夢を記憶する枕
リュウ
第1話 夢を記憶する枕
枕が変わると寝ることができないと自分の枕を持ち歩く人が居ると言う。
それは、きっと頭の位置だとか、枕の感触や匂いがその人の心を落ち着かせるためかもしれない。
自分の枕にこだわる人は、きっと繊細な精神の持ち主なのだろう。
寂しがり屋なのかもしれない。
一緒に過ごしたぬいぐるみや毛布を離さない子どもの様な人なのだろう。
僕は、単純にそう思っていた。
僕は、自分でも驚くぐらい直ぐに寝ることができた。
何秒で眠りについてしまう。
その中で夢を見ているのだが、大抵は起きた時に忘れてしまう。
コンピュータの初期化と同じように、見事に記憶がない。
なぜ、僕がこんな事を言うかというと、僕の変わった能力に気づいたからだ。
僕は、他人の夢を見ることができるらしい。
ある友達の家に泊まった時である。
彼は、医者の息子で、家を継ぐことが決まっていた。
大学に入るまで、友達もできなかったらしい。
お父さんから、あれをやれ、これをやれと命令をされている夢だった。
何か言おうとすると、
「お前は何もわかっていないんだ……兎に角、俺の言う通りやるんだ」
と、言う一方的言葉だった。
その命令の従わないと、何時間でも説教され、食事を与えられない夢だった。
目が覚めてから、友だちに夢の話をした。
すると、友だちから笑顔が消え、怯えたような顔になった。
どうしたのかと問い詰めたら、それは、自分が良く見る夢だと教えてくれた。
他人の夢を見るのは、枕をして寝た時に限られていることに気づいた。
寝ているときにその人間を癒すために眠りがある。
その夢が、枕に記憶されているのだ。
その記憶を見れるのが、僕の能力らしい。
僕は、その人の悩みを救う方法を考え、接するようにした。
自然と友達が増え、人間としても格が上がったと思っていた。
友達の家に泊まることも無くなり、その能力を忘れかけていた。
僕にも彼女が出来た。
卒業を来年に控え、就職先が決まった仲間と飲みに行きことが増えた。
もちろん、彼女も一緒だ。
ある時、終電に遅れてしまった僕は、彼女の部屋に泊まることになった。
彼女は、ジャージとタオルケットと枕を貸してくれた。
僕は、じっと枕から目が離せなかった。
彼女の枕、
彼女の夢の記憶が詰まっている……
僕の知らない彼女の記憶が詰まっている。
「もう、寝ましょう」
彼女は部屋の明かりを消した。
暗闇の中、僕は眠れない。
彼女の夢の記憶を見てみたい気もする。
見たくない気もする。
すると、彼女の声が聞こえた。
「眠れないの?こっちへ来て……」
僕は、彼女のベッドに滑り込むことにした。
おやすみ……。
夢を記憶する枕 リュウ @ryu_labo
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