われた。

「大丈夫?」

母の顔は見えなかったが、俺は言葉を返せなかった。

母は足で俺を優しく、しっかりと掴んでいた。今度は海が目に移った。ちょうどスズメダイの大群が真下にあり、仲間同士でじゃれあっていた。視界が西側に移ると色とりどりのキュウセンが海を思うままに泳いでいる。いつもと変わらない海の上には親鳥に連れられる幼鳥の影ができていた。

 巣に戻ると退屈そうな長兄と、俺を心配する次兄に迎えられた。

「大丈夫だった?」

俺はうつむきながら

「うん。」

と答えた。

「今日飛べるようにならなくたっていいのよ。何度も試せばいいわ。」

母は俺と次兄を慰めるように言ったが、要領の良い兄が先に飛べるようになることは自明の理だった。



 夜、俺は眠れなかった。いつものように夢で海を泳ぎたかった。温かい流れに乗って、ぼんやりとした光を感じながら、海底から湧き出る気泡の音を聞きたかった。明日になれば、また飛ばなければいけない。正直、今日崖から飛び降りることができただけ奇跡だ。あの恐怖を何度と味わったところで、自分が成長できるのか俺にはわからなかった。次兄は明日か明後日くらいには飛べるようになるだろう。俺ほど怖がっていた様子もないし、兄は昔から何事も吸収が早い。背後に波が岩にぶつかる音が聞こえる。俺は目を開けて巣をそっと抜け出した。崖端に立った。勇気を出して空を見上げると、雲一つ無い空に満月がぽつんと出ていた。大きくもないし、小さくもなかった。俺はしばらくの間、何かを求めて月を見ていた。それは具体的な救いだったかもしれないし、一時的な慰めだったかもしれない。あるいは空を支配する月そのものへの憧れかもしれなかった。

「眠れないのか。」

 いつの間にか父がそばに立っていた。俺は頷いた。

「今日の飛行、見てたぞ。」

あれはおおよそ『飛行』と呼べるものではないだろう。

「空が怖いんだろう?」

俺は目を丸くして尋ねた。

「どうしてわかるの?」

「俺も怖いからだ。」

その言葉は俺を励ますためだけの言葉のように聞こえた。

「あんなに速く飛べるのに?」

「ああ。」

しばらく沈黙が続いた。

「父さん、俺の前世は魚だったと思うんだ。」

「どうして?」

「夢を見るんだ。自由に海を泳ぐ夢を。」

父は少し黙ってから言った。

「お前は魚になりたいのか。」

そうかもしれない。でも声には出さなかった。

「お前はどうして、鳥に生まれたんだと思う?」

「理由なんてあるの?」

「あるさ。」

俺はしばらく考えた。

「空を飛ぶため?」

「そうだな…。ある意味では、そうだろう。」

「じゃあ何?」

「俺の口からは言わないよ。ただ、答えは風の中にある。風に吹かれている。」

「どうして?」

「お前が鳥だからだ。全ての答えは風の中にある。お前がもし魚だったら水の中にあるかもしれない。でもお前は鳥だろう?だからお前は空を飛ばないといけないんだよ。」

俺は父さんの言葉を咀嚼しながら満月を見ていた。

「父さんは風の中で答えを見つけられたの?」

「いくつかはな。でも全部じゃない。」

それから俺の目を見てこう言った。

「自分が鳥として生きる意味をお前は知りたいか?」

「知りたい。」

「なら色んな風に吹かれるんだ。油断をしてはいけない。だけど、お前はどんなに強い風でも乗りこなせるさ。ハヤブサなんだからな。」

父はおやすみとだけ言った後に、俺を巣へ連れて帰った。俺は目を瞑った。



 朝目を覚ますと父と母が協力してガンを追いかけていた。母は大きな両翼を上手く使って安定した飛行をしている。逃げ回るガンと同じスピードでしばらく辺りを旋回していた。明確に、普段よりも風が強い日だった。何度も辺りを周回した後に、気付かれないように父が上空から急降下して、見事に獲物を捕らえた。兄の反応を見ていると、これが普段の狩りのやり方らしかった。

