硝子ペンと記憶のインク【ASMR】【G’sこえけん】
☆ほしい
第1話
(BGM:店内には、窓ガラスを優しく叩く雨音だけが静かに響いている。音量は小さく、心地よい程度)
SE:古い木製のドアが開く、少し軋むような音。ドアに取り付けられたカウベルが「カランコロン」と乾いた音を立てる。
SE:革靴の足音が、磨かれた木の床を二、三歩進む。
蛍:「(正面・少し遠め、穏やかに)…いらっしゃいませ」
蛍:「(少し驚いたように、でも嬉しそうに)あれ…? もしかして、君…?」
蛍:「(確信したように、声が弾む)やっぱり! わあ、久しぶり。元気だった?」
SE:蛍がカウンターから出てきて、こちらに近づいてくる。スリッパの柔らかな足音。
蛍:「(正面・近め、懐かしむように)本当に、何年ぶりかな。最後に会ったのは…高校生の時だっけ。すっかり大人っぽくなったね。…ふふ、当たり前か。私も、もうこんな歳だもの」
蛍:「(優しい声で)今日はどうしたの? この辺りに用事でもあった? それとも…もしかして、このお店を目指して来てくれたのかな」
蛍:「(嬉しそうに)そっか。嬉しいな。…外、すごい雨でしょう。傘、そこの傘立てにどうぞ。タオル、使う?」
SE:蛍が少し離れ、棚から何かを取り出す音。布が擦れる音。
蛍:「(正面・近め)はい、これ。綺麗なタオルだから、気にしないで。顔とか、髪とか、拭いて」
蛍:「(微笑む気配)うん、ゆっくりでいいよ。…お店、相変わらずでしょう? おじいちゃんが亡くなってから、私が引き継いで…もう五年になるかな。好きな本に囲まれてるから、私には合ってるみたい」
蛍:「(少し店内を見回しながら)古いだけで、価値のあるものなんてほとんどないんだけどね。でも、この匂いとか、この静かな感じとか…好きなの。君も、昔よくここで本を読んでたよね。隅っこの椅子で、難しい顔して」
蛍:「(くすくすと笑う)覚えてるよ。よくお菓子をこっそり持ってきてあげたじゃない。…君はいつも、ありがとうって、小さな声で言うんだ。懐かしいな」
(…数秒の間。雨音だけが響く…)
蛍:「それで…今日は、何か探し物? それとも、何か…私に用事かな」
蛍:「(真剣な声色に変わる)…その手紙。見せてもらってもいい?」
SE:あなたがポケットから取り出した、古く、少し皺の寄った封筒。乾いた紙が微かに擦れる音。
蛍:「(正面・至近距離、息を飲む)…これは。大事なものなんだね。見ただけでわかるよ。何度も、何度も、読み返した跡がある」
蛍:「(囁くように)中、見てもいい?」
SE:あなたが頷くのを待って、蛍がそっと封筒から便箋を取り出す。薄く、繊細な紙が触れ合う音。
蛍:「(少し悲しそうに)…ああ。インクが、掠れてしまってる。これじゃあ、なんて書いてあるか…ほとんど読めないね。雨に濡れたとか、そういうのじゃなくて…時間が、言葉を攫っていったみたい」
蛍:「(あなたの顔を見上げる気配)…うん。大丈夫。…大丈夫だよ」
蛍:「(決心したように、少し明るい声で)任せて。こういう時のための、私だから。…おじいちゃんから、ちゃんと受け継いでるから」
蛍:「さ、こっちに来て。そこの椅子に座って。私の仕事、すぐ側で見てて」
SE:蛍があなたの腕をそっと引く。布の擦れる音。木の椅子を引く音。あなたが座る。
蛍:「(正面・少し離れる)ちょっと待っててね。とっておきの道具、持ってくるから」
SE:蛍が店の奥へと歩いていくスリッパの音。しばらくして、小さな木箱を抱えて戻ってくる。
SE:カウンターの上に、木箱が「ことり」と置かれる音。
蛍:「(正面・近め、楽しそうに)ふふ。これが私の仕事道具。…開けるよ」
SE:木箱の小さな真鍮の留め具が「カチリ」と外れる音。軋みながら、ゆっくりと蓋が開く。
蛍:「(囁き声で)見て。綺麗でしょう?」
