何度も読み返していた『怪獣図鑑』

 怪獣というものを想起する際、私は幼少のノスタルジーを思い出す。ゴジラやウルトラマンなど人間とは程遠い姿形や大きさを成す、あの頃の怪獣たち。それらは街などを蹂躙する恐ろしい存在でもあったが、しかし同様に人間とはかけ離れた二足歩行の愛らしいものでもあった。

〈傷心に展望台へ出てみれば 柵 越えたがる 影ばかりいる〉
 この連作は一首ごとに色合いや言葉の手触りなどが異なる。例えば、この作品は怪獣というよりは心に潜む化け物のような容態をしている。小さな声で「行こうよ。」とでも言いたげな。

〈きみの手のTrypoxylus dichotomus 身バレするまで モンスターとす〉
 比べてこの作品は愛らしい。カブトムシと書かずに学名で表す技巧。その中に隠れているのは手のひらサイズの怪獣大合戦。負けてしまえばレッテルばりしてしまいたげな残酷さも持ち合わせている。

〈秘密基地 発掘される 生前が掲載された謎の漫画誌〉
〈CDという鉱石が歌うから 平成という海だった場所〉
 作者本人が話していたように、最後の二首はノスタルジーに溢れていた。怪獣という言葉の多面的な在り様を”怪獣図鑑”という表題の如く懐かしさで包み込む。

 深読みしたくなるような作品を怪獣という接しやすいモチーフで連作にしている『怪獣図鑑』には何度も読み返したいと思える言葉が踊っていた。

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