 しばらくすると母がガンを咥えて巣に戻ってきた。

「少し大きくて食べにくいかもしれないけど、三羽できちんと分けてね。」

父や母も食べる事を考えると、ちょうど今日一日分といった量だった。母が嘴で皮膚を裂くと、長兄が真っ先に食いついた。それはいつもの光景だったが、崖端に立っていた父が遠くから口をはさんだ。

「先に弟達に分けてやりなさい。飛ぶ練習をするんだから。」

兄は大きめに肉を食いちぎって死体を離れた。

「昨日は眠れた?」

夢は見なかった。深い眠りだったからかもしれない。寝起きにしては頭も良く冴えていた。

「飛ぶのが楽しみで良く眠れなかったよ。」

次兄は母にそんな事を言った。母はそう、と嬉しそうに頷いた。

 母は昨日と同じように、次兄に一対一で飛行のコツを教えた。羽を何度か上下に振ってから、何度も崖を飛び降りた。飛行距離は徐々に伸びていき、強い風を受けても、それを上手く流すコツを身に着けたようだった。ゆったりとした自由度の高い飛行で、空の上に自分の思い浮かべる螺旋を描く兄はとても楽しそうだった。

「俺、飛んでていいか?」

その様子を見ていた長兄が退屈そうに父に言った。

「そうだな…。なら、出来るだけ長く飛んでみなさい。」

長兄は立ち上がって崖端まで歩いた。両翼を広げたまま、しばらく風を受けていた。

「無理はするなよ。」

と父が言うと

「ここから見える範囲より遠くに行ってはだめよ。」

と母が付け加えた。

「おう。」

 兄は目を瞑って風を感じているかと思えば、飛び立った。風に身を任せ高度を上げ、羽をしまって落下する、という動作を何度か繰り返した。次兄はなんとか自力で巣まで帰ってきた。

「兄さん、すごいな。」

 その華麗な飛行を弟らで見ていると、父が俺を岬の頂上に招いた。母は長兄の飛行を心配そうに見守っていた。

「どうしたの?」

「あまり大きい声を出すなよ。」

俺は首を傾けた。

「俺がお前らと関わるのを母さんは嫌がるんだよ。」

確かに、父は普段から巣に近づこうとしない。

「それで?」

「昨日話した事を覚えてるか?」

俺は父の目を見て頷いた。

「お前は、兄貴達のように飛ぶことはできないだろう。」

自分でも薄々感じていたことだが、実際に言葉にされると悔しかった。

「それは仕方のないことだ。」

「体が小さいから?」

「それだけじゃない。あいつらはまだ、空の怖さを知らない。」

それから父は一歩前へ踏み出した。

「一度風を怖いと思ってしまったやつは、あんなに安定して飛べない。でも、あいつらより速く飛ぶ事はできる。お前は誰よりも速く飛べる。」

父は小さな両翼を広げた。

「良く見てろよ。」

 崖から飛び降りて、太陽と重なるように高度をあげていった。五百メートルほどあがった所で徐々に翼を畳み、速度をつけ旋回しはじめた。やがて翼を体にぴたりと、鎌のように畳み込んだ。尾羽も少し狭めていた。体全体は水滴のような形になり、抵抗を減らしながら急降下した。頭を下げ、首を縮めることによって空気を上手く流していた。やがて真下の海に近づいてきたと思えば翼を部分的に広げ、方向転換をして、鋭い爪を海の中へ振り下ろした。足元で暴れる魚を丁寧に押さえつけ、再び浮上し、岬の頂上まで帰ってきた。

「落ちる時は、少し背中を反るんだぞ。」

父が手に入れた獲物は、生まれて一年程のスズキだった。

「魚は蓄えておく訳にもいかないから、俺が食べるぞ。」

俺は少し勇気を出して尋ねてみた。

「俺も食ってみていいかな?」

俺はあれほど海に憧れておきながら、一度も魚を食べたことが無かった。

「おう。」

身をちぎると、口いっぱいに血の臭いが広がった。思わず吐き出しそうになったが、我慢して飲み込む。お世辞にも美味しいとは言えない味だった。父は俺の表情を見て

「そんなもんだよ。」

と言った。もう一切れ魚を咥えると、父は海の方を見た。

「あいつ、随分遠くまで行くな。」

長兄は二百メートルくらい離れた海を、左向きに、沿うように低空飛行していた。父は俺に母の元にこっそり戻るように言うので、兄の飛行を見ながら巣の近くまで歩いた。

 巣の近くで黙って見ていると、長兄の姿は次第に母の視界を遮る北側の岩場に消えてしまった。崖端に立つ母を見ると兄の元へ飛び立つべきかどうか迷っているようだった。父は母に