蛍:「(右耳元・囁き)これは、硝子ペン。おじいちゃんが、懇意にしてた職人さんに作ってもらった、特別なものなの。光に透かすと、虹色に見えるんだ」
SE:蛍が、ビロードの布に収められた硝子ペンをそっと取り出す。ガラス同士が触れ合うような、硬質で澄んだ音。
蛍:「(左耳元・囁き)そして、こっちがインク。ただのインクじゃない。『記憶のインク』って、私は呼んでる。失われた言葉の上に、もう一度命を吹き込んでくれる、魔法のインク」
SE:ずらりと並んだ小さなインク瓶。その中の一つを、蛍が指でそっと撫でる音。
蛍:「(正面・近め)君の手紙は…どんな思い出が詰まってるのかな。インクの色は、その思い出の色に合わせるのが一番なんだ。…暖かくて、少しだけ切ない色。…そうだな、この色がいいかな」
SE:蛍が、夕焼けのような、淡い琥珀色のインクが入った小瓶を手に取る。
蛍:「(右耳元・囁き)『黄昏(たそがれ)インク』。…どうかな。君の思い出に、似合う色だと思うんだけど」
蛍:「(嬉しそうに)よかった。じゃあ、始めようか。…修復作業、開始だね」
SE:蛍が作業用のデスクランプをつける。「カチッ」というスイッチ音。柔らかな光が手元を照らす。
蛍:「(正面・近め、集中した声で)まず、手紙をここに広げて…。しわを、優しく伸ばしてあげる。破れないように、そーっと、そーっとね」
SE:便箋が、デスクマットの上で「さらり」と広げられる音。蛍の指が、紙のしわを丁寧に撫でて伸ばす、微かな摩擦音。
蛍:「よし。…じゃあ、インクの蓋を開けるよ」
SE:インク瓶のコルク栓が「ポンッ」と軽快な音を立てて抜ける。
蛍:「(左耳元・囁き、吐息多めに)…インクの匂い、する? 少し甘くて、古い本の匂いが混じったみたいな…不思議な香りでしょう。これが、記憶の香り」
蛍:「(正面・近め)じゃあ、ペン先にインクを含ませるね」
SE:硝子ペンのペン先が、インク瓶の液体に浸される音。「とぷん…」という小さな水音。
SE:ペン先を瓶の縁で軽く整える音。「こつ、こつ…」とガラス同士が触れ合う、硬質で繊細な音。
蛍:「(右耳元・囁き、集中している)…いくよ。掠れた文字の線を、なぞっていく。息を、止めて…」
(…数秒の間。雨音と、蛍の静かな呼吸音だけ…)
SE:硝子ペンが、紙の上を滑り始める。最初は「カリ…カリ…」という、少し硬質で細やかな音。
蛍:「(囁き、独り言のように)…最初の文字は…。うん、見える。見えるよ。こう…だよね」
SE:ペンが滑らかに動く音に変わる。「サラサラ…」「シャリシャリ…」。インクが紙に染みていく気配。
蛍:「(左耳元・囁き)どう? 音、聞こえる? 硝子のペン先が、紙の繊維を優しく撫でてる音。…この音が、私は好きなんだ。まるで、時間が巻き戻っていくみたいで」
SE:カリカリ…サラサラ…という筆記音が、リズミカルに続く。蛍はあなたの左側に少し身を寄せている。
蛍:「(囁きながら、時々、浮かび上がった単語を読む)『…元気、ですか』…。うん、読める。次も…『僕は…』」
蛍:「(少し顔を上げて、あなたの右耳元へ移動する気配。囁き)君の字だね。昔と、全然変わらない。少し不器用で、でも、すごく丁寧な字。…思い出すな」
SE:筆記音は続く。カリ…カリ…シャリ…。
蛍:「(右耳元・囁き)インクが足りなくなってきた。もう一回、つけるね」
SE:ペン先が紙から離れる。再び、インク瓶にペン先を浸す「とぷん…」という音。瓶の縁で整える「こつ、こつ…」という音。
蛍:「(今度は正面、少しだけ顔を上げて)この作業は、集中力が必要なの。だから、お店はいつも静かにしてる。雨の日は、特にいい。雨音が、他の雑音を全部消してくれるから。…世界に、私と、この手紙と…そして、君だけがいるみたい」
蛍:「(微笑む気配)…なんてね。ちょっと、格好つけすぎたかな」
