北条テニスアカデミー3人娘
パラソルの布を叩く雨音が、一定のリズムで落ちていた。
さっきまで試合に集中していた空気はすっかり途切れ、コートの向こう側では選手や観客がそれぞれ雨宿り場所を探して走っている。
北条は濡れた前髪を耳にかけながら、
クラブで使っている少し大きなパラソルを支えていた。
強めの風にあおられ布がパタンと裏返りそうになる。
「……思ったより、降ってきたわね」
星空が肩をすくめて笑った。
「ね〜、試合の調子よかったのになぁ。
あーあ、中断かぁ……せっかく1セット目取ってリードしてたのに」
寺地は無言でスマホを操作していたが、
画面を見たままぼそっと言った。
「……雨、明日も続く。
週末まで、ずっと」
「うそ。そんな続くの?」
星空が思わず北条の方を見る。
北条は雨越しに空を眺め、冷静に息をついた。
「大会、どう進めるつもりかしら。
今日の分だけでも相当押してるのに……。
私たちの試合も、明日できるかどうか怪しいわ」
星空が自分の頬についた雨粒をぬぐいながら、
パラソルの内側を見上げてニコッと笑った。
「でも、このパラソル……持ってきてくれて助かったよ。
これなかったら、全員びしょ濡れだったじゃん」
北条は少しだけ視線をそらし、
小さく呟くように言った。
「……一応、パパに“持っていきなさい”って言われたのよ。
日よけにもなるし、って」
「
星空の声は純粋な確認で、からかう気配はない。
「……パパ?」
「!!」
寺地はややニヤリとしながら繰り返す。
「こほん…、お父さんが持っていきなさいって」
北条の肩がぴくりと動き、丁寧な咳払いが響く。
その言い直しに、星空はくすっと笑い、
寺地は「……パパ」とだけぼそっと呟き、
北条は「もう……」と眉を寄せる。
そんなやりとりの中にも、
3人の距離感の温かさがじんわりと滲んでいた。
外ではまだ雨脚が強い。
砂入り人工芝にも水たまりができ始めており、
試合再開の見通しは立たない。
北条はパラソルの位置を少しずらしながら呟いた。
「まぁ……どのみち、今日は無理ね。
これじゃ選手の足が取られて危ないもの」
寺地がスマホを閉じ、
星空は濡れた靴先を軽く鳴らす。
風の吹き上げでパラソルの布がふくらみ、
3人は自然と少しだけ身を寄せた。
その小さなスペースに、
北条テニスアカデミーの安定した空気が満ちている。
【羊女とテニス】眠れる彼女を起こしたら、テニス人生が変わり始めた話 已己巳己 @ikomiki0111
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【羊女とテニス】眠れる彼女を起こしたら、テニス人生が変わり始めた話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます