6.破魔の魚雷、まなごいまは
そんなわけで、初対面のギャルとサシ飲みして、それから突然二人でホテルに行くことになるという、まるでエ〇漫画みたいな
結論から言おう。
…………めちゃくちゃ最高だった。
あんなにも官能的で情熱的な夜を過ごしたのは、生まれて初めてのことだった。
ホテルの一室で、夏の暑さにも劣らぬほど互いに身体を火照らせ、二人の色んなモノが混ざり合って…………なんかもう、ほんとに凄かった。
ってか、あの下着は反則だよ。
海で着てた水着より、遥かに
そんな、今思い出しても身体のアチコチが熱を帯びてくるような凄まじい一夜を経た朝。
どこかこそばゆい感覚を抱えたまま、俺たちはホテルを出て、海の最寄り駅へと歩いた。
そして、電車の方向が反対だったため、そのまま駅のホームで解散。
帰りの電車内でも、俺はボンヤリ夢見心地で、ただただ呆然としていた。
その日も平日で、どうしようか迷ったのだが、結局自宅には帰らず、まっすぐ会社に出勤することにした。
昨日、いきなり大声叫んで職場を脱走した俺に、一体どんな奇異の視線が向けられるのか……。内心かなり怯えていたが、かと言って、このまま無断欠勤を続けるわけにもいかない。
ええいままよと覚悟を決め、勇を鼓して出社したのだが、フロアに姿を現した俺に対する会社の人々の態度は、意外なものだった。
「昨日はびっくりしたけど、
「私も上司として、陰木君に仕事を頼み過ぎていたと反省したんだ……。負担を少しでも減らせるよう、急遽チーム内で業務を割り振りし直したから、何かあったら相談してくれ」
「お前、クソ真面目だもんなー。あんまり一人で抱え込み過ぎないで、もっと周りを頼ったほうがいいぞ? あ、でも何か今日は、肌がツヤツヤしてて調子良さそうだな?」
……こんな感じで、なぜか多くの人が、俺に対して同情的だった。
なんだ、とんでもないブラック企業だと思ってたけど、うちの会社って、普通にいい人ばっかりじゃないか。
確かに俺、元々コミュ障気味ってのもあって、「自分に振られた仕事は自分一人で頑張らなきゃ」って思い込んでたかも。視野が狭くなりすぎてたのかな……。
言われた通り、もっと周りを頼って、厳しい時は助けを求めて良いのかもしれない。
そんな訳で、今回の俺の絶叫騒動は、他者とのコミュニケーションの取り方や仕事のやり方を振り返り反省する、結果オーライな感じで平穏に幕を閉じたのだった。
『へー、良かったじゃん☆』
『ウチも休日で充電できたし、心気一転!』
『また今日から頑張るよ!』
昼休み、スマホに届いたぎゃる美さんからの連投メッセージを見て、俺は微笑んだ。
彼女とは別れ際に連絡先を交換しており、早速LIMEでやり取りしていた。
しかし、さすがはギャル。返信が鬼速い。
と、思ってるそばから再び、ぎゃる美さんからメッセージが連投されてきた。
『でもウチ、またすぐ元気なくなっちゃうかもだから……』
『その時はカゲっち、またいっぱい充電させてね♪』
『あ、ウチのアパートの住所添付しとくから、今度の週末遊びに来て☆』
『色々準備して、待ってるから♡』
……それらのメッセージに、朝になって落ち着いていた俺の
まったく、陰キャに優しいギャルってのは、最高だな!
夏はもう終わり九月に入るけど、俺も心気一転。今度の週末に向けて頑張るぞ!
俺はヤル気を
今年の灰色の夏の終わりに、俺が得たもの。
それは、唐突に出会ったギャルとの、熱い熱いアバンチュール。
はっきり言って、その前に出会った変な透明のおっさんクラゲのことなど、最早どうでもよかった。
変態プルプル野郎の記憶はもう、ホテルの浴室で俺をぬるぬるの快楽へと
あのたわわな双丘こそが、俺にとってまさに、夏の終わりのジェリーフィッシュだった。
……ちなみに後日、ニュースを見ていたら、「沖縄の領海付近で、海軍の潜水艇が魚雷を緊急発射」なんて速報テロップが流れてきた。
なんでも、「透明な全裸中年男性を模した未確認生物兵器らしきものが出現したため、思わず魚雷を撃ち込んだ」とのことらしいが、これが本当であれば、沖縄の海で泳ぐ女性ダイバーたちの安全と貞操は、しっかり守られたことになる。
領海近辺での魚雷発射ということもあり、にわかに国際情勢は騒がしくなっているようだか、個人的にはよくやってくれたと思う。
あの変態ゼラチン野郎の安否とか、極めてどうでもいいが、どうか無事、海の藻屑となってくれていることを願うばかりである。
■□■□■□
……とまあ、こんな具合で、この夏の俺の体験を何らかの形に残してみたくなって、ネット上に文章を
今年の夏、楽しい思い出を何一つ作れず、家と職場をひたすら往復するだけだったり、あるいはひたすら部屋に引きこもるだけの日々を過ごして、激しく後悔している人たちに俺が伝えたいことは、ただ一つ。
それは「悔やんでる暇があったら、さっさと動け」ってことだ。
季節外れでもなんでもいい。今からでも夏の終わりの海に、思い切って出掛けてみればいいじゃないか。
もしかしたらそこで、思いもよらぬ運命の相手との出会いが、極上のロマンスが待っているかもしれないのだから。
諦めるなんて、まだ早すぎる。
諸君の奮起と健闘に期待している。
……あと、ここまで読んで、「んだよ、てめえ。自虐に見せかけた、ただの自慢話じゃねーか!」と憤慨しているあなた。
その通り、自慢だよ!
どーだ、羨ましいだろう! ハハハハハ!
だから俺は、この文章の最初に一言、断りを入れておいたんだ。
「正直、大して読む価値のあるものではない」ってな。
― おしまい ―
夏の終わりのジェリーフィッシュ 煎田佳月子 @iritanosora
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