第12話 2回戦突破のご褒美とサウナ

 ザスとの試合が終わり、俺は砂と汗で汚れたまま観客席へ戻った。まだコロシアムの熱気は残り、歓声や金属がぶつかる音、砂埃の匂いが鼻をくすぐる。


「おつかれ、ユウト!」

 

 リーナが真っ先に少しだけ手を振った。赤いポニーテールが夕日を受けて揺れる。腰に手を当て、ニッと笑うその表情は、勝利の余韻を共に楽しむかのようだった。

 「最後の一撃、めちゃくちゃかっこよかったよ! あれ、狙ってやった?」

 「いや……ただ、無我夢中だっただけだよ」


思わず苦笑すると、ソフィアが小さく首を傾げる。


「やっぱり、こうやって見るとユウトさんの動きは他の方と比べても

 段違いに速いです。身体強化の練度が上がってますよね?」

「ま、私程じゃないけどね??」

「え?」


思わず固まった。自分では意識していなかったが――俺、身体強化つかってたのか

そりゃそうか。ただの一般人が転生してからモンスターと戦えるわけない。


「……かもな」


俺は頭をかきながら曖昧に答えた。


リーナは腕を組み、じっと私を見る。


「もうちょっと自覚したら、きっともっと強くなれる」

「……次の試合、楽しみですね」


リーナは真剣な顔で言う。ソフィアも頷き、柔らかな笑みを見せた。ソフィアのその声とリーナの助言に、自然と気持ちが前向きになる。


 夕暮れ時、私たちは商会が2回戦突破のご褒美に手配しれくれた宿屋へと向かった。宿は白い石造りで、壁には青い幾何学模様が施され、天井には涼しげな布が垂れ下がっている。大きな窓からは砂漠の夕日が差し込み、温かい光が床に映った。


「何か・・・いい宿だな」

「何か・・・いい宿ですね」


部屋に入ると、リーナは靴を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込む。


「ふぅーっ……やっぱり砂漠って体力削られるわ」


額の汗を拭いながら、天井を見上げるその姿は、普段の凛とした戦士の面影を忘れさせる少女のような柔らかさがあった。ソフィアは椅子に座り、ゆっくりと靴を脱ぎ、長い金髪をほどいて櫛を通す。窓から吹き込む涼しい風に髪がふわりと揺れ、光に透ける金色が幻想的だった。


「……こうしていい宿で休めるのも、ユウトが勝ってくれたおかげですね」

「いや、まだ二回戦までだし……」


俺が肩をすくめると、リーナが横目でクスッと笑う。

「謙虚だね。でもあれだけ観客が盛り上がったんだから、自信持ちなよ」

「……あんまり調子に乗ると、次に足元すくわれそうで怖いんだよな」


リーナは笑って肩をすくめる。


「そういうところがユウトらしいけどね。でも、ありがと」

「そういえば、サウナがあるらしいんですよ!この宿!

 個室みたいなので、よかったらユウトさんも一緒に入りません?」

「え?」


宿の地下にあるサウナは、丸い石の部屋で蒸気が立ち込めていた。桶の水をかけると、ジューッと音がして熱気が一気に満ちる。


「はぁ~……生き返る……!」


リーナはタオル一枚のまま足を投げ出し、豪快に背もたれに寄りかかる。


「ユウトもほら、もっと力抜いて。そんなに背筋伸ばしてたら余計疲れるって」


「いや、なんか落ち着かなくてな……」


視線を逸らすと、リーナがニヤリとする。


「……何か見ちゃいけないものでも見てる顔してる」

「み、見てない!」


ソフィアはくすっと笑った。


「ユウトさん・・・・以外と照れ屋さんなんですね。

 昼間はあんなにかっこよかったのに」

「あれ~ ユウト~ 赤くなってるわよ? 変な方向を向いてないで、

 せっかくこんな美少女と一緒にサウナなんだからこっちみなさいよ!」


「そ、そっとしといてくれ!」


視線の向こうで彼女たちが笑い合っている声がするが、とても見れない。


 闘技場とは別のスタミナを使い疲れ切ったが、汗を流してさっぱりした。3人で宿の食堂へ向かう。砂漠のスパイスが香る食堂に足を踏み入れると、炙った羊肉や野菜の煮込み、干し果物の盛り合わせがテーブルに並んでいた。


「うわ、めっちゃ美味しそう! これ絶対当たりでしょ!」

「……あ、美味しい……ちょっと辛いですけど」

「辛いの平気?」

「……はい、意外と大丈夫です」


その時、昼間に聞いた豪快な大きな声が響く。


「おう! ここにいたか!」


ザスが大股で入ってくる。褐色の肌に筋肉隆々の体つき、砂漠で鍛えた堂々とした存在感と豪快な笑顔が印象的だ。


「ザス兄ちゃん!」


レオが駆け寄り、嬉しそうに抱きつく。


「おお、レオ! 久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」


二人は笑いながら話し、

商会の仕事や砂漠の暮らしについて楽しそうに語り合った。


「2人は知り合いだったのね?」

「うん! ザス兄ちゃんも元々ヘンリー商会にいたんだ!」


「へー! ザスがあの商会の護衛? ねえ」

「ハッハッハ。 護衛にしては声がでかいとかでクビにされたがな!

今の冒険者をしながら、時折闘技場に出るのが性に合っとるから後悔はしとらん!


ザスは羊肉を手で掴み、豪快にかぶりつく。

「ここの肉はいいな! 堅苦しいのは嫌いだが、肉は最高だ!」

「アンタほんと元気だね」

「元気じゃなきゃ死ぬからな!」

「今のは皮肉よ」


食堂がさらに賑やかになる。見た目通りに筋骨隆々のザスは俺たち3人の倍ぐらいの食事を平らげた。気前よく俺たちの料理まで「邪魔した詫びだ」と会計を奢ってくれたザスは俺の肩を叩いた。


「明日はお前の3回戦だろ? 絶対に勝てよ! 俺も全力で応援してやる!」


その豪快な笑顔に、胸の奥が熱くなる。


「……ありがとう。期待しててくれ」

「私も期待してるわよ。ザス、ご馳走様」

「ご馳走様でした。ザスさんありがとうございました。楽しかったです。」


 部屋に戻ると、夜の砂漠の空気がひんやりと肌を撫でる。満天の星空を見上げ、明日も全力で戦うことを心に誓う。

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「社畜」の転生。~今世は神スキルで自由を謳歌する~ おもち @kikukawa-kei

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