君の水筒

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

くるくると

 九州きゅうしゅう博多はかた

 なつかしいなつ

 学校がっこう校庭こうてい


 灼熱しゃくねつ南中なんちゅう。ひとり少女しょうじょ失神しっしん


眞理まり、しっかりしろ!」

 高音男声テノール

 少女しょうじょひとしくそれほどには立端たっぱのないもの——そうという少年しょうねん——がけつけた。右手みぎてにはぶりの水筒すいとう四一〇竓よんひゃくじゅうミリリットル】。その本体ボディは、CrクロムNiニッケルFeアイアンからる〈黒みに欠ける鐵ステインレスせいで、まっふた——それはコップの役割やくわりねている——を天辺てっぺんせ、上部じょうぶ下部かぶとで相容あいいれない様子ようす。プラスティックと金属きんぞくなのだから、仕方しかたがない。

「う……うん…………」

 少女しょうじょ——その眞理まりという——は、かろうじて返事へんじをした。


   汗ほとばしる火照る顔スウェットなほてり

 

 余程よほどくるしい様子ようすで、普段ふだんはまんまるおおきいひとみが、子安貝こやすがい刻刻ギザギザとしたのように九分九厘くぶくりんじている。豊満ほうまんたば深淵しんえん最奥さいおうに、たしてどれほど虹七にじなないろどりがんでいるのか、そうよしもない。しかしながらひとつ、あきらかな事実じじつ——自明じめい——がある。


   眞理まりほおあか


 そのあかは、そうれて水筒すいとうふたの、合成樹脂ごうせいじゅしうわのせしたあか肉薄にくはくするほどに、ゆい。しっかりとらしてるとことなるのは、赤蓋せきがいほう氣品きひん均一無地のっぺりとしているのにたいして、眞理まりとうとほおあかほうは、けがれなき絹白きぬしろ高解像こうかいぞう連続階調グラデーションに、酸性刺激さんせいしげき浸透紅潮しんとうこうちょうせしめる紫甘藍むらさきキャベツ紋付アップリケしているてんである。すなわち、眞理まり火照ほてわけは、かならずしも炎天えんてん熱射ねっしゃとはえない。

「ねっ……熱中症ねっちゅうしょうか、眞理まり!」

 そうってそうは、蒼天そうてん赤面せきめん仰向あおむけする眞理まり両肩りょうかたを、ひか周波数しゅうはすううごかす。

「え……い、い、の……? わたしと…………なんか、で…………いいの?」

 眞理まりなにかを勘違かんちがいしている様子ようすだった。そうは、幼馴染おさななじみ失神しっしんさいしての衝撃しょうげきと、失神しっしんした幼馴染おさななじみ寝言ねごと支離滅裂しりめつれつたいしての困惑こんわくとの間隙かんげき動揺どうようしつつも、どうにか赫赫あかあか即突沸騰そくとつふっとうする急病人きゅうびょうにん木陰こかげはこぶことに成功せいこうした。

「ほら、この水筒すいとうに、よおくえた麦茶むぎちゃはいってるから」

 そうは、水筒すいとうこうべ——あかふた——をゆるまわすと、摂氏四度せっしよんど麦茶むぎちゃを、いまにも〈風雷水舞プラズマしてしまいそうな最寄もよりの赤頭巾あかずきんに、いでやった。手渡てわたしのさい櫻貝さくらがい爪先つめさきたずさえた柔指やわゆび十本じっぽんが༄触合フレア༄った。


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   でんこうせっほとばし


 かたわら大樹たいじゅが、その枝葉末節しようまっせつまでもが、そのえないつながりのようなものを、観測かんそくしたはずである。


   ちいさな二人ふたり

   おおきなひとつへと

   融合ゆうごうする


そうちゃん、と……」

 眞理まりが、現在げんざいおの細目ほそめたがわないほど開口かいこうはばで、そうげた。

「ん? 水筒すいとうが、どうしたって?」

 そうは、朴念仁ぼくねんじん


「もお、ばかそうちゃん……」

「ばかは眞理まりほうだろう! こんなになるまでそとにいてさあ! ほら、それよりも麦茶むぎちゃはやめって」

 

 そうは、莫迦野郎ばかやろうだった。





   水水水水水 *****





 あくるあき

 月光げっこう隆盛りゅうせい


 明暗反転めいあんはんてん過渡かとたいようこうってわるつきあかり陽陰よういん五分五分ごぶごぶ移動式いどうしき木製もくせい二輪にりんいも屋台やたいが、緑・黄・赤りょくおうせき光色脈こうしょくみゃくふだやまく。石焼いしやきのを、かなでながら。

 濃紫こいむらさきな、一球いっきゅう偏長楕円体ラグビーボールが、大小だいしょうふたつの不均等ふきんとう半分個——わ———られた。断面だんめんむげんだい金輪こんりんけぶあま芳香ほうこう心地良ここちよ肌寒はだざむ空気くうきに、〈HotCoolHotCoolほくほく〉の絹甘シルクスイート仲間入なかまいりする。そのしょうたかほうに。そのだいひくほうに。

そおちゃん、おいいね!」

 眞理まりが、縞栗鼠シマリス頬張ほおばりで、むにゃむにゃとそうった。

「うん、美味うまいなあ! やっぱり、最高さいこうだなあ!」

 そう変声期混声バリトンでそううが、つ、しょうな、いびつ円錐型えんすいがたは、高度工場的加工プロセスされたものではない。本当ほんとうの、薩摩芋さつまいもそうは、甘味スイーツうとい。

