A Memory of an Angel | 三題噺Vol.20

冴月練

A Memory of an Angel

📘 三題噺のお題(第20弾)

光る羽根

時計仕掛けの鍵

空を渡る橋

――――――――――――――――――――――――


【本文】

 カチッ!

 この鍵は、一定時間ごとに形を変える。時間ごとに開けられる扉が変わる。この鍵一つで、全てのドアを開けられ、管理できるわけだ。

 あの馬鹿な人間に初めてこの鍵を見せられた時は、私も「なんて画期的な鍵なんだろう」と思い感動した。馬鹿な人間も自信たっぷりだった。

 だが、長いこと使っているうちに気がついた。開けたい扉を、開けたいときに開けられない。扉ごとに鍵があった方が便利だ。本当に、あいつは馬鹿だった。


 机に頬杖をついて鍵を眺める。何しろ、基本やることがない。

 鍵がまた形を変える。一定時間ごとに形を変えるから、この鍵は言ってみれば人間たちが使う時計のようなものだ。

 時計というものも、あの馬鹿な人間に教えてもらった。


 次に鍵が形を変えたら仕事の時間だ。

「仕事の時間」か……人間っぽい発想だな。

 立ち上がり、槍と盾を持つ。

 扉の前で鍵の形が変わるのを待つ。本当に、何で待たなくてはならないのだろう? ため息をついた。




 鍵を開け、扉を開けて外に出る。

 強風に少し目を細める。

 周囲に目を配ると、妖魔が2匹飛んでいる。通常の数だ。

 これなら楽勝だと思ったが、気を引き締める。


 翼を広げ、空へと飛び立つ。

 私に強襲された妖魔は、なす術もなく私に倒される。

 はい、お仕事終了。

 扉の前に戻り、翼を畳む。


 妖魔は人間の負の感情が集まって発生する。それを退治するのが私、天使の役割だ。

 妖魔を放っておくと、妖魔が纏う気が下界に充満し、人間界が荒れる。

 私には関係ないとも思うが、妖魔を倒すのが天使の存在意義なので、仕事はきちんとこなすことにしている。




 庭園から野菜と果物を少し取ってきた。

 ナイフで切り、お皿に適当に載せる。あの馬鹿な人間は、きれいに並べていた。見た目も大事だと力説していた。食べてしまえば同じなのに、人間は変なことにこだわると思った。

 野菜と果物を少し食べる。別に美味しいとは思わない。味付けはしていないし。そもそも、天使は飲み食いする必要がない。

「ふぅー」

 ため息をつく。お腹がいっぱいになったのではない。飽きてしまったのだ。

 人間は、毎日こんな面倒なことをする必要があるのだから、大変だと思う。

「ごちそうさま」

 あの馬鹿な人間がやっていたことを真似た。




 妖魔の数が、少しずつだが増えている。

 問題なく倒せる数だが、少し気になる。

 下界に負の感情が増えている?




 いつも通り妖魔退治の時間となった。

 鍵で扉を開けて外に出る。


 自分の目を疑う。

 空を妖魔の大群が埋め尽くしている。

 あっけにとられ、きょろきょろと周囲を見回す。


 これだけの妖魔が発生する原因は少ない。

 おそらく、人間たちが世界規模の戦争を始めたのだろう。


 脳裏に、あの馬鹿な人間の能天気な笑顔が浮かぶ。

 一瞬、眩暈を覚える。耐えがたい怒りがこみ上げてくるのを感じる。

「おのれ!」

 叫ぶと同時に空へ飛び立つ。


 普段は使わない戦闘翼を開く。巨大な翼は、光る羽根で覆われている。

 翼に触れるだけで妖魔は消滅していく。だが、光る翼は目立つ。妖魔たちが私に気づき、集まってくる。

 歯を食いしばり、妖魔の群れへ突っ込んだ。




 扉の前で鍵が形を変えるのを待つ。もう少しだ……。

 ようやく鍵が形を変えたので、扉を開けて、扉の向こうへと進む。

 鍵は置いていく。もう、私には必要ないから。

 ここには美しい庭園がある。手入れもしないのに、美しく保たれることを、あの馬鹿な人間は不思議がっていた。あの時の馬鹿な人間の間抜けな顔を思い出して、口の端を歪めて笑う。

 美しい庭園の地面が、私の流した血で汚れていくが、たぶんすぐにきれいになるのだろう。


 妖魔の9割は倒せた。残りは、次の天使に任せようと思う。

 先ほど次の天使を確認したが、もうすぐ活動を開始する。

 それは、私の活動がもうすぐ終了するということだ。

 天使は同時には存在しない。


 脚を引きずり、空に浮かぶ小さな島の前までなんとか来た。

 こちらから島までは橋が架かっている。

 橋には手すりが無いから、落ちないように気をつけて島へと渡る。




 島には大きな石が置いてある。

 私が置いた、あの馬鹿な人間のお墓。人間の真似をして作ったお墓。


 気力を振り絞って、お墓の前に立つ。

「全部……お前のせいだ!」

 声に出したほうが聞こえるような気がするから、声に出す。

「人間のくせに天界まで来て……大騒ぎして……そのくせ、たいして長生きもしないで……」

 あの馬鹿な人間の優しい笑顔を思い出す。思いの全てを言葉に乗せる。

「お前が来なければ……私は、寂しいなんて思わずに生きられたんだ!」

 頬を涙が伝う。


 天使は同時には存在しない。いつも一人だ。

 だから、孤独とか、寂しいとか感じることは無い。


 お墓に寄りかかる。

 なぜか、もうすぐまた会えるような気がした。

 そして、私は活動を停止した。


――――――――――――――――――――――――


【感想】

 最初に思いついたのは、「時計仕掛けの鍵」の扱いでした。

 残りの2つのお題から、ファンタジーにすることを決め、「光る羽根」から天使を出すことを決めました。

 3つのお題を掛け合わせてできたのがこのお話。自分では、結構良くできたと思っています。

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