蛍:「(再び手元に集中し、声が囁きに戻る)さ、続きをしよう。二行目…」
SE:筆記音が再開される。カリカリ、サラサラ…。今度は、少し長めのストロークの音。
蛍:「(左耳元・囁き)…『あの日のこと、覚えていますか』…」
蛍:「(息を飲む音)…あの、日…」
蛍:「(囁きが、少しだけ感情を帯びる)…うん。覚えてるよ。もちろん」
SE:筆記音が、ほんの少しだけ止まる。
蛍:「(自分に言い聞かせるように、小さな声で)…だめだめ。ちゃんと、最後まで修復しないと。私の感情を入れちゃ、インクが滲んでしまうから」
SE:筆記音が、また静かに再開される。カリカリ、サラサラ…。
(…しばらく、筆記音と雨音、蛍の静かな呼吸音だけが続く。時間は1分ほど。リスナーが音に集中するための時間…)
蛍:「(右耳元・囁き)…だんだん、思い出してきたんじゃない? この手紙に、何を書いたのか」
蛍:「(優しく)無理に思い出さなくてもいいよ。言葉が、全部教えてくれるから。君の心が、ここに全部、残ってるから」
SE:カリカリ、サラサラ…。
蛍:「(囁き)…『蛍ちゃんが、遠くの街に行くって聞いて、寂しくないなんて、嘘です』…」
蛍:「(声が震えるのを堪えるように)…そっか。…そう、思っててくれたんだ」
蛍:「(正面・囁き)…私も、寂しかったよ。君に、さよならを言うのが…一番、辛かった」
SE:筆記音が続く。最後の数文字を、丁寧に、なぞっていく音。
蛍:「…『また、いつか』…『会えますように』…」
SE:ペンが、紙からそっと離れる音。
蛍:「(深く、長い息を吐く)…できた。…全部、なぞり終えたよ」
蛍:「(囁き)見て。あんなに掠れていたのに…ほら」
蛍:「(右耳元・囁き)君の言葉が、ちゃんとここに、帰ってきた」
SE:蛍が、インクを乾かすために、便箋にそっと息を吹きかける音。「ふーっ…」という、優しく、温かい息遣い。
蛍:「(囁き)まだインクが乾いてないから、動かしちゃだめだよ。…このまま、少しだけ待とう」
蛍:「(左耳元・囁き)ねえ。この手紙、私がもらった手紙だよね。君が、私にくれた…」
蛍:「…私、引っ越しの時に、なくしちゃったんだと思ってた。ずっと、ずっと探してた。…そっか。君が、持っていてくれたんだね。…ありがとう」
蛍:「(声が少し潤んでいる)…馬鹿だな、私。お礼を言うのは、こっちなのに。…君の大事な手紙を、なくしかけてたのは、私の方だ」
蛍:「(正面・優しい声で)…うん。もう大丈夫。インク、乾いたみたい」
SE:蛍が、吸取紙(ブロッター)をそっと便箋の上に置く音。紙が触れる、乾いた優しい音。
蛍:「これで、もう滲まない。…はい。君の、宝物」
SE:便箋が、あなたの前にそっと差し出される音。
蛍:「(少し照れたように)…どういたしまして。…修復師、だからね。これくらい、お安い御用だよ」
(…数秒の間。雨音が、少しだけ弱まっている…)
蛍:「(後片付けを始める気配)さて、と。道具をしまわないとね」
SE:硝子ペンを、水の入ったコップで洗う音。「ちゃぷ…ちゃぷ…」「さらさら…」。水の中でガラスが揺れる、涼しげな音。
蛍:「(独り言のように)このペンも、喜んでる。久しぶりに、素敵な記憶に触れられたって」
SE:柔らかい布で、硝子ペンを優しく拭う音。「きゅ、きゅ…」という、ガラスを磨く音。
蛍:「(囁き)綺麗になった」
SE:硝子ペンが、木箱のビロードの上にそっと戻される音。インク瓶にコルク栓をする「きゅぽん」という音。
SE:木箱の蓋が閉まり、留め具が「カチリ」と音を立てる。
蛍:「(正面・近め、穏やかな声で)…これで、おしまい」
蛍:「(ふふ、と笑う)お代? いらないよ。…だって、私にとっても、宝物が戻ってきたんだから。むしろ、お礼をしなくちゃ」
蛍:「…また、会いに来てくれる? …今度は、こんなに時間を空けないで」
蛍:「(嬉しそうに)うん。約束ね」
