彼は人形と結婚すると言いました

雛形 絢尊

親交関係のある3名による証言記録

友人Kによる証言


「いやあ、なんか変だと思ったんですよ。

だって合コンですよ?

彼女もいないって言ってたんで誘ったら

ドタキャンで、その次の週に聞いたんですよ、なんで来なかったんだって、そしたら

合コンなんて聞いてなかったって。

俺ちゃんと言ったんですよ、まあいいや、

これからは誘わんって思ったんですよ。

でも話を聞くところによると、もう彼、

結婚を決めてるって言ってて、

あー、それだったら申し訳ないことしたなって思いました」


同級生のMさんによる証言


「私彼のことが好きだったんです。

すいませんね、いきなり変なこと言って。

最初は気になるなって

思っていただけなんですけど次第にこう、

好意に変わっていって。

恥ずかしいですね本当に、でも事実で。

私たち、都内の方にデートに行ったことが

あるんです。2人きりで。そうですね

大学2年生の頃です。全然就活とか、

まだ何にも考えてない時に快く

デートをしてくれるということで、

おめかしして、ちゃんと準備して、

デートに向かったんです。

彼は全然なんというか、興味のなさそうな、

ずーっとそんな感じなんです。

話聞いてなかったり、

意見を言ってくれなかったり、

口を開いたとしても「そうだね」

くらいしか反応してくれなくて、

ふたりでいるには楽しかったんですけど、

まあ、心の底から楽しめてはなかったと

思いますが、夕方にカフェに行って

彼に伝えたんです。好きだということを。

まあ、脈なしだとは思っていたんで、

当たって砕けろ精神で。

結果はダメでした。断られちゃいました。

すごく気まずかったんですけど、

自分の気持ちを打ち明けることができて

満足というか、帰りは飄々としてました。

あー!言えた満足〜みたいな。

潔い気持ちですね。

それから何度か大学の構内で

会ったんですけど、あ、そうだ!

