ご存知の方は待望の、薬屋りんさんシリーズ新作!!
ご存知ない方は、自信を持ってお薦めするので良ければ「樹木魚」の作品から開いてみて下さいね。
こちらは、このままくすぶって人生終えてたまるかと新天地を求めた男がきっかけになる話ですが、あちらは村に残り続けた方のお話になります。
人生のシビアさを感じるお話でした。
人類は何度も飢餓を体験しているし、この国でも飢饉は幾度も起きています。
土地もそこから産み出せるものも無限ではなく、枯渇して無になることもあるからです。
退くか進むか、人生は選択の連続ですが、どちらに良い目が出るか、或いはどちらをとっても失敗するか、ほぼ運です。
だからこそ注意深くなる必要があります。時には幸運か危険の予兆が現れていることがあるから。
今回はバイオレンスなイケメン新キャラ登場でりんさんサイドの事情が新たにチラッと覗ける回となっております。
後、チラ見せになりますがりんさんに撫で撫でされてる子可愛い、シビアの中の癒しになっております~。
それぞれに生活に難渋して苦労と裏心を持つ二人の兄弟と、同じ里に生まれて二人の男性とそれぞれに関わりを持った一人の女性。彼らと彼女が暮らす里に、薬屋「りん」が訪れます。
「りん」は所謂「正義の味方」ではありません。主の命に従っていること、そして、主が人ではなく上位の存在であること。そんな「りん」が主の命を優先させたとなれば……
人は、富どころか、命すら軽いものになります。運命に翻弄される人間の姿が読者の心を揺さぶります。
かつて、自然を人間の手により作り替えるなど叶わなかった、「人新世」など夢物語であった時代に、人間が生きるとは野山の獣が餌を得ることと大差ありませんでした。かろうじて、服を着ていたことと、会話をして先人の物語を後世に伝えられた程度で。その厳しさは現代人の想像を絶していました。本作を読んだ読者は、そのような現実を突きつけられます。
しかし運命にもてあそばれる姿は現代人も変わらないかもしれません。いや、変わらないと断言できるのです。あの会社に就職していれば…… あの女性と結ばれていれば…… 現代の人間も繰り言を呟き、運命を変えられないのです。
人の哀れさを直視しませんか。
必死に生きる人間と、自然や運命に翻弄される姿というものが心に響いてきます。
主人公の添助は、かつて祖父から「虹の土」なるものの話を聞く。その土のもとでは作物が他よりもずっと成長しやすくなるという。
彼には禾助という兄がおり、かつて「籤引き」によってどちらが田を引き継ぎ、更には同じ村にいる茅を妻にもらうかを決めたことがあった。
禾助は籤に細工をして茅も田も手に入れることになったが、子宝に恵まれずに茅とは離縁。代わりに添助が茅と結婚し、今は茅も妊娠中の身。
そんな兄弟の前に、「りん」という旅の薬屋が訪れることになります。
少ない資源の中で、必死に日々の糧を得ようとする兄弟。その姿が何と言っても、「生きる」ということの大変さを伝えてくれます。
まだ世の中が未発達で、人が生きるためには目の前にある田を必死に耕し続けるしかない。
だから希望を抱く。「今の何倍も何十倍も、作物が豊かに実るような土地があれば」と。
土から芽吹く作物の問題もあれば、妻との間に子宝に恵まれるかという問題もある。いずれも「命」が無事に育つかという共通点がある。
りんと出会ったことで、兄弟のそれぞれの人生に変化が及ぶ。「虹の土」や、りんがもたらす「薬」などを通し、これまで漠然と「目の前の現実」を受け入れるだけだった二人の心も揺れ動くようになっていきます。
その果てに、二人はどのような結末を迎えるか。
必死に生きる「命」と、その苦悩に振り回される兄弟。そして、どこか達観した状態でそんな人間たちと関わって行く「りん」。
今回はそんな「りん」が人とは違う「素性」の一部が見え隠れするのも魅力的です。
力強く、そして静かながらも壮大な自然の息吹を感じさせられる作品。読めば心を揺さぶられることは間違いありません。