蛍:「(あなたの耳元に、そっと近づく気配)外、もう雨、ほとんど止んでるみたい。でも、まだ空気は冷たいから、気をつけて帰るんだよ」
蛍:「(右耳元・囁き、吐息多めに)…今日は、来てくれて、本当にありがとう。…君のおかげで、私も、忘れていた大切な気持ちを、思い出すことができた」
蛍:「(囁き)…またね」
蛍:「(少し離れて、優しい声で)…おやすみ。…いい夢を」
SE:蛍が、静かにカウンターの中に戻っていくスリッパの音。
(BGM:雨音は、ほとんど聞こえなくなり、静寂が訪れる。遠くで、かすかにカウベルが鳴るような、幻想的な音が一度だけ響き、ゆっくりとフェードアウトしていく)
***
(BGM:店内には、遠くで聞こえるリーン、というような、か細く優しい秋の虫の音だけが静かに響いている)
SE:古い木製のドアが開く、少し軋むような音。ドアに取り付けられたカウベルが「カランコロン」と、前回よりも少しだけ澄んだ音を立てる。
SE:革靴の足音が、磨かれた木の床を二、三歩進む。
蛍:「(正面・少し遠め、顔を上げて、柔らかな声で)…いらっしゃいませ」
蛍:「(すぐに気づいて、ぱっと表情が明るくなる気配)…あ。…来てくれたんだね」
蛍:「(嬉しそうに、弾む声で)待ってたよ。本当に。…約束、覚えててくれたんだ」
SE:蛍がカウンターから出てきて、こちらに近づいてくる。スリッパの柔らかな足音。
蛍:「(正面・近め、心から嬉しそうに)おかえりなさい。…なんて言ったら、変かな。でも、そんな気持ち。また君の顔が見られて、すごく嬉しい」
蛍:「(優しい声で)今日は、いいお天気だったね。夕日が綺麗。見て、窓の外。空が、私がこの前使った『黄昏インク』みたいな色をしてる」
蛍:「(くすりと笑う)ふふ。…さ、こっちへどうぞ。この前と同じ席、空けておいたから」
SE:蛍があなたの腕をそっと引く。布の擦れる音。木の椅子を引く音。あなたが座る。
蛍:「(正面・少し離れる)すぐに戻るね。…実は、君のために、用意しておいたものがあるんだ。ううん、君と、一緒にしたかったこと、かな」
SE:蛍が店の奥へと歩いていくスリッパの音。しばらくして、小さな桐の箱と、いくつかの道具を乗せたお盆を持って戻ってくる。
SE:カウンターの上に、お盆が「ことり」と置かれる音。陶器同士が軽く触れ合う音。
蛍:「(正面・近め、楽しそうに)じゃーん。どうかな、これ。何が始まるか、わかる?」
蛍:「(囁くように)今日はね、修復作業じゃないの。今日は…新しい思い出を作る作業」
蛍:「(右耳元・囁き)一緒に、栞(しおり)を作らない? …ただの栞じゃないよ。私たちの思い出を閉じ込めた、世界でたった一つの栞」
SE:蛍が、桐の箱をそっと開ける。中には、丁寧に並べられた押し花や葉が入っている。乾いた植物が微かに擦れる音。
蛍:「(左耳元・囁き)綺麗でしょう? お店の裏の庭で咲いたお花とか、散歩の途中で見つけた綺麗な葉っぱとか…こうして、押し花にして集めてるの。時間が経っても、その時の色のまま、ここにいてくれるから」
蛍:「(正面・近め)この中から、好きなのを選んで作ってもいいんだけど…。今日、使いたいのは、これ」
SE:蛍がピンセットを使い、箱の中から一枚の、少し赤みがかった金木犀の葉をそっと取り出す。
蛍:「(右耳元・囁き)金木犀。…覚えてる? 小さい頃、小学校からの帰り道、角を曲がると、ふわって、甘い香りがしたでしょう。君と二人で、どこから香るんだろうねって、きょろきょろ探したこと」
蛍:「(懐かしむように)結局、大きなお屋敷の塀の向こう側だってわかって。背伸びしても見えなくて、二人してがっかりしたんだよね。…あの時の、秋の匂い。私、今でもはっきり覚えてる」
蛍:「(嬉しそうに)だから、君と作るなら、絶対にこれだって決めてたの。…どうかな。気に入ってくれると、嬉しいんだけど」