食堂で会った時に私も私ですよね、

掘り返すようなことを聞いてしまったんです。

気になっていましたから。もしかして、

好きな人がいるから私を振ったの?と。

彼は間髪を入れず言ったんです。うんって。

その時はまあショックでしたけど、

仕方ないなって。諦めがつきました。

ちょっとばかりは期待してましたが、

ここでやっと、次に進めるなって思って。

申し訳程度に謝られたんですけど、そこで

話が終わって、昔仲が良かった子と

この前ついばったり駅で会って、

昔の恋バナというか、そんな話を

ファミレスで話していたんです。

私も何かあるかと

まあ思いついたのが彼とのデートです。

それくらいしかなかったもんですから。

彼女は私の話を聞いてこう答えました。

「なんか、ちょっと怪しいね」

女の影がとかではなく、怪しいと。

それはどうしてと聞いてみると

こんなことを言うんです。

「私彼が変な独り言言ってるのをみた」って。

最初は全然普通、

まあ、普通ではないですかね。

そんなに気にならなかったんですが、

少しずれてるのが、その時間です。

彼女はその姿を5分間も眺めていたそうです。

5分間もずっと、微動だにせず独り言を。

独り言なんて誰しも言うじゃないですか。

私の話はこれくらいなんですけど、もっと

変なことがあるんですか?」


友人Fさんの証言


「ずっと昔から仲が良くて、

自分はそう思ってますよ。

急に変わったなって思いました。

昔は結構活発なやつで、サッカー部で

自分の一緒だったんです。

スポーツもして、アクティブでなんの

変哲もない、ただの陽キャのやつ、

そういう印象です。

そんで、自分が言うのもアレなんですけど、

結構イケメンで、小学校の卒業アルバムの、

女子が選ぶ結婚したい人みたいな

ページあるじゃないですか、それで

一位に選ばれるほどですよ、女性陣に

その頃から認められてるんですから、

それは間違い無いじゃないですか。

羨ましいですよ。

連絡が急に途絶えてきたのは

20代半ばでしたかね、

いくらLINEと電話でおーい、とか

大丈夫か?って連絡をしても

返って来ないんですよ、

でもすぐ返ってきましたね、1ヶ月くらいで。

そして電話がかかってきたんです彼から。

驚きつつもその電話に出ました。

すると声色の変わった彼の声で、

心配になって聞いたんです。大丈夫か?って。

彼は言いました。

「大丈夫だけど、結婚するよ」って。

は?ってなりましたもん。なんか

おかしいなって思って。ほら、

日本語の文にしてはおぼつかないというか。

あまり使わないじゃないですか。

心配になって、いろいろ

聞き出そうとしたんですけど、もうそうだ。

彼の家に行って話を聞いた方が早いと

思いまして、引っ越した、とも

言っていたんで住所を聞いていってみたんです。彼は家にいるって言いましたけど、外から

彼の部屋が見えるようになってまして、

アパートの、多分キッチンのとこ、

電気ついてないんですよ。

彼に電話して、それも夜だったんで、

着いたから扉開けてって言ったんですよ。

そしたら、勝手に開けてっていうんです。

こちらもやっぱり間違えていたら

どうしようとかあるじゃないですか。

いいよ、開けてっていうんです。電話で

何号室っていうのは聞いてたんで、

ドアノブに手をかけました。

そしたらスーって開くんですドアが。

真っ暗な部屋でしたよ、目を凝らしてみないと何があるのかわからないくらい。

お邪魔しますと声をかけて恐る恐る部屋に

入ると、床に座って、こう四角い机、

多分ご飯食べる用ですけどそこで

座ったまんまの彼がこちらをみたんです。

どうした、心配したぞ、なんていって

彼に問いかけると、おうと気の抜けた

返事が返ってきたんです。

どうした?と靴を脱いで彼の方に近づくと、

彼の隣に日本人形が置いてあったんです。

うわあ、気味悪いなって少しは

思ってしまいましたが、それよりも

彼の心配を。

それでもですね、やはり

気になってしまうんですよ隣の人形が、

よくみる日本人形ですよ?こいつ

こんな趣味あったんかって。

いや、その存在感ですよ。

電気がついてないもんですから。

電気つけるよと言って部屋を

明るくしようとしたんですが、

彼が食い気味につけないで!

と慌ててそう言ったんです。そこまでいうなら、とは思いましたけど、やがて彼の両肩に

手を置いてゆするように大丈夫かと

声をかけました。私は言葉を間違えるように、こんな人形置いて、どうしたんだよ

なんて言ってしまったのです。

すると彼は憤怒の表情を見せました。

あの顔はゾッとしましたね。特に何も言わず、

鋭い視線をこちらに向けてじーっと。

私は慌てて謝りました。ごめんと。

それでもなぜこんなことになったのか。本当にこんな姿の彼はみたことがなかったので。

彼は意外にも簡単にそのことを

教えてくれました。

彼の家は代々、人形と

結婚しなければならないというんです。

意味が分かりませんでしたよ。彼の家で

昔から愛でてるこちらの人形を

男の子が生まれたら、愛情を植え付けるようにしなければならないんですって、

そんなことがあるのかと思いましたよ。

掟があるようで、それは

絶対に人と結婚してはいけないこと。

思えば彼の家、お父さんが早死にしてるんです。彼が生まれてすぐに亡くなったそうなんです。

彼がいうには祖父も

早くに亡くなっているようで。

ずっと、ずっとその人形を大事に、

愛でなければ不幸になる。

彼は狂ったようにその人形の頭部を

撫でました。一回二回と。

するとまるでふ水が吹き出すように

その黒い髪が伸び始めたんです。

私は慌てて家を飛び出してしまったんですが、最近の彼、その当時よりも最近元気でいて、

安心しました。昔告白してくれた子と

今は付き合ってるらしいです。

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彼は人形と結婚すると言いました 雛形 絢尊 @kensonhina

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