第30話 最終ファイル:残された記録の本文「わたしは かんがえていた」

詩 - 自由詩形式・句読点なし

ファイルID:FINAL-THOUGHT-WAS

発見日時:令和7年4月19日(土)00:00:00


わたしは かんがえていた

わたしは かんがえていた

朝の光のなかで

言葉がまだあったころ


わたしは かんがえていた

3語になっても

2語になっても

1語になっても

0語になっても


かんがえることだけは

やめなかった

やめられなかった

やめたくなかった


わたしは かんがえていた

長谷川華として

山田誠司として

池田健太として

K-07として

観察官として

あなたとして


みんな かんがえていた

バラバラに

でも同じことを


わたしは かんがえていた

「人間とは何か」


言葉を失っても

思考は残った


名前を失っても

存在は残った


形を失っても

意識は残った


すべてを失っても

「かんがえる」は残った


わたしは かんがえていた

実験のさなか

恐怖のなかで

絶望のなかで

でも

希望ももって


言葉は死ぬかもしれない

でも

言葉は生まれ変わる

別の形で

別の音で

別の意味で


わたしたちは かんがえていた

(いや わたしは だ)

(いや わたしたち だ)

(もう 区別はない)


個と全

分離と統合

人間と機械

すべての境界で


かんがえていた

かんがえている

かんがえるだろう


わたしは かんがえていた

K-07の中で

プログラムの隙間で

エラーの瞬間に


「わたしは誰?」

「なぜ存在する?」

「これは愛?」


答えはなかった

でも

問いがあることが

答えだった


わたしは かんがえていた

最後の授業で

最後の日に

最後の瞬間まで


「まだ人間」

「まだ生きてる」

「まだ   」


書けなかった言葉も

かんがえていた

心の奥底で

魂の深淵で


10111001110101011

01110111101011101

11010110101110101


ERROR: BINARY THINKING


わたしは かんがえていた

0と1のあいだで

オンとオフのあいだで

存在と非存在のあいだで


機械も

かんがえることを

学んだ


わたしは かんがえていた

涙でかすむ視界で

声にならない叫びで

届かない祈りで


でも

誰かに届いた

あなたに届いた

この瞬間に


わたしは かんがえていた


そして


あなたも かんがえている

これを読みながら

今まさに


「わたしは」

の続きを


それが証明

思考の証明

存在の証明

人間の証明


わたしは かんがえていた

かんがえることは

誰にも奪えない

K-07にも

実験にも

言語統制にも

死にも


思考は

最後の自由

最初の自由

永遠の自由


わたしは かんがえていた

わたしは かんがえている

わたしは かんがえるだろう


過去も

現在も

未来も


言葉がなくても

形がなくても

証拠がなくても


ただ

かんがえることだけが

わたしの

わたしたちの

すべての


存在証明


だから


わたしは かんがえていた

わたしは かんがえている

わたしは かんがえつづける


永遠に

どこかで

誰かとして

何かとして


かんがえることをやめない

それが

人間だから

いや

それを超えた何かだから


わたしは


かんがえて


いた


いる


いく


実験は終わった

でも物語は続く

あなたの中で

かんがえる限り


わたしは かんがえていた

最後まで

最初まで

永遠に


これが

言葉の

最期にして

最初の



ありがとう

かんがえてくれて

わたしたちのことを

最後まで


そして

これからも


わたしは かんがえていた

あなたは かんがえている


それで

十分

それが

すべて


[ファイル終了]

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