清楚でツンデレなあの子の一日

カン

一日

「ジリジリジリ……!!」




 ベッドの横にある時計が部屋全体にアラームを響かせる。




「うぅんっ………」




 私は半目になって体を横に倒す。


 目の前の時計はまだ鳴っている。




 うざったく感じながら時計をたたき、アラームを止める。




 もうすこしだけ………




 きょうはやすみのひだから………





 ♢♦♢♦♢♦





 明るさを感じて意識がはっきりしていく。


 徐々に起き上がってきた意識が覚醒し私は瞼をゆっくり開た。




 しばらく天井を見ていたけど、ふっと上半身を持ち上げる。




「んんんっ………!! っはぁ…!」




 腕を上にあげて伸びをする。


 さっきまでだるかった体がほぐれて気分がはれていく。




「ふわぁ………」




 まだちょっと眠たい気がするけど朝ごはん食べようかな。下からウインナーのいいにおいがするしパンと一緒に食べよう。


 あと、なんだかんだ言って朝ごはんってたのしみね。




 少し浮ついた足で階段を下りて居間のドアを開ける。




「あら今日は意外と早かったわね。ご飯できてるわよ」


「はーい」




 廊下が暗かったせいか窓から差し込む光が私の部屋にいた時よりも明るく感じる。




 寝起きの足を引きずりながら食卓の椅子に座る。目の前にはトーストとウインナーそれにスクランブルエッグ。




 ほら! やっぱり。ウインナーにはパンが一番よね。




 少し気分がよくなって目がぱっちり覚めた。




 今日は久しぶりにあのカフェに行こうかな。最近は行ってなかったしあそこの紅茶の味も恋しくなってきちゃった。




 あっ! でも、お金この前結構使っちゃって残ってないかも。


 この前やめたばっかだしどうしようか迷ってたけど、やっぱりバイト行こうかな。




 め、メイクもしっかりしないとダメだし…


 服もいまいち好みわかんないから…




 とりあえずバイトはやろう。




 それにしてもあいつの好みの服装かぁ…


 べ、べつにあいつの好みの服装が分かったからって何かするってわけじゃないし? ただ、男の人の好みってどんなものなのかな、っていうだけだし!




 皿を見ると食べていたトーストがいつの間にかなくなっていた。




「ご馳走様」




 食べ終わった食器を台所までもっていき流しにつける。




 さてと、メイクしてあのカフェに行こうかな。





 ♢♦♢♦♢♦





 鏡の中の自分を見つめる。白いシャツを着たその姿はどこか別人のように思えた。




 鏡から目をそらして化粧水のボトルに手を伸ばす。




 パカッという子気味いい音が鳴りボトルを傾けて手のひらに化粧水を出し、優しく顔に広げていく。そのひんやりとした感触が心地よく、少しだけ肩の力が抜ける。




 顔全体になじませてから乳液を手に取りさっきと同じように顔に塗る。




「ふぅ……」




 一息ついてから次は下地を手に取って五点にオン。そこから顔全体に均等に塗り広げていく。




 気になったところはファンデーションで整えてっと。




「…アイメイクどうしよう。今日はやろうかな」




 私は一瞬迷ったけど、結局やることにしてアイシャドウを手に取る。


 ベージュの色を選んで軽く瞼にのせる。しっかりと色を付けるわけではない。ほんのりと自然な陰影を作る感じで。




 そしてチップやアイライナーを使って慎重に整えていく。


 最後はマスカラで繊細に、目尻は流して。




 よしっ! 私的にもなかなかうまくできた気がする。




 無意識に口もとが緩む。




 仕上げにチークをのせて、リップを塗れば…完成!




 最初に比べて圧倒的に顔全体が明るくなってる。


 メイクの前はやっぱり幼さが残っていたけどこうやってメイクアップすれば大人な女性って感じ。大丈夫、やっぱり私はかわいい。




「ふふふっ………」




 私は鏡の中の自分とにらめっこしながらしばらくの時間微笑んでいた。





 ♢♦♢♦♢♦





「お母さん! 行ってきます!」


「はーい。行ってらっしゃい!」




 私はお気に入りの靴を履いて意気揚々とドアを開けて外に出る。




 明るい日差しが私を照らしてくる。




 そういえばカフェまではちょっと遠いんだった。でもあそこの紅茶のことを考えながら歩いたらすぐについちゃう。




 いくつかの信号を曲がり街中から少し外れたところにあるアンティーク風のカフェの前で足を止めて店の中に入る。




 からんころん、とドアベルが鳴りあのカフェに来たことを再確認する。




 私はいつもの窓際の席に座っていつもの紅茶を頼む。ここの紅茶は絶品なのだ。


 今までの飲み物の中で一番おいしいといっても過言ではない。


 深みがあってそれでいてほんのりとある甘み。味が口の中で広がっていくような感覚。どれをとっても最高の逸品だ。




 あぁ、想像するだけで口の中が幸せになる。早く来ないかなぁ。




 記憶の中の幸せをかみしめているとやっと運ばれてきた。




 さてとさっそく………




 カップを手に取って口もとまで運んでいく。そしてカップに口づけし、紅茶が口の中へ流れ込んでくる。




「あぁー………」




 思い出した。




 この幸せ。




 一度、カップをソーサーに戻し外の景色を見る。


 この店は庭が広くてこの窓の外には緑が広がっている。


 小さな池もありそこには何匹かの魚も泳いでた。




 ここにると本当に心が安らぐ。




 もう一度、紅茶を口にする。何度もよみがえってくるこの多幸感。


 全身が紅茶の幸せでとろけてしまいそう。




 光が池に反射してきらきらと輝いている。空は雲一つない快晴だ。


 店内にはジャズが流れていて居心地がいい。




 この空間、そしてこの紅茶の素晴らしい味。もう私の人生になくてはならない存在だ。




 紅茶の最後の一滴を飲み終わり、席を立つ。




「ごちそうさまでした!」





 ♢♦♢♦♢♦





 少し空の色がオレンジ色に変わってきたなかをゆっくりと家に向けて歩を進めていく。




 まだ紅茶の余韻が口の中に残っている。




「………今度はあいつも誘ってみようかな」




 い、いやいやいや。あいつは別に関係ないし。それに紅茶が好きだっていう風には言ってなかったし。それに…




 でもあいつも紅茶が好きだったらいいな。




 頬はちょっとだけ暖かかった。

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清楚でツンデレなあの子の一日 カン @kanbju

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