Ep.1-2 気づけば

『Achille:クロード、お前もしかして、ゲーセンってラプラス区のゲーセンか?』

 

 さっきまで俺がゲームでボコボコにされていたルソー区から、大体20キロ。そこに聳えるのは、ラプラス区で一番の交通の要衝、第二セントラル駅。


 白く染まった館内には、人々の雑踏や電車の到着を知らせるリズミカルなチャイムと、自動ドアを介して外から漏れるひんやりとした空気が混ざっている。


『Claude:そうだけど』


『Claude:それがどうかしたか?』


 透明なガラスを張られた自動ドアをくぐり、目的地を目指しながら、体内に仕込まれたチャットアプリ、A Reelエーリールで、親父と俺はその会話を記録していく。


『Achille:そこから離れろ』


 脳内に表示されるその文字に、つい足を揃える。


『Claude:離れる?なんで。まあ離れるよ、どうせゲーセン行くし』


 再度足を交互に前へ出していく。


『Achille:もっと遠くに行け』


『Claude:だからなんで?』


 その文字を飛ばすと、親父の返信は少し滞りを抱いていた。


『Achille:ユートピアの連中の目撃情報が入った。実際、過去に第一セントラルでも、ユートピアが200人殺してんだ』


 ユートピア――そういえば、さっきも家の前で、他の連中と仲良く殺し合ってたのもそいつらだったな。


 というより、返信にかかった時間に対して文字数が少なくないか?


『Claude:はいはい。わかったよ』


 飛行機から垂らされた横断幕の下で、連なったビル群を避けるように歩みを進める。


 雑踏は未だ続いている。


『Achille:走れ。逃げろ』


 なんだよ、もう。ユートピアが殺人なんて、日常茶飯事――


 そのとき、背後からは鼓膜を殴打するような轟音と、冬という季節にそぐわない熱風が俺を襲った。


 俺は来た道を振り返り、その惨状を目に焼きつける。


 真っ白で清潔感のあった第二セントラル駅は、赤色の煙に包まれて、その内部では炎が滾っている。


 忽ちその煙は、厳しく痛い風を押し返し、人々の雑踏を騒然へと塗り替えていく。


 断続的に爆発は繰り返し、その度足元の地面が小刻みに揺れている。


 広くおし立った煙がこちらに押し寄せ、細かく砕かれたガラスが辺りを飛び回っている。


 それらに紛れて、煤けた瓦礫が俺の目の前まで接近していた。


 やばい、死――




 これが最後の記憶。




「ん、こいつ起きたぞ」


 俺は瞼を開けるとともに、目映い光に真っ白な見たことの無い天井。それと、加工のようなドスの利いた声色と、ごつごつとした兵器のような機械が俺を覗き込んでいる。


「うわああああっ!」


 柄にもなく、雄たけびを上げてしまった。


 いや、無理もない。一種のホラーだろ、目が覚めたらこんなキラーロボットみたいなごついのが目の前にいるんだから。


 そもそも、俺は今どこに......?


 誘拐......?でも、一番最後に見た景色から考えるに、人攫いとはまた違うような気もするが。


「喚くなクロード。耳障りだ」


 冷徹な女性の声。


 鋭い目つきと、高い背丈に黒いコートが非常に映えている。革靴の底を地面につけて、胸の前に腕を組んでいる。


 なんだよもう、やぶから棒に――ん?こいつ、俺の名前を呼ばなかったか?


 いや、まて。それよりも親父に連絡を――


『接続できません。データの欠損、または破損が発見されました』


 最悪だ。A Reelが繋がらなくなった。


「お、お前ら誰だよ。俺がなんかしたかよ」


 ただただ怯えた声を震わせると、その女は「はぁ」と俯いて溜息を吐き


「クロードは忘れっぽいとばかり思っていたが、もはやここまでとはな。手が負えない。こんなことになるなら、お前は助けなければよかったなのかもな」


 彼女はそう口角を上げて、こちらを見つめている。


 ......?俺はこいつらに助けられたということか。


 確かにありがたいことだけど、こいつは一体......?

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|:TerminaL:|| 甘照 鶯 @hisatama45

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