懐かしい夜空を思い出して
- ★★★ Excellent!!!
静かな星空の描写に油断していた心を、一気に突き落とされたような感覚でした。
文章を読む目線が止まり、自分でも気づかないうちに呼吸を止めていました。
青年の吐く白い息、冷えた空気、星座を一つずつ辿っていく描写がとても丁寧で、読み進めるうちに、まるで子供の頃に田舎で見た、本当に真っ暗な夜空を思い出しました。
あの独特の、肌寒いほどの透明感です。
そこから一転、星図にない光の出現、そして円盤型の“何か”が迫る恐怖。
「自分の日常も、こんなにあっけなく壊されるのかもしれない」という、他人事ではない恐怖を感じました。この地続きな感覚こそが、この作品の巧みさだと思います。
特に印象に残ったのは、青年が「やばい、やばい」と繰り返し走る場面。
主人公の喘ぎが、いつの間にか自分の呼吸と重なっていました。
ただ文字を追っているだけなのに、息が上がって胸が苦しくなる、そんな読書体験は久しぶりでした。
最後に涙さえ地に落ちず浮かび上がる描写は、不思議でありながらぞっとするような美しさがありました。
そして夢落ちかと思わせてから、再び“知らない星”を見せてくるラスト。
恐怖の余韻を残したまま終わることで、読者の想像が止まらず、背筋に冷たいものが走ります。
不要な描写が一つもなく、すべての言葉がラストの恐怖を引き立てるために奉仕している。
まるで職人のような、無駄のない構成に唸りました。
──読み終えて、夜空を見上げるのが少し怖くなるような、そんな余韻を残してくれる一編でした。
次の作品も是非読ませてください。
応援しています。