蛍:「(微笑む気配)よかった。…じゃあ、始めたいところなんだけど、その前に。…少し、冷えてきたでしょう? 温かいお茶を淹れるね。何がいい? 緑茶、ほうじ茶、それとも…ハーブティーもあるよ」
蛍:「(優しく)うん、わかった。じゃあ、カモミールにしようか。リラックスできる、優しい香りがするから。…お砂糖と、蜂蜜、どっちがいい?」
蛍:「(くすくす笑う)蜂蜜だよね。知ってる。君、昔からそうだった。…ちょっと待ってて。すぐ準備するから」
SE:蛍が少し離れ、カウンターの奥で準備を始める。戸棚からティーポットとカップを取り出す音。「こと、こと」と陶器が触れ合う。
SE:茶葉の入った缶の蓋を開ける「ぽん」という軽い音。スプーンで茶葉を掬い、ポットに入れる「さらさら…」という乾いた音。
蛍:「(少し遠くから、穏やかな声で)このカモミール、お隣のおばあちゃんが分けてくれたものなの。すごく香りがいいんだよ。…お湯、沸いたかな」
SE:電気ケトルが「カチッ」と音を立てる。蛍が、沸かしたお湯を、ティーポットに注ぎ始める。「とくとく…」「ちょろちょろ…」という、心地よいお湯の音。
蛍:「(左耳元・囁き、すぐ近くに来た気配)…湯気が、いい匂い。…見て。ポットの中で、小さなお花がゆっくり開いていくよ。まるで、眠りから覚めるみたい」
SE:蛍がポットの蓋を「ことり」と置く。
蛍:「(正面・近め)三分くらい、蒸らそうか。一番美味しい時間。…この待ってる時間も、好きなんだ。静かで、穏やかで…心が落ち着いていく感じがして」
蛍:「(囁き)君は、本を読んで待ってる? …あ、そっか。今日は、何か買った本、持ってるの?」
SE:あなたが鞄から一冊の本を取り出す。少し厚みのある、文庫本。紙が擦れる音。
蛍:「(少し驚いたように)…わあ。その本…。懐かしい。おじいちゃんが好きだった作家さんのだ。…君、こういうお話、好きなんだね。知らなかったな」
蛍:「(嬉しそうに)嬉しい。このお店にある本が、君の時間を彩ってるんだって思ったら…すごく、嬉しいよ。…ありがとう。この子を、選んでくれて」
SE:タイマーの「ピピピッ」という電子音。すぐに蛍が止める。
蛍:「(楽しそうに)はい、時間だね。じゃあ、淹れるよ」
SE:蛍が、ティーカップを二つ並べる。ポットから、琥珀色のお茶が注がれる音。「とくとく…」。
蛍:「(右耳元・囁き)君の分には、蜂蜜を…一匙、とろーり」
SE:瓶からスプーンで蜂蜜を掬う音。蜂蜜が、お茶の中にゆっくりと落ちていく、粘り気のある音。「とぷん…」。
SE:小さなティースプーンで、カップの中を優しくかき混ぜる音。「カラン…カラン…」と陶器と金属が触れ合う、澄んだ音。
蛍:「(正面・近め)はい、どうぞ。熱いから、気をつけてね」
SE:あなたの前に、ソーサーごとカップが「ことり」と置かれる。
蛍:「(微笑む気配)ふー、ふー…。うん、美味しい。体の中から、ぽかぽかしてくるね」
(…数秒の間。二人でお茶を飲む、静かな時間。遠くの虫の音だけが響く…)
蛍:「さて。それじゃあ、いよいよ始めようか。栞作り」
蛍:「(集中した声で)まず、この台紙の上に、好きな和紙を敷くの。栞の背景になる部分ね。色、どれがいいかな。夕焼けみたいな橙色も綺麗だし、夜空みたいな深い藍色も素敵だよね」
蛍:「(優しく)うん、藍色にしようか。金木犀の葉の色が、きっと映えるね」
SE:薄い和紙の束から、一枚を選ぶ音。「さらり…」。それを、作業用のマットの上に広げる。
蛍:「次に、この葉っぱを、どこに置くか決めるの。真ん中でもいいし、少し端に寄せてもお洒落だよね。…君だったら、どこに置く?」
蛍:「(囁き)…そこ? うん、いいね。すごくバランスがいい。君、センスあるね」
