美しさを奪う少年
@wolbachia
第1話
冷たい風が吹き抜ける小さな村、ラヴェナ。その名は古い時代からこの土地に住む人々の口に上ってきたが、その語源を正確に知る者は少ない。風に揺れる草原、背後に控えるなだらかな丘、遠くにうっすらと見える山脈。村を取り囲む林の木々は季節ごとに色を変え、春には桜に似た白い花を咲かせ、夏には濃い緑の影を落とし、秋には金色の葉を舞わせ、冬には雪の重みに枝をたわませた。日々を重ねるごとに変わる風景は、まるで古老が語る物語のように、いくつもの表情を持っていた。
村の人々は、その移ろいを無言のうちに受け入れていた。昔から伝わる風習や祭りは数多く、春の祭りには豊穣を祈り、夏には雨を求め、秋には収穫を祝い、冬には死者の魂を慰める。そうした信仰の核には、この厳しい土地で生きていくための知恵と誓いが刻まれていた。ラヴェナの民は、海の荒波ではなく、山の静けさでもなく、風の気まぐれに人生を翻弄されながらも、それを敵とは見なさず、共に生きるものとして付き合ってきた。
しかし、その風の冷たさがまるで人々の心にまで染み込んでしまったかのような冷酷さを示すことがあった。それを体現していたのが、この村の片隅で生きる少年、アウレリオだった。彼は幼い頃から、村人たちから疎まれ、恐れられてきた。曲がった鼻は、まるで誰かに殴られ続けたように歪み、ただれた肌はいつも赤く腫れ、濁った片目は見る者に畏怖をもたらした。彼の歩みはゆっくりで、話す声もかすれた低い響きを持っていたが、それでも彼の内側には豊かな感情と繊細な心が宿っていたことを、村の誰も気づこうとしなかった。
アウレリオの家族について知る者はほとんどいなかった。彼が納屋のような場所に住み始めたとき、彼はまだ幼児の姿だった。村の老人たちは、ある冬の夜に流行病が村を襲い、多くの家庭が喪に服したあの日のことを語る。雪の中、村外れの教会の前で泣き叫ぶ小さな声が聞こえ、神父が扉を開けると、小さな包みが置かれていたという。包みを開けると、冷たい空気の中に震える乳児がいた。彼は村人に拾われたが、その異様な容姿から養い親を名乗り出る者はおらず、仕方なく食糧庫の隅で寝泊まりさせることになった。神父は彼を養子にしようと考えたが、教会の規律と村人たちの冷たい視線がそれを許さなかった。
アウレリオはそれから、村の誰とも深い関わりを持たずに育った。冬の夜、納屋の中で藁の香りに包まれて眠り、昼間は村の境界にある畑の端で働いた。彼は子どもの頃から力が強く、畑の石を動かしたり、薪を割ったりすることができた。それが唯一、彼が村に役に立てる道だと理解していた。その対価として、彼は食べ物の残り物や古い衣類を手に入れたが、それを受け取るときに感じる人々の視線はいつも針のように突き刺さった。すれ違う子どもたちは彼を見ると逃げ、彼が通り過ぎるだけで大人たちは道を避け、時には聞こえるように罵倒の言葉を投げつけた。「あの子を見ろ、魔女の子だ」「あの顔は呪いだ」。彼の周りにはつねに囁き声と嫌悪の雰囲気がまとわりつき、彼は何度も自分の顔を拭い、どうして皆と違うのかを問い続けた。
それでも、アウレリオは純粋な心を持っていた。彼は言葉少なに過ごす中で、自然の声を聴くことを覚えた。風の音、木々のざわめき、鳥のさえずり。納屋にさまよい込んだ子猫にミルクを与えたこともあった。子猫の毛並みは綺麗で、彼はその柔らかさに触れながら、自分の手がいつもとは違う温かさを持っていることを感じた。そんな小さな喜びが、彼にとって唯一の救いだった。
あるとき、彼は村の広場にある井戸で水を汲んでいると、背後から何かが飛んできて頭に当たった。尖った石だった。振り返ると、数人の青年が遠くで笑っていた。彼の視線が合うと、彼らは舌打ちをして背を向けた。中でも一番声高に笑っていたのが、リュカだった。リュカは村の鍛冶屋の息子で、力が強く、同年代の子どもたちの中心的な存在だった。彼はアウレリオを見る度に、彼の容姿を嘲り、時には暴力でからかうこともあった。アウレリオは手を握り締めたが、反撃することはなかった。周囲に味方はおらず、反撃すれば自分が悪者にされると知っていたからだ。