「追いかけないでいいよ。あいつはきっと、もっと遠くまで飛べるようになりたいんだ。」

と呼びかけた。母は渋々羽を休ませた。長く空を飛んで腹が減ったのか、次兄は再びガンをつついていた。

「母さん、俺も飛んでみていいかな。」

「別に、今日じゃなくてもいいのよ?今日は風も強いし…。」

母は心配そうに言った。

「いや、今日は飛べる気がするんだ。」

朝起きた時から、体中の感覚が格段に鋭くなったような気がしていた。

 目を閉じて、崖端に立った。父の飛行を思い出す。岬の風は、向かい風や追い風といった一辺倒の方向ではない。東西南北に加え上下さえもが複雑に入り乱れる風が吹いていた。頭を振り、嘴で空を切れば風の向きを変えられる魔法が、俺だけに与えられたのだと強く思い込んだ。俺は頭を下から上に振り上げ、上向きの追い風を心の中で吹かせた。羽を大きく広げて崖を飛び降りる。下を見るのは恐ろしかったので、俺はずっと空だけを見ていた。慣れないうちは、翼を何度上下に振っても太陽の大きさは変わらなかった。しかし自分が兄のように大きな翼を持っていると思えば、不思議と高度は上がっていた。雲が随分と近くなってきたその時、俺は地上まで降りる術を知らない事に思い当たった。とりあえず、高度を維持しながらゆっくりと真下にあるはずの海へ視線を落とした。──思わず息を呑んだ。あまりにも広く、遠い海に眩暈がしそうになる。地球は丸いのだという事を俺はこの時初めて理解した。東側は海が続いていて、青い陶器のように見えた。西側には崖際で俺を見つめる母と、岬の高台に立ち何故か背を向ける父の姿が見えた。母は心配というより、驚いていた。無駄が多く、のろい飛行に見えたかもしれないが、俺がこの高度まで羽ばたけるとは、俺自身さえ思っていなかった。

 しばらくの間、この世界が丸いという事実に俺はどうしようもなく惹かれた。胸が躍り、果てが知りたくなった。俺は早々にこの感情を頭から排して、どうやってあそこまで降りるかを考えた。いっそ、父のように急降下してみようか。母が飛び立ち、俺を助けに来ようとしたって、それは間に合わないだろう。しかし、父には

「お前は誰よりも速く飛べる。」

と言われた。今までの俺なら、そんな言葉を真に受ける程の余裕が無かっただろう。でも上空を飛び、羽を目一杯広げている今なら、そんな素直な自分を許せるような気がしたのだ。俺は風にどう思うか聞いた。風は愚かだと言った。それでも俺は父のように、風を速く切りたかった。俺は海上のあるポイントの真上に来た瞬間、羽を畳んだ。頭を下にして首を縮ませて尾羽も狭めれば、銃口から放たれた弾丸のように空気を切り裂いた。銃を撃った後の煙が雲を作った。父のアドバイスを思い出し、少し背中を反ってみると速度がさらに増した。

 やがて、海と接触するまであと少しという所で俺は目一杯に翼を広げた。海面すれすれで低空飛行することに成功した俺は、水に映る俺を見た。俺は既に、紛う事無きハヤブサだった。嘴を水面に少しだけつけ水を切れば、果ての無い海を俺が等分した。また、海を泳ぐ俺も果ての無い空を等分していた。しかし、俺はこれらの二羽が全く別の生物のように思えた。空を飛ぶ俺が偽物で、海を泳ぐ俺が本物であるような錯覚を何度か起こした。俺は羽ばたく事も忘れて、徐々に速度を落とした。速度を落とすことへの恐怖も忘れていた。海を水平に飛行して随分の距離を来てしまったかもしれない。気付けば、周りを見渡しても海以外に見当たるものは無かった。方角もわからないが、不思議と焦りや不安は無かった。ただ強く、海を泳ぐ自分と一つになりたいと思った。