SE:蛍がピンセットを使い、金木...犀の葉を、あなたの指差した場所にそっと置く。「…とん」という、とても軽い音。
蛍:「(左耳元・囁き)動かないように、息を止めて…。よし。次は、この葉っぱの周りに、少しだけ飾りをつけようか。金色の、細かい砂があるんだけど…これを少しだけ散らすと、星空みたいに見えるんだ」
SE:小さな瓶の蓋を開ける。中から、金色の砂を、指でひとつまみ、ぱらぱらと振りかける音。「さらさら…」。
蛍:「(囁き)…綺麗。まるで、夜空に浮かぶ一枚の葉っぱみたい。…物語が始まりそうだね」
蛍:「(正面・近め)じゃあ、これを、フィルムで挟んでいくよ。空気が入らないように、慎重に、慎重に…」
SE:ラミネートフィルムの、粘着面を剥がす音。「ぺりぺり…」。
蛍:「(右耳元・囁き、集中している)いくよ。端から、ゆっくり、ゆっくり…。定規を使って、空気を抜きながら…」
SE:定規の縁が、フィルムの上を滑っていく音。「しゅーっ…」「すーっ…」。
蛍:「(息を吐く音)…ふぅ。できた。空気、入らなかった。上手くいったよ」
蛍:「(嬉しそうに)見て。金木犀の葉が、永遠にこの瞬間を生き続けるみたい。君と私の思い出が、ここに、ちゃんと閉じ込められた」
蛍:「最後の仕上げ。この角を、専用のパンチで丸くするの。そうすると、優しくて、可愛い印象になるから」
SE:角を丸くするパンチの音。「パチン、パチン」と、小気味良い音が四回響く。
蛍:「そして、てっぺんに、リボンを通すための穴を開けて…」
SE:穴あけパンチの音。「ガチャン」。
蛍:「リボンは、葉の色に合わせて、この橙色にしようかな。…うん、きっと似合う」
SE:リボンを、小さな穴に丁寧に通していく音。布が擦れる、微かな音。最後に、きゅっと結ぶ。
蛍:「(囁き)…できた。…完成だね」
(…数秒の間。完成した栞を眺める、静かな時間…)
蛍:「(正面・近め、優しい声で)はい、君に。プレゼント」
SE:完成した栞が、あなたの手のひらにそっと置かれる。
蛍:「(少し照れたように)どういたしまして。…君と一緒に作れたから、私も、すごく楽しかった。ありがとう」
蛍:「(囁き)その栞を見るたびに、今日のことを…ううん、私たちのことを、思い出してくれたら嬉しいな。君が本を読む、その傍に、いつもいられたらいいなって」
蛍:「(右耳元・囁き)…よかったら、その本に、今、挟んでみてもいい?」
蛍:「(嬉しそうに)じゃあ、ちょっと失礼して…」
SE:蛍があなたの持っている文庫本を、そっと受け取る。ページをめくる「ぱらぱら…」という音。
蛍:「どこまで読んだの? …ああ、ここまでか。じゃあ、このページに、そっと…」
SE:栞が、本のページに挟まれる音。「するり…」。
蛍:「(囁き、吐息多めに)…うん。すごく、似合ってる。まるで、最初から、この本のために作られたみたい」
SE:蛍が、栞を挟んだ本を、あなたの前にそっと戻す。
蛍:「(正面・穏やかな声で)…私ね、おじいちゃんからこの店を継いだ時、少しだけ不安だったんだ。私に、務まるのかなって。古い本は好きだけど、それだけじゃダメなんじゃないかって」
蛍:「でも、こうして、君が来てくれるようになって。…手紙を修復したり、一緒に栞を作ったり。…ただの本屋じゃなくて、思い出を大切にする場所に、なれてるのかなって。少しだけ、思えるようになった」
蛍:「(囁き)君が、私に自信をくれたんだよ。…ありがとう」
蛍:「(左耳元・囁き)…だから、これからも、いつでもおいで。用事がなくても、何もなくてもいい。ただ、ここで本を読んでくれるだけで、君がこの空間にいてくれるだけで、私は、すごく安心するから」
蛍:「(優しく)君の居場所は、ここにあるからね。…忘れないで」
(…しばらく、お茶を飲む音と、遠くの虫の音だけが響く。穏やかで、満たされた時間…)
蛍:「(ふふ、と笑う)あ、お茶、冷めちゃったかな。淹れ直そうか?」
