言葉の装飾がSFやファンタジーを経由しているような装甲の具合で、その一つひとつが『カクヨム』というサイトへ掲載する短歌として映える印象を持ちました。
けれど、詠まれている内容は日常的なものや普遍的なものも多く、麗句の中に触れやすさも内包しており、その差が作品の魅力を引き立てているのは間違いありません。
〈さよならみっつが残る空の甕 宿酔擬き湯たんぽの冷〉
例えば、表題の言葉が出てくるこの一首では、”空の甕”からの”湯たんぽの冷”でその言葉の距離が遠く、思わず「なんて跳躍だ。」と、この三十一字を眺めてしまいます。
〈HOWLING! マーナガルムが狩る光けれども熱が、明日が、巡る〉
そして言葉の装甲が持つファンタジー的性質は、格好良さとの相性が非常に良い。”熱が、明日が、巡る”なんて、思わず口にしてしまいたくなりますよね。
〈月光を呑み干すためのハイキング コーラ一気飲みくらいの難度〉
月光の詩的な描写を例えるために、コーラ一気飲みという世俗的なフレーズ。このバランス感覚が絶妙であると読みながら思いました。
言葉の格好良さに酔いしれている間に、短歌的なものの見方考え方が訪れて、読後感を生む。とても良い連作に出会えたと思いました。