 そうだ、このまま海に沈んでしまえばいいのだ。そうすれば俺らは一つになれる。そんな事を考えていた時に、ちょうど強い向かい風が吹いた。俺は体を思い切り煽られ、上下が逆さまになった。青い空が見えた。昨日見たような分厚い積乱雲は無く、ぽつぽつと小粒の積雲が見えるだけだった。すぐに、背中が水に浸った。来世こそは、魚に生まれ変わって海を思い通りにするのだ。そう思った時だった。俺は何物かに腹を大きな爪で掴まれ、再び空に連れ戻された。最初はトビか何かかと思ったが、それらにしては体が小さすぎた。それでも、俺よりは大きかった。

「大丈夫か?」

長兄は俺の顔を覗き込んだ。俺はとっさに言葉が出なかった。

 しばらく海を南下しながら、兄は高度を上げていった。海に映る俺を見てみると、彼はもう海の中に居場所を見つけたような顔をしていた。少し寂しかった。

「ありがとう。」

「いいよ、別に。」

「ここはあの岬より北の海なの?」

「ああ、一キロくらいな。」

そんなに遠くまで来ていたのか。俺は少し勇気を出して、兄に急降下していた事を言ってみた。

「俺、凄く高い空から急降下したんだ。」

「そうか。」

兄の返事が案外そっけなくて、俺らはそこから口をきかなかった。



 岬に着くと母が俺らにきつい説教をした。そのせいで、その日はそれ以上飛行の練習をすることなく終えた。

 俺は巣の中で目をつむりながら今日の急降下を思い返していた。父に会って話したかったのに、一日中狩りに出ていたのが少し不満だったが、良い一日だった。俺はきっと、あの感覚を忘れることはないだろうと思った。俺はあの瞬間、間違いなく、誰よりも速いハヤブサだった。



 俺はその日から一週間程である程度の飛行ができるようになった。やはり兄達のように、安定して飛ぶことはできないが、三兄弟の中で一番、速く飛べるようになった。

 飛行の練習が終わると今度は狩りの練習が始まった。三羽での狩りはお互いの長所と短所を上手く補いあう事で、スムーズに進んだ。まず長兄が大きな翼で辺りを飛び回り獲物を見つける。次に次兄がその獲物を空中で追い回す。兄はよく小回りが利く羽を持っていて、その間長兄は横取りする外敵が来ないかを見張っていた。そこに俺が自慢のスピードで空を急降下し、獲物を捕らえるのだ。この連携は特に成功率が高かった。いずれは一人だけで狩りができるようにならなくちゃだめよ、と母は口酸っぱく言っていたが、このやり方なら三羽分の食料を手に入れられるだろうと俺らは考えていた。

 母は常に心配そうに俺らの狩りを見ていたが、夜、母が眠った後に父はその日の俺らの狩りに対して的確にアドバイスをした。一か月くらい練習は続き、俺らの連携にも磨きがかかっていった。次第に父や母は俺らに餌を与えないようになり、自分達の狩りだけで食料を調達するようになった。

 ある夜、長兄が俺らにこう言った。

「そろそろここ、出るか。」

同じことを思っていたのか次兄はすぐに

「そうだね、明日の朝には出ようか。」

と言った。

「お前もそれでいいか?」

長兄の視線は俺に向けられていた。俺は親鳥に一つだけ未練があった。それは父にきちんと自分の急降下を評価されることだった。俺はあの初めて急降下をした日以来、父とまともに話していなかった。

「俺、一つだけ済ませたいことがあるから、明日の朝少しだけ待ってくれる?」

兄は了承した。

 俺はその夜夢を見た。夢の中で俺は、鳥だった。俺は一夜にして、色んな所を飛び回った。正直、あまり正確に風景を思い出すことはできないが、何を見たのかは大体の所覚えている。一面が黄土色で覆われた砂の大地に、太く長い木がこれでもかと密集し、蔦がそれらに絡まっていた林も見た。これは現実に存在するのだろうか、あるのなら、実際にこの目で見てみたい。