彼の唯一の心の支えになっていたのは夜の静けさだった。日中の喧騒が止んだ後、冷たい風が村の隙間を吹き抜ける。アウレリオは納屋の外に出て、星空を見上げた。星々の光は彼を拒まなかった。遠い、理解できないほど離れた存在でありながら、彼には手の届かない輝きがあった。「僕はなぜこんな顔なんだろう。僕は誰かに愛されたことがあるのだろうか?」彼は一人ごちた。答えは風にかき消された。
そんなある晩、アウレリオは奇妙な夢を見た。いつもなら夢の中でも彼は誰かに追われたり、冷たい雨に打たれたりしていたが、その晩の夢は違った。彼は深い霧に包まれた森を歩いていた。木々は高くそびえ、葉は鈍い銀色に光っていた。足元の土は柔らかく、踏むたびに低い鼓動のような音がした。遠くから声が聞こえる気がしたが、それが何語なのかは分からなかった。
霧が少し晴れた場所に出ると、薄黒い影のような存在が立っていた。人の形に見えなくもないが、輪郭が曖昧で、一瞬見る者の目によっては木の幹にも見えた。影は動かないまま、アウレリオに語りかけた。
「汝の苦しみは、理解する。力を授けよう」
その声は、老人のようでもあり、女のようでもあり、若者のようでもあった。低い渦のような響きが、アウレリオの胸に響いた。
アウレリオは警戒しながらも尋ねた。「どんな力を?」
「汝が受けた苦しみを、他者に分け与える力だ。汝の容姿に似せて、その者の美しさを奪うのだ」
影の言葉は、霧の中に溶けていった。アウレリオは信じることができなかった。こんな力が存在するならば、なぜ自分はこれまで苦しんできたのだろう? しかし、その声には奇妙な真実味があった。夢から覚めた彼は、ただの幻と笑うしかなかった。辺りにはいつもの冷たい風と、藁の香り。手を伸ばすと、いつもと同じ汚れた木の柱に触れた。
それでも、次の日、奇妙な出来事が起こった。彼が広場の端を歩いていると、村の中央に大きな輪ができていた。人々が何かを取り囲み、ざわめきが広がっている。アウレリオは何事かと足を止めた。近づくと、耳に残酷な悲鳴が聞こえた。彼を最も蔑んでいた村の青年、リュカが、地面に膝をつき、顔を押さえて泣き叫んでいた。彼の顔の半分がただれ、皮膚が赤く腫れ、喉を押さえても声がうまく出ない様子だった。村人たちは悪疫か呪いかと騒ぎたてたが、その中にいた年老いた女が呟いた。「こんな病、見たことがない。まるで……」誰かの舌打ちが、それを遮った。村人たちは恐怖に駆られ、リュカの家族は彼を家の中に運び込んだ。
アウレリオは知っていた。あれは、夢の力だった。彼はリュカの姿を見て愕然としたが、同時に心の奥底にある溜飲が下がるのを感じていた。あれほど自分を傷つけ、笑い者にした人間が、今度は自分と同じ目に遭っている。これは偶然ではない。しかし、自分が何かをしたわけでもない。彼は夢の影の言葉が、現実に影響を与えているのだと悟った。
その夜、彼は再び夢の森に立っていた。影は微動だにせず、彼を待っていた。
「それで、どうだ? 汝は満足したか?」
アウレリオは一瞬、言葉を失った。リュカの苦しむ姿を思い出しながらも、胸には複雑な感情が渦巻いていた。「僕がしたわけじゃない……でも、もし本当に僕が望めば、誰にでも同じことができるのか?」
影は頷いたように見えた。「汝の心が選んだ者に、汝の痛みを与えることができる。汝が受けた痛みを、彼らに教えるのだ」
アウレリオは静かに頷いた。それは復讐の誘惑だった。長い間の孤独と屈辱は、彼の心の中に怒りを溜め込んできた。その怒りが、いま形となって現れたかのようだった。
彼はしばらく、ただ時間が過ぎるのを待った。しかし、村人たちの態度は変わらなかった。リュカが突然病に倒れても、それは彼らにとって単なる不運であり、彼らは相変わらずアウレリオを蔑んだ。ある日、広場で彼がリンゴを拾おうとしたとき、マリエルが近づいてきた。マリエルはリュカの妹で、黒い髪と透き通るような肌が美しい娘だった。彼女は、アウレリオがリンゴを手にした瞬間、その手を払いのけた。
「それ、あんたの手で触らないでよ。不潔だわ」と彼女は鋭い声で言った。彼女の瞳は軽蔑の色に染まっていた。アウレリオは言い返すことができず、ただその場を離れた。
次の日、マリエルの顔に、リュカと同じただれが現れた。白い頬は赤く膨れ上がり、唇はひび割れ、彼女の美しい顔立ちは一夜にして変わってしまった。彼女は鏡の前で叫び、泣き叫び、鏡を割った。破片が床に散らばり、彼女はその中に崩れ落ちた。母親が彼女を抱き締めようとしたが、マリエルはそれを拒絶した。自分がかつて見下していた者と同じ目に遭うことが、彼女には耐えられなかった。
村人たちは再び騒ぎ出した。「これは本当に悪疫だ」「神の罰か?」「いや、魔女の仕業だ」。神父は教会の鐘を鳴らし、人々を集めて祈りを捧げた。しかし、その裏で、人々の心には恐怖と疑心が広がっていた。彼らは互いに顔を見合わせ、自分たちにいつその災いが降りかかるのか、固唾をのんでいた。
アウレリオはその光景を遠くから見ていた。彼の胸には重い石が乗っているようだった。マリエルは自分を蔑んだ娘だったが、彼女が鏡を割る姿には、一筋の哀れさも感じた。彼は自分が何をしているのかを問い始めていたが、復讐心はまだ彼の中で炎のように燃えていた。
三人目は、パン屋のロルフだった。ロルフは太った中年の男で、いつも村の通りに香ばしいパンの匂いを漂わせていた。子どもたちは彼の焼くパンが大好きで、ロルフも商売熱心で愛想が良かった。しかし、アウレリオがパンを買いに来ると、ロルフは彼にパン屑を投げて追い払った。ある日、アウレリオが寒さに耐えかねてパンの端切れをもらおうと店に近づいたとき、ロルフは彼の方に小麦粉を投げつけた。「ここは乞食の来る場所じゃない。姿を見せるな」と彼は怒鳴った。彼の顔は憎しみで歪んでいた。
数日後、ロルフの手は突然ただれ始めた。指の皮が剥がれ、焼くパンが熱で触れなくなった。彼は客の前でも叫び声を上げ、小麦袋が倒れ、パン生地が床に落ちた。客たちは恐怖の声を上げ、店から逃げ出した。ロルフは自分の手を見つめ、震えた。「どうしてだ、こんなことが…」彼は泣き崩れた。商売を失い、彼は家の中に閉じこもった。
最後に、神父の甥セドリックだった。セドリックは若い男で、教会の祭壇の世話をし、神父の説教を手伝っていた。彼は敬虔な雰囲気を纏っていたが、内心ではアウレリオを軽蔑していた。彼はアウレリオが教会の前を通るたびに、扉を閉めて入らせなかった。「ここは清らかな者だけが入れる場所だ。君のような汚らわしい者は立ち入ってはならない」と彼は言った。アウレリオはその度に何か熱いものが喉に込み上げるのを感じたが、言い返さなかった。
セドリックの鼻は、ある朝突然曲がり始めた。彼の顔の半分は赤く腫れ、声がかすれ、神父が説教をしようとすると咳き込み、言葉が出なくなった。祭壇の前で彼の喉から絞り出される声は、かつてアウレリオが話すたびに浴びせられた嘲笑と同じようだった。神父は彼を休ませたが、村人たちは動揺し、教会に来ることをためらい始めた。
こうして、三人の村人──リュカ、マリエル、ロルフ、そしてセドリック──は、アウレリオの力によって苦しむことになった。彼らの容姿はアウレリオのように歪み、醜くなった。人々は彼らを忌み嫌い、避け始めた。そして、かつてアウレリオを虐げていたその者たちは、誰よりも深く打ちひしがれた。マリエルは鏡を割り続け、ロルフは客を失い、セドリックは教会から追放された。リュカは家に閉じこもり、外に出ることすらしなくなった。
