雨天順延
傘の下で立ち尽くす二人のまわりを、雨音がさらに強く叩きはじめた。
しばらくすると――会場のどこかで、再びスピーカーが鳴る。
『コントロールの米長です。本日の試合は天候の回復が見込めないため、中止といたします。
選手、観客の皆さんは、安全のため速やかに屋根のある場所へ避難してください。
今後の日程につきましては、決まり次第ホームページにて更新いたしますので、ご確認をお願いします。気をつけてお帰りください』
米長委員長の落ち着いた声。
けれど、その内容は選手たちの心をざわつかせた。
「え、中止!?」
「晴れ予報だったよな? 傘持ってきてないんだけど!」
「車どこだっけ……!走らないと!」
会場全体が、一気に“避難のための混乱”へと変わっていく。
タオルを頭にのせて走る子、
バッグのチャックを閉める余裕もなく抱えて移動する子、
観客席からは「あっち空いてる!」「早くして!」と声が飛び交う。
そもそも、今日の天気予報は「快晴」。
雨が降るとはここにいる全員思っていたのだろう。
だから――傘を持っている人の方が圧倒的に少ない。
それが今、土砂降りに変わった。
コートの隅では、
砂入り人工芝が“耐えるように”雨を吸い込んでいたが、さすがに限界が近い。
普段なら水切れの良いはずのコートにも、
足跡の形のまま浅い水たまりがじわりと広がりはじめていた。
選手のシューズが水を吸う音、
コートブラシを片づけるスタッフの慌ただしい動き、
ずぶ濡れのジャージを気にする声。
あらゆる音が、雨にかき消されながら交錯する。
白石は小さな傘の下で、
濡れたつま先を見つめたまま息をのむ。
「……本当に、全部中止になっちゃったんですね」
一ノ瀬は視線を上げ、
向かいのコート――北条と小暮の試合が行われていた場所を見た。
大きなパラソルを広げ、北条が星空と寺地を集める姿が見える。
傘もない三人の頭上に、
北条が持ち込んだ“日よけ用のパラソル”が頼もしく広がっていた。
その様子を見ながら、一ノ瀬はぼそっとつぶやく。
「みんな、急いで避難しないと」
白石はこくりと小さく頷いた。
雨脚がさらに強くなり、傘の布地を叩く音が低く響く。
そして――
二人の足元にできた小さな水溜まりに、
空の灰色が静かに揺れていた。
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