「好き」を麻痺させないように

雲条翔

「好き」を麻痺させないように


「何かを“好き”って感動した気持ちを誰かに伝えないと、“好き”って感じることすら心が麻痺して、やめてしまうんだって。怖い言い方すると、“好き”が死んでしまうんだって」


 これは、2021年のドラマ「お耳に合いましたら。」の中で、ラジオのシーンで吉田照美が語っていた台詞。



 ◆ ◆ ◆



 今回の企画「この夏、あなただけの“好き”を届けよう」を契機に、「自分なりの“好き”とは、なんだろう」と考えてみた。


 好きな芸能人、アイドル、スポーツ選手……いわゆる「推し」などは、私にはいない。


 好きな物=人生の中で多くの時間を費やしてきたもの、だろうか?


 となると……。


 映画が好きだ。

 予算の無さをアイデアでカバーしているような低予算B級映画が好きだ。人間がえげつなく殺されていくホラー映画などは大好物である。

 DVDなどの特典のメイキングを見るのも楽しい。作り手が楽しみ、見る側も楽しむ、好循環がここにある。


 ドラマが好きだ。

 最近のドラマチェックだけではなく、CSでやっているような再放送の懐かしいドラマも捨てがたい。あの人がこんな脇役で出ていた!という再発見もあったり。

 海外ドラマも良い。見始めたら止まらなくなるので一話完結タイプか、既に完結した作品を余裕を持って見ることをオススメしたい。


 特撮が好きだ。

 小さい頃に祖父に買ってもらった、玩具の変身ベルトは「仮面ライダースーパー1」だった。

 今でも仮面ライダーは好きだ。宮城の石ノ森章太郎記念館にも行ったことがある。「龍騎」について語ると多分6000文字に収まらなくなるので割愛。


 外食が好きだ。

 ぶらりと入った店の知らないメニューに挑戦した時、それは美味しくても不味くても思い出になるし、話のネタだ。

 地方に行った時に食べる立ち食い蕎麦は、なんとも言えない。情緒と郷愁にも心引かれる。


 酒が好きだ。

 ビール、日本酒、ワイン……自宅でおつまみを準備して晩酌、というのもいいが、ちょっとした小旅行の先で出会える地酒に舌鼓を打つのも素晴らしい。

 誰が言った言葉だったか「酒は人生の潤滑油」。大人になると、コミュニケーションとして抜群の武器となる。


 温泉が好きだ。

 日帰りで行ける距離の入浴施設に行って、熱い湯に肩までざぶんと浸かって、日頃の疲れを癒やす、あの瞬間が好きだ。

 露天風呂があれば尚良い。火照った肌に屋外のそよ風が嬉しい。


 ゲームが好きだ。

 最近のものよりは、ダウンロードして楽しめるオールドコンテンツで、懐かしさと共に盛り上がる。

 スーファミもネオジオもぎゅっと名作を詰め込んだ専用機があるので、昔の仲間たちと騒ぎながらやるとテンションは急上昇。


 漫画が好きだ。

 社会人になっても、定期的にネットカフェで一気読みする習慣は抜けない。

 本当は自分の家に置ければいいのだけれど、スペースがね……。いつか、図書館並みの本棚を揃えて、漫画で一面埋め尽くしてみたい。


 建築物が好きだ。

 送電鉄塔を見上げたり、東京タワーやスカイツリーの巨大な建築物に込められたロマンを思うと、その構造物に心が躍る。

 昭和レトロな建築の「ビルヂング」や、コンクリの構造物も、間近に臨むと味わい深い。春日部の外郭放水路を見学した時は圧巻だった。


 ばーっと挙げていって、ふと「あ、小説が好きだ、と言っていない」ことに自分で気づいた。


 最近は「小説を買って読む」ということがめっきり減ってしまっているので、頭に浮かばなかったのだろうか。

 考えてみたら、読むのは職場の上司や先輩が勧めてきたビジネス書とか、ぐらいか。

 小学校の頃は「図書館で一番多くの本を読んだで賞」を受賞した、本好きの子供だったのに。

 おっと、もちろん今でも「カクヨム」では皆様の多くの作品を読ませてもらっていますが。(謎フォロー)


 今回、皆さんの「好き」に触れてみて、ひとつ思ったことがあった。


 職場の飲み会で、普段あまり話したこともないような人と話をして、意外な趣味が分かり、その人が自分の趣味について話す時の、キラキラした感じ……。


 「ひとりでキャンプして、釣りをするのが好きなんです」と言っていた若い女性のOさん。

 「女房も子供もいるけれど、アイドルのおっかけがやめられないんだよなあ」と苦笑していたS先輩。

 「自分が生まれる前の昭和歌謡を聴くのが好きです。レコードを部屋中にコレクションしてますよ」と得意気だった平成生まれのKくん。

 「定年退職まで近いトシだけど、年寄りだけの草野球チームがあってね。休日は野球三昧だ。元気なうちにやりたいことをやるさ」と年配のTさん。


 人が、「自分の好きなもの」を語るときの「私はこれがあるから楽しいんだ!」という幸福感に触れ、こっちまで楽しくなってくる感覚、というのだろうか。


 そうか、私は「好きなものを語る人」が“好き”なのかもしれない、と改めて気づかされた。


 無趣味で「休日はダラダラと時間を潰して終わっちゃうなあ……」という人よりは、多趣味で「好きなものがいっぱい! 時間が足りない! でも楽しい!」という人の方が、確実に人生は充実している。


 “好き”は人を輝かせ、キラキラとさせる。


 そんな誰かのきらめきを見て、私も“好き”を共有していきたい。


 自分の中の“好き”を麻痺させないように、殺さないように……そして、自分もいつかキラキラとする側に立っていられたら。

 

 ◆ ◆ ◆



 ちなみに、冒頭で紹介した台詞については「グルメドラマ語り」というエッセイの中で触れているので、気になった方はこちらを。


 https://kakuyomu.jp/works/16818093082981889745/episodes/16818093083077775435

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