 朝は珍しく早く起きた。巣を出て父を探した。岬の頂上まで行ってもその姿は無かった。どこかへ狩りに出ているのだろうか。俺は辺りを少し飛び回ってみた。海の上にも、岬の周辺にも父はいなかった。俺は思い切って内陸の方へ飛んでみた。岬を西へずっと行くとある山岳地帯が広がっている。雪はまだ溶けておらず、キツネの親子がいくつか住み着いていた。しばらく空を飛びながら山を見下ろしていると、どこか遠くでシャッと強く風を裂く音が聞こえた。鋭く、速く突き抜けるような音だった。俺は山に近づき、それなりに高い針葉樹の枝に止まった。そこからは山の谷間がくっきりと見えて、気まぐれな山風が吹いているようだった。静かに耳を立てているとまた、同じ音がした。と同時に谷底に急降下して落ちていく一羽の鳥を見た。それはやはり父だった。俺は話しかけることができずに、しばらく遥か上空から谷底まで何度も急降下する父の様子を見守っていた。父は速かった。強く横から吹きつけられる風を読み誤れば、岩壁に追突して死んでしまうだろう。でも父は何十回も自分の限界を試すように急降下していた。俺は枝からそっと飛び立ち、兄が待つ岬まで戻った。



「もう終わったのか?」

 俺は頷いた。兄達は俺を差し置いて、どの方角へ向かうのかを話し合っていた。長兄が飛行の練習の際に北の方にも岬があるのを見たというので、とりあえずそっちに向かう事になった。

 まず長兄が大きな翼を一振りして北へ進みだした。それに次兄が続き、最後に俺が付いて行った。二度とここに戻ることは無い。

 北の岩場を抜けると、広大な海に出た。海は朝日に照らされて少し嬉しそうだった。波があげる飛沫の白はそれ以外に同じ色が見当たらなかった。

 かなり長い海を抜けると、俺らの正面に南向きの岬が見えてきた。

「ここだ。」

兄がそう言って、ここが他のハヤブサの縄張りで無いことを確認してから地上に降り立った。崖は前の岬より鋭く、波が荒く、生き物も少なかったが、良い風が吹いていた。俺らはそれだけを理由に、ここに住み着くことを決めた。

 俺らはしばらく安定するまで三羽で暮らそうということになった。ある夜、狩りが終わった俺はこんなことを口にした。

「兄さんたちは、海を渡るの?」

「いや、渡らない。ここは冬になるとそれなりに冷え込むから渡るやつもいるが、別に暮らせないって程じゃ無いしな。」

長兄は同意を求めるように次兄を見ると、次兄にこんなことを言われた。

「わざわざ渡る必要は無いと思うよ?海の先になんて、何もないんだから。」

それは確かにそうだろう。でも、俺は海を越えた先にある世界をただ見てみたかった。

「お前は渡りたいのか?」

長兄は俺の目を見て尋ねた。俺は強く頷いた。

「じゃあ、もっと体力をつけないとな。」

「うん、そうだね。」

俺は少し目を逸らしながら、バツが悪そうに頷いた。

 兄達が寝静まった後、岬の崖端に立ち、そっと海を見下ろしてみた。小さい頃はこの夜の海がどうしても怖かった。それが少し可笑しくて、吹き出してしまう。空をある程度自由に飛べるようになった今となっては海を恐れる必要は無かった。俺は海に映る俺に話しかけてみる。

「海での住み心地はどう?」

「まあまあ快適だよ。今はもうずいぶん慣れたけど、最初は息をするのも辛くて、大変だったんだ。そっちは?」

「俺はかなり速く飛べるようになったよ。空も怖くなくなった。」

「そうか ──俺は海が怖いよ。」

しばらく間を置いてから俺は言った。

「お前が羨ましいよ、俺も海を泳いでみたかった。」

すると海に映る俺は目を見開き、こう言った。

「お前もしかして、いつかは自分も本当に海を泳げるようになると思っていないか?」

俺は黙り込んだ。

「お前はずっと俺への憧れを支えにここまでやって来た。それは大いに結構。だが、海を泳ぐという幻想がお前に空を飛ぶ力を与えたにも等しい。お前は空を飛べたんだ。もう海を泳ぐなんて幻想は切り捨てないといけない。わかるだろう?」

