追いかけっこ
森は急な下り坂が続いていた。
壱は五を抱え、参と四の手をつなぎながら進む。弐は静かに後ろを見守る。
足元の土は湿り、滑りやすい。岩に躓かぬよう、壱は全神経を集中させる。
「ゆっくり、急がないで……」
壱の声は震えていたが、確固たる決意がこもっていた。
参はふざけて転げそうになるが、壱にしっかり支えられる。
四は何度も笑いながらも、赤子・五を抱えた姉の手をそっと握った。
初めての森に戸惑いながらも足跡を追っていく。
途中の水たまりで喉を潤し、五にも布に水を含ませてあげる。
途中、休憩をはさみ、小屋から持ってきた真っ赤なトマトを一つかじる。まずは四にわたし、次は参賀が遠慮なくかじる。弐は申し訳なさそうにちょっとかじって渡そうとしていたのでもうちょっと食べるように促した。
最後ヘタの周りが残っていたのでそこを頂く。
あまり美味しくはないが仕方がない。
少し休んだらすぐに出発した。
突然、森の上方から不気味な気配が迫る。
壱は背筋が凍るのを感じた。
獣でもない独特の針を刺す空気感。
あの時、あの女の人を襲った怪物だ……
風に揺れる枝の間、母の姿と重なる異形の影がちらつく。
長い腕、曲がった背、そして光に反射して白く光る顔。
壱は赤子・五を抱き締め、息を殺す。
参と四も、異様な気配に気づき、一瞬立ち止まる。
壱は静かに、しかし確かな声で言った。
「みんな!走って!」
弐は頷き、足を踏み出す。壱の五を抱いた小さな体が、必死に坂を下る。
森の奥で、影は動きを止めず、子供たちを追う。
その走りざまは異様で3本の足があるように左手と両足を交互に使って走ってくる。駆けてくる姿は獣であった。
右手には見慣れた包丁、そして籠を抱えていた。
荒れ狂う悪鬼羅刹の如く。
坂を下りきると、森の出口が見えた。木々の向こうに、微かに民家の屋根が見える。
しかし、まだ山の下へは程遠い。
だが、壱は胸の奥でほっとした。
あそこまで行けば、人がいる……
自分たち以外の人間の存在がわかり大きく胸(躍らせた。
だが、影は近づき、森の暗闇と光の間で子供たちを狙っていた。
壱は五を抱きしめ、必死に走る。
子供たちの足音と、森のざわめきが混ざり、緊張は最高潮に達した。
森を抜け、人里にたどり着くこと―それが今の、子供たちの唯一の希望であり、それにすがるしかない。
息は荒く、怪物はすぐそこまで差し迫る。
五人のこどもたち 古木花園 @huruki_hanazono
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