獣人の雨の日事情

***

「雨か」



 冒険者のダグは馬車の幌の中から外の様子を眺めていた。


 森の中の街道のそばで一休み。そのうちにポツポツと雨が降り出した。



「こりゃあ、本降りになりそうな...おお、やっぱり」



 ダグが言っている間に雨はどんどん勢いを増し、土砂降りと言って差し支えない勢いになった。


 幌に雨がたたきつけられすごい音だ。景色もかすみ、遠くが見えない。



「あいつら大丈夫かな」


「ぎゃう」



 ペットのサラマンダーの子供も分かっているのかいないのかダグの横で返事をする。


 一緒に冒険している仲間が矢じりに塗る毒の素になる薬草を探しに行ったきり帰ってこない。


 かれこれ小一時間は経っている。


 ダグはその間ここで待っていたのだ。本を読んだりなんかして待っていたがいい加減待ちくたびれたところにこの雨だった。


 やがて、



「お、来た来た」



 遠くから人影がこっちに走ってくるのが見えた。


 カバンを頭にのせているがまるで雨をしのげている感じではなかった。


 人影はやがて馬車の元まで来て幌の雨よけの下に入ると息を休めた。



「はぁはぁ、急に降ってくるんだから」


「大丈夫かアイラ」



 仲間はアイラ。ネコの獣人だった。獣の耳にピンクの長い髪、そしてフサフサとしたしっぽが生えている。



「最悪。ずぶぬれなんだもん」


「とにかくタオルだ」


「ありがと」



 そう言ってダグはタオルをアイラに渡した。


 アイラはタオルでワシャワシャ髪を拭いた。



「はぁ、まったく。毛が多いと大変。こういう時はヒューマンが羨ましいわ」


「そういうもんか」



 そう言いながらアイラは髪だけでなくその大きな耳も丁寧に拭いていく。


 それから尻尾へ。



「ここちゃんと拭かないと匂って仕方ないのよ」


「そうなのか」



 獣人ならではの悩みらしい。女性のアイラにしたら重要事項だろう。


 獣人はヒューマンに比べて毛が多い。なので、雨が降ったらその後のケアが手間なのだ。



「ちょっと」



 と、アイラが言った。



「ん? なんだ」


「幌の中で着替えたいんだけど」


「あ、ああ」



 たゆんとアイラの豊かな胸が揺れた気がした。


 とにかく、そういうわけなら出るしかない。


 

「悪いわね」



 アイラはダグを追い出し幌の中に入ってピシャリと垂れ幕を下ろしてしまった。



「まぁ、仕方ないか」



 ダグはすることもなく雨を眺める。


 と、向こうから人影がまたこっちに走ってくるのが見えた。


 同じく薬草集めに行っていたもう一人。


 人影は全速力で馬車まで走ってくる。そして、幌の雨避けの下に入ると一息ついた。



「はぁはぁ、クソ。急に降ってきやがる」


「ガイ、それアイラと同じセリフだ」


「ああ?」



 帰ってきたのはガイ。こっちも獣人だ。オオカミの獣人、体の獣の比率の高い種族で二足歩行で指のあるオオカミと言った感じの見た目だ。



「ほら、ずぶ濡れだろ。タオルだ」


「あ? 必要ねぇよ」



 ガイはそう言うと、犬よろしく全身をブルブル振り回した。


 そのすさまじい回転によりガイの体の水気は大部分が飛んでしまった。



「ほらな」


「代わりに俺がずぶ濡れだ」



 そして、横に居たダグにその全てのしぶきがかかったのだった。



「ああ、わるい」


「別に良いよ....」



 若干しょんぼりしながらダグは言ったのだった。

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獣人の雨の日事情 @kamome008

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