奇妙なことに、彼らはアウレリオには何も言わなくなった。彼に近づくことさえ避けはしたが、罵倒や暴力は消えた。まるで、互いに同類となったことで、共通の沈黙が生まれたようだった。彼らの目は、かつて自分たちが投げていた石の重さを知っているかのように沈み、アウレリオと同じように下を向いた。人々の視線を避ける仕草は、彼らもようやく、その痛みを理解したかのように見えた。
その頃、村では様々な噂が飛び交っていた。ある者は言った。「あれは呪いだ。きっと誰かが悪魔と契約したに違いない」。別の者は囁いた。「いいえ、神の罰だ。傲慢な者を戒めるためのものだ」。人々は不安に駆られ、夜ごとに戸締まりを厳しくし、教会で祈りを捧げた。だが内心では、自分がアウレリオに冷たい仕打ちをしたことへの罪悪感と、それを認めたくない気持ちが戦っていた。
時間が過ぎ、冬が訪れようとしていたある日、アウレリオはふと、彼らの苦悩する姿を見つめていた。雪混じりの風が吹く中、彼は広場の端に立ち、彼らの家の窓を遠くから見ていた。灯りは薄暗く、人影が揺らめいていた。彼らの痛みを思うと、アウレリオの胸には重い波が寄せてきた。彼はこれまでずっと、誰かが自分の苦しみを理解してくれることを求めていた。今、その願いは奇妙な形で叶っていた。しかし、その結果生まれたのは、彼ら自身の絶望だった。
彼は復讐を果たしたのか? それとも、同じ地獄に他人を引きずり込んだだけなのか? 自問自答の夜が続いた。彼が望んだのは、自分が受けた屈辱を返すことではなく、理解されることだったはずだ。けれども、彼の行為は、彼らにただの痛みと孤独を与えただけだった。彼はそれを眺めているうちに、かつて自分が感じた苦しみが、彼らの中でも同じように広がっていることを知った。
夜、彼は再び夢の森を歩いた。前よりも霧は薄く、木々の輪郭がはっきりとしていた。影の声が語る。
「満足したか?」
アウレリオは首を振った。「いいや……これはただの連鎖だ。苦しみを再び生み出しているに過ぎない」彼の声は静かで、どこか寂しげだった。
「では、汝はどうする?」影は問うた。
そして彼は願った。「元に戻してほしい。彼らを、元の姿に」
影はしばらく黙していた。風が木々の葉を揺らし、霧が辺りを漂った。やがて影は小さく頷いた。「汝が覚悟するならば」
目覚めた朝、アウレリオは広場を見に行った。マリエルの頬は元通りの滑らかさを取り戻し、リュカの声はかすれながらも戻り、ロルフの手は再びパンをこねることができた。セドリックは再び祭壇の前に立っていた。村は喜びに沸き、奇跡が起きたと神に祈りを捧げた。神父は祭壇で感謝の祈りを捧げ、人々は抱き合い、涙を流した。「神は我々を見放さなかった」と誰かが叫んだ。
だが同時に、人々の視線は再びアウレリオに向けられた。彼の容姿は、以前よりもさらに醜悪に歪んでいた。まるで他人の呪いを引き受けたかのように。彼の鼻はさらに曲がり、皮膚はより赤くただれ、片目は完全に閉じてしまった。手足の関節も腫れ、歩くたびに痛みが走った。彼は静かにそれを受け入れていた。彼の選択は、彼自身の身をさらに傷つけるものだった。しかし、彼はその代償を払う覚悟をしていた。
アウレリオのこの犠牲に気づいた者はいなかった。誰も彼に「ありがとう」とは言わなかった。マリエルたちは、初めこそアウレリオを避けなかった。かつて自分たちが受けた視線の痛みを、身をもって知っていたからだ。彼女は井戸のそばでアウレリオと目が合うと、視線を逸らさずに会釈をした。ロルフは店先に立ち、「パンが余っている」とアウレリオに手渡そうとした。セドリックは教会の扉を開け、「中に入って祈ってもいい」と言った。リュカは遠くからアウレリオを見て、軽く頷いた。彼らは短い時間ながらも、かつて自分たちが味わった苦しみを忘れていなかった。
