#13 SCP-999-JP-J 最強のマッチョスライム

昼行灯

SCP-999-JP-J はどんな存在なのか

 SCPの中には財団に協力的な存在もいる。


 そのようなSCPは異常存在でありながらも、ある程度自由が保障されていた。

 施設内を自由に歩き回ったり、好きな時に食事をしたり、音楽や本などの娯楽も許可される。もちろん財団の監視下での話ではあるのだが、財団と良い協力関係を築くSCPも少なからずいるのだ。


 SCP-999-JP-Jもそのうちの一人である。いや、一体というべきか。


 SCP-999-JP-Jは、施設を自由に散歩することが許されている。ただし夜間は不審者と誤解される可能性があるために、任務中を除いて禁止されている。

 職員もSCP-999-JP-Jの檻の中に自由に入ることが許可されており、SCP-999-JP-Jが退屈している時は一緒に遊ぶことも可能だ。


 それにSCP-999-JP-Jも職員と遊びたがる性格をしている。誰かからアプローチを受けると全速力で接近し、三本の偽足で対象を強く抱きしめて「むきむき」「ぴくぴく」という鳴き声のような音を出して甘えてくる。


 ん? 擬音がおかしい? 気の所為だろう。


 「遊びたがりの犬のようだ」と表現されるぐらい遊び好きのSCP-999-JP-Jがとくに気に入っている遊びは、人の首から下を固めた上で全身をくすぐることだ。

 職員はこの遊びを「くすぐりレスリング」と呼んでいる。


 ただこの遊びは半強制的に始まり、やめてくれと懇願するまで続けられてしまう。

 職員からはやや不評なのだが、おそらくこれもSCP-999-JP-J独特の愛情表現なのだろう。


 SCP-999-JP-Jに触れると急激な脱力感と心地良い痛みに見舞われる。その痛みは触れる時間が長ければ長いほど程度は激しくなり、離れた後も持続する。

 つまり激務に追われる職員達を癒やすために、まだ知らない快感の扉を開こうとしているとも考えられる。多分、おそらく。


 これほど職員思いのSCPは数多の異常存在を管理している財団内でも、なかなか存在しない。職員に愛されているのには理由がある。


 だがしかし、SCP-999-JP-Jも最初からこうだったわけではない。


 SCP-999-JP-Jはかつてスライムのような存在だった。その頃のアイテム番号はSCP-999-JP-Jではなく、SCP-999だ。

 当時より愛されキャラではあったがSCP-682との触れ合い実験の最中に、SCP-999は多くの職員が犠牲になる惨劇を目の当たりにした。


 遊んでくれていた職員達の死を間近で見たSCP-999は、自分の弱さを悔いた。もしも自分が強ければ職員を守れたのにと嘆いた。


 そして決意したのだ。財団の職員を守れるぐらい強くなろうと。


 だが財団の下では限界がある。

 ある程度の自由は許可されているとはいえ、強くなるための修行ができる環境ではない。

 そこでSCP-999は、収容違反を起こして武者修行の旅に出たのだ。


 広い世界を旅しながらSCP-999は各地の強者に挑戦した。オレンジ色のぷにぷにグミを脱ぎ捨てて、肉体を鍛え続けた。

 いわゆるレベルアップである。てってれー。


 財団の助けもなく、仲間もいない状況での修行は辛かったことだろう。

 だが困難に負けず、強くなるために一歩一歩進み続けたSCP-999はついに手に入れたのだ。


 ミルクチョコレート色のムキムキな筋肉を。


 およそ154kgのマッスルボディを手に入れたSCP-999-JP-Jは確信した。

 この筋肉ならばどんな惨劇からも大好きな職員を守れる、と。


 SCP-999-JP-Jは財団に帰ってきた。「大柄な男性中年の姿」で。

 財団もさぞかし驚いたことだろう。

 収容違反を起こした異常存在が自ら戻って来ることはそうそうない。帰ってきただけでも十分驚嘆に値する行為だ。


 それだけではなく、スライムのような存在がボディビルダーのような肉体美になって帰ってきたのだから、職員も最初は未知の異常存在だと思ったことだろう。

 口を開けてたっぷり三分は見惚れたに違いない。


 財団はSCP-999の心意気を評価してアイテム番号を、SCP-999からSCP-999-JP-Jに変更した。

 食事もキャンディやお菓子から植物性のプロテインとサプリメントにした。筋肉維持にプロテインは欠かせないという判断したのだろう。


 だが、どんなに外観が変わろうとSCP-999はSCP-999のままだ。性格は変わっていない。人間が大好きで「遊びたがる犬のよう」にじゃれ合うことを好む、職員が大好きな愛すべきマスコットキャラクターのままだった。


 そんな見た目は中年男性、心はスライムのSCP-999-JP-Jは、再び実験に参加することになった。

 そう、SCP-682との触れ合いである。

 全職員が今度こそSCP-682の憤怒を鎮めてくれるのではないかと期待した。


 SCP-999-JP-Jはプレッシャーを筋肉で跳ね除けて、修行で会得した「くすぐりレスリング」でSCP-682に挑んだ。


 その結果、SCP-682は「気持ち悪い」と「気持ち良い」を繰り返しながら悶絶した。さらにSCP-999-JP-Jが凝り固まったツボを押したことにより、SCP-682は正体不明のエネルギーを放出して崩壊した。


 SCP-999-JP-Jの完全勝利である。


 実験の成功に財団のドクターは喜んだ。しかし、SCP-999-JP-Jを「漢らしい」と感じた自分に困惑した。スライムに履かせるパンツを用意しようと思うくらいには戸惑った。その時のドクターの心情は慮るに余りある。


 だが実験はSCP-682を陥落させるという偉業を成し遂げた。この結果を受けた財団は、他のSCPでも触れ合い実験は行うことにした。


 その結果、SCP-049には技術を継承して暖簾分けを行い、SCP-076には11勝8敗で勝ち越したことで専属のマッサージ師となり、SCP-096はSCP-999-JP-Jの初めての友達になった。


 夢の世界でSCP-990にも認められたSCP-999-JP-Jは、その数々の功績からオブジェクトクラスはThaumielに再分類されることになった。

 Safeから財団の最終兵器に昇進である。


 財団に認められたSCP-999-JP-Jは機動部隊オメガー7に所属となった。現在は危険なアノマリーへの対処に当たっている。


 SCP-999-JP-Jはこれからも、その鍛え抜いたマッチョボディで職員を守り抜くことだろう。


 ドクターから進呈されたパンツを履いて。

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#13 SCP-999-JP-J 最強のマッチョスライム 昼行灯 @hiruandon_01

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