「ちがってばそおちゃん! スイートポテトなくって、シルクスイートだってば! 絹甘きぬあまの、シルクスイートお!」

 眞理まりは、熱心ねっしん訂正ていせいした。

「ごおめんごめん、おぼえとくよ」


 なにのせいだか、男女だんじょ両頬りょうほほは、あかく、甘くスイートに火照ほてっていた。





   田田用用用 ノキフノキフノキフノキフノキフ 





 とおのくふゆ

 吹雪ふぶゆきおと、しんしんと。

 よりもつきあきらかに。

 つきよりもあきらかに。

 四季折々しきおりおりひかりやみ

 青写真みらいよそうずを、長時間露光ちょうじかんろこう一枚絵いちまいえ時止ときとめる。

 玉石混淆ぎょくせきこんこう流星りゅうせい跋扈ばっこ年輪ねんりんる。

 ふとすれば、心身しんしんともにふとく、うつくしく。

 ふきとう芽吹めぶき。

 つゆとろり、ゆきどけ。

 そして……



 ————はるかなるスプリング逼迫来せまりくる



 つがい同然どうぜん一対いっつい上背うわぜいは、頭頂いただき延長線上えんちょうせんじょう御天道おてんとうわずかばかりちかづいた。かつての朴念仁ぼくねんじん少年しょうねん——そう——の左手ひだりてには、あのなつ水筒すいとう白鐵しろくろがねうえに(((浮き彫りレリーフ)))するように、ごつゆびびる銀輪シルバーリングひかる。

そうちゃん、……」

 このとき眞理まりは、はるうららかによる純粋じゅんすいかわきから、そうこえかけたが、刹那せつなはるかなる夏色なついろ朧記憶おぼろげ既視反芻デジャビュした。咄嗟とっさ眞理まりは、つの薬缶急騰やかんきゅうとう火照ほてりを、かくそうとうつむいた。

「ん、どうした? そっぽいて。というか、水筒すいとう麦茶むぎちゃでいいのか? そこに新開店しんオープン薩摩芋さつまいもフラッペのおみせがあるけど……」

 そうは、低音男声ベイス転調てんちょうしてもなお、今日きょうも、にぶい。

麦茶むぎちゃで、いい………………や、麦茶むぎちゃ、いいの!」

 眞理まりは、興奮こうふん気味ぎみ

 そうはやや困惑こんわく気味ぎみに、麦茶むぎちゃを、赤蓋せきがい——あかいコップへと、そそぎ始めた。

「そうか。眞理まりつめたい麦茶むぎちゃが、本当ほんとうに好きだなぁ」

「や! やっぱりちがう! もうじゃないの!」

「なんだ、わったか? いいぞ。じゃあ、やっぱりそこのおみせはいろうっか。この麦茶むぎちゃ勿体無もったいないから、おれんでおく——」

 そうあかうつわくちびるへとはこぶ。

 眞理まりとりついばみの敏捷びんしょううつわ手繰たくる。

「や! わたしがむの! これは!」


 ぱらったと気付きづころにはすでらっていた。

 そうかおは、はと豆鉄砲まめでっぽう

 黒眼くろめ虹彩こうさい白眼しろめ同心円どうしんえん


「なんだなんだあ、今日きょう眞理まりちゅわんは天邪鬼あまのじゃくさんでしゅかあ?」

 そうはフフっと微笑ほほえんでそうった。

ちがうもん! いまむかし未来このさきもずーっと一緒いっしょ! や、ちょっとはわったけども!!!」

 眞理まり物言ものいいは、小童こわっぱごと撞着どうちゃくこえる。眞理まりは、空気くうきひといのあとですぐ、つづけてう。

「あのつめたい麦茶むぎちゃは、とってもあったかかった! いまでもわたしのむねなかに、こころのどまんなかに、そのぬくもりがのこってるがするくらいに!!!」

「えっと………………それはつまり、どういうこと?」

 そう理解りかいつとめるも、わかりきれずにそうたずねた。

「もう、じゃないでしょ? わたしたち…………」


 その眞理まり一言ひとことで、そうは、すべてを心得こころえた。


 まるで、天才物理学者てんさいぶつりがくしゃ有名理論ゆうめいりろんの、ひとまたたきのうちひらめきのように。


 あのえるようななつの『すいとう』にまれた、眞理まりの【四一〇竓よんひゃくじゅうミリリットル】のおもいを、容積満杯ようせきまんぱい理解りかいした。

眞理まり……」

そうちゃん……」




「「あいしとーと」」




 おもわず拍手はくしゅってしまいそうな呼吸いきぴったりの二重唱デュエットあとには、くちづけがわされた。





   ¡¡¡¡ ++++++++++





 こい下心したごころ眞心まごころりてあいきわまる


 蒼炎そうえんえる草原そうげん


 濃藍こいあい地平ちへい


 となつがふた


 恋愛こいあい輪舞ロンド


 から歯車ギア


 真紅しんくうつわ


 辛苦しんくあれど


 楽喜がっきあれど


 未知みち行脚あんぎゃ


 かぞれぬ


 銀輪バイシクル双円ふたりのり


 それらはみなてしなく繁茂繋属はんもけいぞくする————



   〈円道end

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君の水筒 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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