第54話 進化の断絶
それは、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的だった。
基地を埋め尽くしていた量産型バトルギアの残骸が、燃え盛る鉄屑となってアスファルトに転がっている。
カイは、炎の中を悠然と歩いていた。
敵の銃弾は当たらず、当たったとしても、その装甲を傷つけることすらできない。
『……ひ、怯むな! 奴は一機だ! 包囲しろ!』
スピーカーから、指揮官の悲鳴に近い命令が響く。
だが、恐怖に支配された兵士たちの動きは鈍い。
(……つまらないな)
カイは、無意識にそう感じていた。
以前はあれほど脅威だった「軍の兵器」が、今の彼には、スローモーションで動くブリキのオモチャに見える。
同調したレクス7のセンサーが、敵の関節駆動音、エンジンの熱量変化、さらにはパイロットの心拍数までをも感知し、次の動きを完全に予測させてしまうのだ。
その時。
基地の
それは、今までカイが相手にしていた量産型とは、明らかに異なる機体だった。
流線型の装甲、背部には大型のスラスター、そして両腕には高周波ブレード。
軍が対レクス7用に投入した、対レクス7用の次世代型カスタム機――『ケルベロス』だ。
「……ネズミが調子に乗るなよ!」
エースパイロットと思われる男の怒号と共に、ケルベロスが猛スピードで突っ込んでくる。
速い。量産型の三倍近い推力。高周波ブレードが、空気を切り裂く甲高い音を立てて、レクス7の首元へと迫る。
だが。
(……なるほど。いい機体だ)
カイは、冷静に分析していた。
機体の性能は高い。だが、それを操るパイロットの思考が、機体の速度に追いついていない。
カイには、敵がブレードを振り下ろすまでの「タメ」の時間が、永遠のように長く感じられた。
――ガギィンッ!
火花が散る。
レクス7は、ケルベロスのブレードを、素手で受け止めていた。
「共振性チタン合金」の掌が、高周波の振動を相殺し、刃を完全に無効化している。
「な、なんだと!? 俺のブレードを……!」
「……遅いんだよ」
カイが思考する。
レクス7の腕が、人間の反射速度を超えた神速で動く。
敵のブレードをへし折り、そのままの手刀で、ケルベロスの胸部装甲を貫いた。
ズドンッ!
衝撃が背中まで突き抜ける。
動力炉を一撃で破壊されたケルベロスは、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
一瞬の静寂。
そして、生き残った兵士たちの間に、絶望的なパニックが広がった。
「ば、化け物だ……! 勝てるわけがない!」
「撤退だ! 総員退避ッ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出す軍の車両。
カイは、それを追わなかった。
逃げた兵士たちが持ち帰る「恐怖」こそが、下層区全体に広めるべき、最高の宣伝材料になるからだ。
『……見事だ、カイ』
通信機から、リアの満足げな声が響く。
『お前とレクス7は、もはや「兵器」の枠を超えた。人と機械の境界がない……あの上層区の研究者たちが夢見た、進化の究極形だ』
カイは、炎上する基地の中央で、静かに立ち尽くす。
その様子を、遠く離れた廃ビルの屋上から、一人の人影が見つめていた。
フードを目深に被った、レジスタンスの女だ。
彼女は、双眼鏡を下ろすと、震える手で通信機を握りしめた。
「……本物だ。……我々が待ち望んでいた、『世界を変える力』が、ついに現れた」
雨が上がり、雲の切れ間から、上層区の人工太陽の光が差し込む。
その光の中で、
レイン・リベリオン まくら @makura1231
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