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 A子は目を覚ました。それはカーテンから漏れた太陽光でもなく、鳥のさえずりでもなく、スマホのアラーム音でもない。それは大人気SNSアプリ「オックス」の通知音で目が覚めた。

「んっ…んっ?」

 A子は寝ぼけまなこでスマホを持ち上げてタップすると、何度もスクロールしても終わらない無限のオックスの通知が届いていた。

「えっ…!?」

 A子は慌てて飛び起きて、オックスを起動する。自分のツイートを見るとなんと自分の自撮り投稿が大バズりしていた。


 A子は一応インフルエンサーである。まぁいつもの投稿は5、6いいね程度の弱小インフルエンサー。あくまでA子は趣味程度に自撮りを投稿していたのだが…まさかの大バズり。そのいいねの数はざっと5万いいね

「やった…やったぁ!!」

 A子はウキウキな気分のまま会社の制服を着始める。

 そのまま会社まで電車で赴く

「おっはようございまーす!」

 と、ついうっかりヤケにハイテンション気味に挨拶をする。そのいつもの声色と全然違うA子に同僚や後輩達は驚愕していた。



 A子は業務を終わらせ、家に帰る。

「さーて、今日も自撮りを投稿しよ!」

 もしかしたらまたバズるかもしれないという淡い期待で、1番盛れる角度で


 パシャ パシャ


 と撮影した。

「うんっ!良い感じ」

 そのまま投稿して、ゆっくりと眠りに就こうとした。だけど鼓動がドクンドクンと脈打ち、まるで遠足が楽しみで眠れない子供のように…ただただ眠れない。


 数時間が経った。


 眠れないと同時に通知音が一切聞こえない。

「まぁ…そう簡単にバズらないか…」

 少し落ち込んだところで鼓動が和らぎ、眠りに就けれた。


 ポロポロポロロン…ポロポロポロロン…


 今度は、アラームによって目が覚める。

「んっ…」

 A子はスマホをタップする。

「えっ…?」

 オックスの通知は何一つ入っていない。いつもさえ目が覚めたら3つか4つは通知が入っているのに…

「どうして?…なんで…?」

 A子は胸が締め付けられた様な気分に陥る。


 数分後


 A子はゆっくり落ち着きバズった時と、今日の写真とで何が違うのかを考えてみた。2つの写真を比べてみる。そこで気付いた事があった。バズった写真…あの時はお酒を飲んで酔っていた時に勢いで撮ったものだ。それのせいで服のボタンが1つ外れていた。胸元が見えていたのだ。

「もしかして…これ?」

 検証をしてみたい一心でその日1日は生活し、夜になった。いつもの自撮りを投稿する時間。

「よっ…よし…」

 A子はこんな風に投稿する。


『今日は沢山飲んじゃった〜』


 胸元を開けて、谷間が少し見える様な写真を一緒に投稿した…


 次の日


 A子は目が覚めた。またもや大量の通知音で。

「きた…きたきた…!!」

 急いでオックスを起動する。今度はまさかの10万いいねものいいね数だった。


 A子は歓喜した。リプライを確認してみると…そこには沢山のセクハラリプライが飛びかかっていた。中には所謂インプレゾンビと呼ばれる者らしきリプライもある。A子は複雑な気持ちになる。10万いいねといういいねの嬉しさとセクハラリプライへの嫌悪感。だが、すぐさまに嫌悪感なんて消えうせた。正に脳汁。正にドーパミン。幸せ成分が脳に、身体に心に染み付く。


 1ヶ月後


 A子は取り憑かれた様に過激な自撮りを取るようになった。最初は沢山いいねが貰えていたが最近になると数百いいねとセクハラリプライでいっぱい。今日の投稿に至ってはたったの50いいねだ。

「私…間違えたの…?私はどこで間違えたの…またいいねが欲しい…みんなに見てほしいっ…」

 そしてまたスマホを手に取り服に手を掛けようとした時、A子の胸に…いや、心臓に痛みが


 ズキッ ズキッ


 と現れる。

「んっ…?なんだろう…まぁすぐ落ち着くかな」

 だが、少し待っても痛みは消えるどころが増していく。


 ズキッ ズキッ


「なっなにっ?もしかして、病気…?」


 すると


【あとすこし】


 と、後ろからドスの効いた聞いただけで震えが止まらなくなる様な恐ろしい声が聞こえる。


「ヒッ…!?」

 A子は恐る恐る振り向く。


【おまえさん、あとすこし】


 形容するなら、それは死神と言えるだろう。そんな見た目をした化け物がいる。


「キャァァアア!!」

 A子は錯乱し、ベットの端に逃げる。


【おまえさんの寿命は、あとすこし】


「ひぃっ…ひいっ…えっ…?」

 死神から理解が出来ない…いや、したくない言葉が聞こえる。


「今、なんて言いましたか…?」

 死神に怯えつつ聞いてみる。


【おまえさんの寿命は、のこり50分】


 そんな言葉にA子は凍りつく。


「じょ、冗談ですよね…?」


【おまえさんの寿命、あと49分】


 1分減っている。A子はパニックになり


「いやっ…いやっ…!!!」

 A子はこの死神の言っていることは事実だと察する。なぜならこの異常の胸の痛みがドンドン強くなっているからだ。


「どうすれば…どうすればッ…!」

 必死に考えた時に、なぜ寿命が50分なのかとふと考える…


「いいね数…?」

 A子は50の数字に見覚えがある、それはいいね数。


【あたり】

 死神はそうポツリと呟く。


「いいね数なのね…!私が助かる道は…」

 だが、それが最悪な事態な事に気付く。


「私にいいねしてくれる人なんて…ごくわずか…もうダメ、私は…死ぬんだ」

 絶望に浸される。息は苦しくなり、更に心臓の痛みは増す。まるでナイフで刺されまくっているような激痛だ。


【あと、20分】

 息を切らし、意識が遠くなりそうに視界がぼやけていく。


「もう…アレをするしか…」


【あと、10分】


 A子はボタンに手を掛けた。



 3日後


 A子は自宅で首を吊った状態で発見された。


 A子の最後の投稿には5000いいねが付いた。まぁ、名前や住所。働いている会社や口座番号全てを特定されたんだけどね。


 時に承認欲求は自分を終わらせられる凶器になるのかもしれませんね。

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