だが、季節が巡り、春の暖かさが雪を溶かし、夏の青空が広がるにつれて、村のざわめきは日常に戻った。畑は緑に覆われ、羊飼いは丘を歩き、子どもたちは川で遊んだ。祭りの時期には人々の笑い声が響き、収穫の時期には感謝の歌が歌われた。あの苦しみは、やがて「過去」へと押し込められた。
再び広場でアウレリオが歩けば、笑い声が止まり、囁きが生まれるようになった。ロルフは彼にパンを売らなくなり、マリエルは目をそらし、セドリックは教会の扉を閉ざした。リュカは彼を見て舌打ちをし、肩で風を切って通り過ぎた。そして、ある日また石が投げられた。それはマリエルたちによって。彼らはあの時の苦しみを忘れてしまったのかもしれない。あるいは、日常の重圧の中で、痛みの記憶が薄れてしまったのかもしれない。人の心は、都合よく変わる。
アウレリオは、その石をただ受け止めた。額から血が滲み、彼は目を閉じた。でも、声は上げなかった。泣きもしなかった。彼の中には、怒りと悲しみが入り混じっていたが、それらは今や静かな湖面のように沈んでいた。彼が望んだのは、対等ではなく、理解だった。だが、世界はそれを受け入れるほど成熟してはいなかった。人々は一瞬の同情を示すことはあっても、それを持続させることは難しかった。恐怖や不安が遠のくと、彼らは再び安全な場所から他者を責めることができると感じるのだ。
それでもアウレリオは、もう力を使おうとは思わなかった。復讐の意味が虚しいものであると知ったからだ。他人の苦しみを引き起こすことは、自分の傷を癒すことにはならなかった。むしろ、その痛みを共有する者が増えるだけだった。彼は一人、雪の降る森で、少しだけ笑みを浮かべた。風が彼の頬を撫で、白い雪が肩に積もった。森の木々は静かに彼を見守っているようだった。
「これが、人間の本質だとしても──それでも、僕は、人を信じたい」
彼は心の中でそう呟いた。彼はたとえ裏切られ、傷つけられ続けても、人の中に微かな優しさを信じ続けたかった。星空を見上げると、彼が子どもの頃から変わらない光が輝いていた。星々は、遠い昔からここにあり、人々の物語を見つめてきた。アウレリオの小さな物語も、その無数の光の中の一つなのかもしれなかった。
その後、アウレリオは村から姿を消したという者もいれば、遠い町で薬草を学び、人々を癒す仕事をしたという者もいる。彼が再びラヴェナに戻ることはなかった。村の人々の記憶から、彼の名前は次第に薄れていった。だが、老いた神父が時折祭壇に立ち、若者たちに語り聞かせたのは、かつて自分たちの中にいた一人の少年の物語だった。
「彼は醜い外見ゆえに皆から避けられた。彼は復讐を望んだが、最後には赦しを選んだ。彼の心には、私たちが見失いがちな何かがあった」
その言葉を聞いた若者の中には、遠い目をして考え込む者もいた。彼らは自分の胸に手を当て、人を傷つけることの意味を問い直したかもしれない。しかし、多くの者は日々の仕事や家庭の雑務に追われ、その話を忘れていった。
ラヴェナの風は、それでも吹き続けた。春には花を運び、夏には雲を流し、秋には枯葉を舞わせ、冬には雪を降らせる。その風の中に、どこかアウレリオの囁きが混ざっていると感じる者は、もうほとんどいなかった。それでも、静かな夜に耳を澄ませば、彼の小さな笑い声が、遠い星の光と一緒に流れているかもしれない。
人間の心は、時に弱く、時に残酷だ。だが、ほんのわずかな優しさや勇気が、その闇を照らす光にもなり得る。アウレリオの物語は、その矛盾と希望を示している。彼が信じたように、私たちもまた、人を信じることができるだろうか。風が答えてくれることはない。しかし、風が吹く度に、彼の選んだ道を思い出し、その言葉の意味を考える者がいる限り、この物語は生き続ける。
美しさを奪う少年 @wolbachia
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