第20話「王女の秘密と、すべてを救う決意」

 朝靄に包まれた東の遺跡を前に、俺は深呼吸をした。


〈三度目だ〉


 死に戻った俺は、これから起こることを全て知っている。ヴァイスの出現、50人の人質、そして避けられない犠牲。


 聖剣を選べば子供が死に、子供を選べば兵士が死ぬ。


〈でも、必ず両方救う方法があるはずだ〉


 俺は内心で決意を固めながら、表面上は何も知らないふりをした。


「みんな、慎重に行こう」


 俺はさりげなく提案した。


「古い遺跡は危険が多い。警戒を怠るなよ」


「そうね、用心に越したことはないわ」


 アリシアが同意した。


 遺跡に入る前に、俺は何気ない会話を始めた。


「もし敵が現れたら、どうやって戦う?」


「正面から叩き潰す」


 リョウが即答した。


「でも、もし人質がいたら?」


 カインが眉をひそめた。


「それは……難しいな」


 アリシアが前に出た。


「どちらも救う方法を考えるべきよ」


 彼女の声には、強い決意が込められていた。


「王女として、民を見捨てることはできない。でも、聖剣も重要。なら、両方手に入れる方法を見つけるまでよ」


 俺は内心で驚いた。まだ何も起きていないのに、アリシアは既に答えに辿り着いている。


「そんなうまい方法があるか?」


 リョウが疑問を投げかけた。


「あるわ」


 アリシアは自信を持って答えた。


「実は、私には秘密があるの」


 みんなが注目する中、アリシアは続けた。


「リベルタスでの戦いの後、民衆と共に戦えることの大切さを学んだわ」


 彼女の表情に、懐かしそうな光が宿った。


「あの時、私は本当に愚かだった。民衆を見下し、自分の立場だけで物事を判断していた」


「アリシア……」


 エルナが心配そうに見つめる。


「でも、みんなと一緒に戦って、民衆の真の強さを知った。彼らの愛、勇気、知恵……すべてが私の知らない宝物だった」


 アリシアは腰に下げた剣に手を当てた。


「だから決めたの。民衆と共に戦える王女になろうと」


「まさか……」


 カインが気づいた。


「密かに剣術の修行を?」


「そう」


 アリシアは少し照れたように微笑んだ。


「王国の剣術指南役、レオン・フォルトナー様に師事していたの」


「レオン・フォルトナー?」


 リョウが驚いた。


「王国最強の剣士と呼ばれた伝説の人だろ?」


「ええ。実は彼、昔魔王四天王の一人と戦ったことがあるの」


 アリシアの表情が真剣になった。


「『力の信奉者』ヴァイスという魔族と」


 俺は驚きを隠しながら聞いた。


「それで?」


「レオン様は言っていたわ。『ヴァイスには弱点がある。戦いの中で見つけた』と」


「どんな弱点だ?」


 リョウが身を乗り出した。


「左目が見えないの。昔の戦いで、感情を捨てきれずに受けた傷よ」


 アリシアの声に確信があった。


「レオン様は言っていたわ。『あの男は力を信奉すると言いながら、最後の瞬間に仲間を庇った。その優しさが、彼の弱点でもある』と」


 カインが分析的に言った。


「なるほど。感情を完全に捨てきれていないということですね」


「そういうこと」


 アリシアは頷いた。


「私も戦える力を身につけたかったの。王女の立場だけじゃなく、一人の戦士としても仲間を守りたいから」


 俺たちは遺跡の奥へと進んだ。今回は、カインに事前に準備をさせていた。


「カイン、転移魔法の準備はできるか?」


「ああ、魔法陣の設置も可能です」


「よし、それなら……」


 最奥の間で聖剣エクスカリオンを発見し、リョウが手を伸ばした瞬間――


「愚かな人間どもよ」


 威圧的な声と共に、巨大な影が現れた。


「魔王四天王、『力の信奉者』ヴァイス」


 男は冷酷に名乗った。指を鳴らすと、50人の子供たちが人質として現れる。


「ノア!」


 エルナが叫んだ。そこには、彼女が治療したノアもいた。


「お姉ちゃん……助けて……」


「さあ、選べ。聖剣か、この無力な命どもか」


 ヴァイスが腕を組んだ。


 アリシアが小さく息を呑んだ。


「あなたが……ヴァイス」


 彼女の目に、何か気づいたような光が宿った。


 カインが魔法で分析を始めた。


「待て……彼の魔力の流れがおかしい」


 カインが気づいた。


「左側の魔力循環が不自然だ。まるで、何かを隠しているような……」


「ほう」


 ヴァイスの声に、わずかな動揺が混じった。


「賢い魔法使いだな」


 アリシアが前に出た。