俺は頷き、崖を離れた。



 移住してから二、三か月経った日のことだった。俺らは未だに離れず、三羽で暮らしていた。よって三羽分の食料を確保するために、例の連携を行っていた。俺は遥か上空にいて、次兄が海の上でアジサシを追っていた。その日はいつもより風が強く、タイミングを掴みづらかった。俺らは獲物に夢中になっていて、長兄が姿を消したことに気付かなかった。いつもは獲物を中心に直径五百メートルくらいを巡回しているのだが、その日は見えなかった。

 俺は迷いを感じたらすぐに風に聞く癖があった。その日はそれをしなかった。自分だけの力であのアジサシを捕まえたいという衝動に駆られたのだ。じっくりと風を読み、獲物の動きを読む。強く吹く風の間に一つの小さな隙間を見つけて、羽を畳んだ。あとは急降下するだけだったが、誰かの強い威嚇の鳴き声が聞こえて、それは中断されてしまった。飛びながらなんだろうと思っていると、南から大きな一羽の鳥とそれを追う長兄の姿が徐々に近づいてきた。あれはなんだ?全体的に茶色っぽい体に尾羽や頭は雪のように白い。体も俺らの倍近くある。そして何よりその鳥に俺らは見覚えがあった。オジロワシだ。父が追い払ってからあの岬に戻ってくることは二度となかったが、こんな遠くの岬まで来ていたなんて。長兄は巡回の途中であの巨鳥に出会い、俺らの縄張りから追い出そうとしたが、ここまで来てしまったのだろう。かなり近くまで来ても次兄はアジサシを追っていて、気付く気配は無かった。

「兄さん!後ろ!」

俺はできるだけ大きな声で兄を呼んだ。兄は気付き後ろを振り返ったが、オジロワシは思いのほか速く、ほとんど彼の射程距離まで来てしまっていた。

 しかし上空にいる俺はさほど焦らなかった。次兄が一瞬奴に捕まってしまったとしても、俺があの巨鳥を急降下で攻撃し、追い払えばいいだけの話だった。俺は狙いを定め、準備を整える。ワシはアジサシではなく、次兄を狙っていた。巨鳥は次兄の腹をめがけて足をのばし、兄は掴まれた。俺は羽を畳み、最大限の速さで下降した。あいつの背中に傷でもつけてやろう。徐々にオジロワシへと近づいていく。しかし、ワシを目の前にして翼を広げ、爪を振り下ろそうとした瞬間、あり得ない風が吹いた。一瞬、俺は何が起こったのか理解できなかったが、俺が今までに経験したことのない程強い向かい風に体は無力にもバランスを崩した。あと、ほんの少しだったのに。そこから俺は暴れる次兄とそれを追う長兄をただ見守ることしかできなかった。



「起きたか。おはよう。」

 次の日の朝、目覚めると巣には俺と兄の二羽だけだった。 ──夢では無かった。

「俺は獲物を見つけてくるからな。」

そう言い残して兄は巣を飛び立ってしまった。俺は兄を待つ間、久しぶりに海をじっと見つめてみる。俺はハヤブサとして、そもそも鳥として、ある程度成長したつもりだった。近頃では空も怖くなって、ある程度の自由が利くようになった。なのに、あの突風を受けてから俺は足元の地盤がぐらぐらと揺らぎ、鳥としての大切な何かをすっかり忘れてしまったようだ。海はいつもと何ら変わらなかった。

「待たせたな。」

 兄が捕まえてきてくれた獲物は小ぶりな野鳥一匹だった。彼は巣にそれをそっと置く。二羽で分けるにはかなり少ない。兄がほとんど食べきってしまうかもしれない。そう思っていた俺に、兄は見つめながら言った。

