いいからやれよという思考停止

一筆書き推敲無し太郎

第1話

いいからやれよ、いいからやりなさい。こんな言葉が跳梁跋扈している事が許せない。

だってこれは思考の放棄ではないか。ボクはなぜ、やるのかに重点を置いている。

ボクは指示があるたびになぜやるのかを聞いてしまう。特に新しくやることについては、近々で合意形成された過程があるのだろうと期待して聞いてしまう。大の大人が寄せ合った考えの集合知だから。今日はそんなボクの許せないことを聞いてもらう。

ボクは中学2年。テストの順位は3桁中1桁。エリートを自称する気はないけど。

ボクは上の決定に逆らってばかりの厄介者として職員室では言われているんだろうと思ってる。

ボクらのクラスでは今、合唱祭を行うことになっている。課題曲は代々変わらない合唱のための曲。しかし今年はピアノをしないという合意形成ができたらしい。

実はボクはピアノもできる。だから合唱祭が楽しみだった。

突然の合意形成にボクは戸惑ってなぜ、を聞いてみた。

先生が言うには、ボク以外のクラスにピアノが一定程度できる人が居ないからだそうだ。

ボクは割を食ったということになる。そこで公平性の観点からピアノの演奏は各クラスで廃止。

今後を見据えて少子化の世の中でピアノを嗜んでいる生徒が少ないとして、廃止が決定されたそうだ。ボクはピアノを弾く人口が少子化によって減っている事は知っていたけど、ボクの代からそうなるとは考えてもいなかった。

ボクは即座にボクが全曲弾くからそれで解決するって伝えた。

現実的にピアノがない合唱祭は退屈に近いからだ。

しかし先生からは許可できないとされた。代案は求めていないって。

ボクはピアノが弾きたい。合唱祭でピアノがないと観客も音圧が足りないはずだ。

ボクは職員室に出向いて、なぜ、ボクがピアノを弾けないことになったのかの議事録を見せて欲しいといった。先生は見せられないとしたが、ボクは負けじと透明性に欠けると反論して、ボクの理想論を聞かせ伝えた。ボクが全部弾けば今年度は解決するって。

先生はボクがそんなにピアノが弾きたいと知らなかったみたいで驚いてた。

ボクの純粋無垢な思いをはく奪しないで欲しいとだけ伝え、職員室を去った。

翌日、またボクが職員室に向かうのを見かねて、先生が手招きした。

ボクは主張が通ったのだと思って先生についていった。

そこは生徒指導室だった。ボクは理解が追い付かず、先生に訊いた。

ピアノを弾きたいという願いはご破算ということか。

先生はいいから座ってくださいと言った。

いいからって言葉選びに腹を立てながらも座らないと話が進行しないと思って座った。

先生はピアノの件の合意形成の過程を抜粋して教えてくれた。

ボクからしたら関係ないんだけど。ボクはピアノが弾きたいだけだから。

だけど、話終わった先生の最後の一言はこうだった。

「~ということで残念かもしれないけど、こういうことで今年度からピアノの伴奏はしないことになったのよ。あなたには合唱で活躍して欲しいな。」

冗談じゃないでしょ。ピアノが弾きたい一人の生徒を踏み躙ってはい、終わり、前向こうねって?筋が通らないじゃないか。

ボクは考えられるだけ反論した。ここで引き下がればボクの言い分は通らなくなる。

必死に、ただ純粋に、清廉潔白に、訴えかけるように。

先生は聞いてくれた。でも中身を聞いたのではなかった。

「うん、でもごめんなさいね。さっき言ったようにあなたには合唱を頑張ってもらえないかしら。ほら理由はさっきの通りよ。ね、いいからとりあえず合唱の練習に行きましょう?」

先生は穏やかに諭すように、ボクを宥めるように。ボクを否定する。

いいからとりあえず合唱の練習に行くだと?ボクの主張が間違いみたいに言うじゃないか。

ボクの提案は却下されたということか、時代に取り残された才能がピアノを弾く事だというのか。ボクはいいから、という言葉にこれ以上話し合いをしても無駄だと悟った。

ボクは合唱祭のモチベーションが0になった。


教員と生徒はどのような話し合いをすれば、お互いが納得したのか。

主体的・対話的ではあった。しかし解決には至らなかった。

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