「あなたの弱点、見つけたわ」


「小娘が何を……」


「左目が見えないのね」


 アリシアが確信を持って言った。


「昔の戦いで、感情を捨てきれずに受けた傷。それがあなたの弱点」


「黙れ!」


 ヴァイスが怒りを露わにした。


 アリシアは俺たちを振り返った。


「みんな、作戦があるの。この人の弱点を突けば、両方救える」


 彼女は素早く説明を始めた。


「私が正面から交渉で注意を引く。王女の立場を最大限利用するわ」


「その間に?」


「二手に分かれるの。交渉班と潜入班」


 アリシアの作戦は綿密だった。


「エルナと私が交渉班。王女の権威と、エルナの心魂治癒で培った優しさで、ヴァイスの注意を引き続ける」


「俺たちは?」


「アキト、リョウ、カインは潜入班。カインの転移魔法で、子供たちを救出する準備をして」


 カインが頷いた。


「転移魔法陣なら、事前に設置できる」


「でも、タイミングが全てよ」


 アリシアは俺を見た。


「アキト、あなたが聖剣に触れた瞬間に、全員が同時に動く。左側から私が攻撃を仕掛けるから」


 なるほど、と俺は思った。これなら、両方救える可能性がある。


「でも、危険すぎる」


 俺が心配すると、アリシアは微笑んだ。


「私も戦います」


 彼女の瞳に強い決意が宿っていた。


「アキトさん、あなたが戦場に立つ時、私もあなたの隣にいたい」


 アリシアの頬が少し赤くなった。


「王女として、仲間として、そして……」


 彼女は言いかけて、口ごもった。


「あなたの隣が、私の居場所なの」


 俺は心臓が早鐘を打つのを感じた。


「アリシア……」


「みんなで力を合わせれば、きっと全員救える」


 エルナも賛同した。


「私たちには仲間がいる。一人じゃできなくても、みんなでなら」


 リョウも剣を抜いた。


「よし、やってやろうじゃないか」


 カインも杖を構えた。


「今度こそ、完璧な作戦で」


 俺は仲間たちを見回した。みんなの目に、強い決意が宿っている。


 前回までは、俺一人で答えを見つけようとしていた。でも、今回は違う。


 仲間と一緒なら、きっと第三の道を見つけられる。


「分かった」


 俺は頷いた。


「みんなで、全員を救おう」


 ヴァイスは俺たちの会話を聞いて、嘲笑った。


「愚か者どもが。理想論では現実は変わらん」


「理想論?」


 アリシアが微笑んだ。


「これは戦術よ。あなたの弱点を突く、完璧な戦術」


 彼女は剣を抜いた。レオンから学んだ剣術の構えだった。


「民衆と共に戦うために身につけた力。今こそ、その真価を見せる時ね」


 カインが魔法陣を描き始めた。


「転移魔法陣、設置完了です」


 エルナも治癒魔法の準備を整える。


「心魂治癒で、子供たちの恐怖を和らげます」


 リョウも剣を構えた。


「俺たちの絆を、見せてやろうぜ」


 俺は聖剣に手を伸ばした。


「十秒だ」


 ヴァイスがカウントダウンを始めた。


「待って」


 アリシアが堂々と前に出た。


「私はこの国の王女、アリシア・フォン・ルミナス。あなたと交渉する権限がある」


「王女だと?」


 ヴァイスの注意が、確実にアリシアに向いた。


「興味深い。王族が直接交渉に来るとは」


 エルナもアリシアの隣に立った。


「私たちは、平和的な解決を望んでいます」


 彼女の声には、心魂治癒で培った人の心に寄り添う優しさが込められていた。


 その間に、カインが密かに最終調整を行い、リョウも攻撃準備を整えている。


「あなたにも、きっと理解してもらえるはず」


 アリシアが続けた。


「あなたの祖国も、かつては平和を望んでいた。でも、方法が間違っていただけ」


「黙れ!我が祖国は滅んだ!」


 ヴァイスが激昂した。


「話し合いなど無意味だと、なぜ分からん!」


「でも、あなたも最後まで仲間を想っていた」


 アリシアが優しく言った。


「その左目の傷が証明している。完全に感情を捨てることなんて、できなかった」


「……」


 ヴァイスが一瞬、言葉に詰まった。


 その瞬間、俺たちは動いた。


 すべてを救うために――

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トロッコ問題ぶっ壊す! 仲間も世界も両方救います(死に戻りチートで) みに🐽ぶたちゃん @minibutachan

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