「早く食べろよ。」

俺は黙ってそれをついばんだ。やがて食べ終わると俺は我慢が出来なくなって兄に言った。

「今度は俺が獲物をとってくるよ。」

「俺は大丈夫だって。」

俺は兄を無視し、崖端に立った。初めて崖を飛び降りたあの日の事を思い出す。今日は何故か頭がぼんやりしている。本当に上手く飛べるだろうか。俺はどことなく不安んになって、初めて飛べた日にかけた魔法をもう一度やってみた。頭を下から上へ振り上げる。嘴が風を切った。俺は崖を飛び降り、羽を広げ羽ばたかせる。初めは空を見ていたが、雲は何故か少しずつ小さくなっていった。気付けば海面すれすれのところまで高度は落ちてしまって、それを兄に拾われた。兄は何も言わなかった。

 巣に戻ると俺の目を見てはっきりと兄は言った。

「俺にはもう守るものはお前しかいない。だからお前も俺から離れるなよ。」

俺は頷く。

 その日の夜、俺は昼起きた現実について考えていた。どうして飛べないんだ。俺は仰向けになって空を見上げる。星が、月が、風が今までとは全く違うものに見えた。どうしてあんなに平然と空に浮かんでいられるのだろう。

 俺はまた空が怖くなった。


 

 岬には体を刺す冬の風が吹いていた。俺も徐々に飛ぶ感覚を取り戻しつつあった。と言ってもそれは安定せず、対してスピードも出ない全く不完全なものだった。兄はその日も朝から狩りに出かけていた。この頃、俺は一つの思いつきについてずっと思考を巡らしていた。それを実行するべきか、そして兄に言うべきか。

 俺は食料をもう二日程食っていなかった。ただでさえ少なかった生き物は大方姿を消し、兄だけで二羽分の餌を調達するのは無茶だ。

 海に燃ゆる太陽が沈みかける頃、兄は笑顔で帰ってきた。久しぶりに大物を捕まえた彼にこんな事を言うべきなのか、いや、やはり言わない方がいいだろう。また今度にしよう。

「なあ、俺らこれから死ぬまで一緒なんだぞ。そう思うと不思議だよな。」

そう言われた瞬間に、俺は今自分が置かれている状況を理解した。兄にずっと守られながら生きていかなければならない。そして思いつきはより強固な物へと変わり、俺はついにそれを口に出した。

「兄さん。」

彼は顔を見上げた。

「俺、父さんの元に帰ろうと思うんだ。」

 やがて太陽が沈みあたりが暗くなると、どうしようもない絶望が押し寄せてきた。朝は早く来て欲しいのに、夜はまだ明けないで欲しい。久しぶりに、夜の海が堪らない程恐ろしかった。早く朝になってくれ。でもこの夜が明けてしまったら、俺はまた太陽に笑われてしまう。

 十分に飛ぶ元気も無かったが、力を振り絞って、海の上を飛んでみた。海面すれすれを低空飛行すると、海には俺と満月が映った。

「こうなることはわかっていたんだ。」

彼は言った。

「兄に勘当されて、父以外お前の行き場はもうどこにも無い。お前は俺がああいってもなお、海への幻想を捨てきれなかった。それは言い換えるとつまり、空を飛ぶ責任を放棄したんだ。」

俺はつい言い返した。

「放棄してない。ただ、力が及ばなかったんだ。それに…」

「それに?」

「父の所へ戻る気は無い。」

海を泳ぐ俺は嘲る様に俺に言った。

「本気か?」

「ああ。」

「どうするつもりだ?」

「一人で生きていくんだ。」

彼は少し迷ってから俺に聞いた。

「空が怖いか?」

「ああ、怖いよ。」

俺はこの二つの自分がどちらも同じ一羽の鳥であるとようやく気付いた。

 俺は岬の頂上に立ち、朝日を待った。太陽が岬の左側からゆっくりと昇っていく。目の前は南の海だった。海の向こうはここよりも暖かいだろう。俺は羽ばたいた。

「俺は海を渡れると思うか?」

俺は風に聞いた。風は何も答えなかった。俺はいつ終わるかもわからない海を渡り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハヤブサ 松葉あずれん @Sata_Cd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る