蛍:「(嬉しそうに)そっか。よかった。…外、もうすっかり暗くなっちゃったね。時間が経つのが、あっという間だ」
蛍:「(立ち上がる気配)名残惜しいけど、今日はもうおしまいかな。…送っていくよ。お店の前まで」
SE:二人が立ち上がり、ドアに向かって歩く。スリッパと革靴の足音。
SE:古い木製のドアが開く音。カウベルが「カランコロン」と鳴る。ひんやりとした夜の空気が流れ込んでくる。
蛍:「(店の外で、囁くように)わあ…。星が綺麗。…空気も、澄んでるね。金木犀の香り、する?」
蛍:「(囁き)…よかった。…この香りを嗅ぐたびに、きっと、今日のことも思い出すね」
蛍:「(右耳元・囁き、吐息多めに)…気をつけて、帰るんだよ。…今日は、本当にありがとう。すごく、すごく、幸せな時間だった」
蛍:「(囁き)…また、すぐに。…会いに来てくれる?」
蛍:「(心から嬉しそうに)うん。…約束。…待ってるからね」
蛍:「(少し離れて、優しい声で)…おやすみ。…また、ここで」
SE:蛍が、あなたが遠ざかるのを静かに見送っている気配。やがて、店のドアがゆっくりと閉まる音。カウベルが「…ころん」と最後の音を立てる。
(BGM:秋の虫の音が、少しだけ大きく、そしてクリアに聞こえる。静かで優しい夜の闇の中、その音だけが響き渡り、ゆっくりとフェードアウトしていく)
***
(BGM:店内は、ほとんど無音に近い静寂。時折、石油ストーブが「ぽ…」と小さな音を立てるのが聞こえる程度)
SE:古い木製のドアが開く、少し軋むような音。ドアに取り付けられたカウベルが「カランコロン」と、冬の澄んだ空気の中で、硬質な音を立てる。
SE:革靴の足音が、磨かれた木の床を二、三歩進む。冷たい外気と共に、あなたの吐く白い息の気配。
蛍:「(正面・少し遠め、編み物をしていた手を止め、顔を上げる)…いらっしゃいませ」
蛍:「(すぐに笑顔になる)…ふふ。やっぱり、君だった。なんとなく、今日は来てくれる気がしてたんだ」
蛍:「(嬉しそうに)ようこそ。外、すごく寒いでしょう。雪、積もってた? …わあ、肩のところに雪が。…ちょっと待ってて、払ってあげる」
SE:蛍がカウンターから出てきて、こちらに近づいてくる。スリッパの柔らかな足音。
蛍:「(正面・近め、囁くように)じっとしてて。…はい。…とん、とん、とん…。これで大丈夫かな。冷たかったでしょう?」
蛍:「(優しい声で)マフラーと手袋、よかったらそこの籠に入れて。ストーブのすぐ近くだから、帰る頃には、きっとほかほかになってるよ」
SE:あなたがマフラーと手袋を外し、籠に入れる音。布が擦れる音。
蛍:「(微笑む気配)さ、こっちに来て。一番暖かい席へどうぞ。…お店、静かでしょう? 雪の日は、音を全部、雪が吸い取っちゃうみたい。世界に、このお店だけが取り残されたような…そんな気持ちになる」
SE:木の椅子を引く音。あなたが座る。
蛍:「(正面・少し離れる)すぐに温かいもの、淹れるね。今日は、ホットミルクにしようかな。生姜と蜂蜜を少しだけ入れた、特製の。体が芯から温まるよ」
SE:蛍が小さなキッチンカウンターへ向かうスリッパの音。冷蔵庫を開け、牛乳パックを取り出す音。
蛍:「(少し遠くから、穏やかな声で)君が初めてここに来てくれた日は、雨だったよね。二回目に来てくれた日は、綺麗な夕暮れで。…そして、今日は雪。…君が来てくれるたびに、お店の窓から見える景色が、全部、特別なものになるみたい」
SE:小さなミルクパンに、牛乳を「とくとく…」と注ぐ音。
蛍:「(楽しそうに)私ね、君が来てくれるのを待ってる時間も、好きなんだ。今日はどんな顔でドアを開けるかな、とか、どんな話ができるかな、とか。…そういうのを考えてると、一日があっという間」
SE:コンロに火をつける「カチッ、ぼっ」という音。牛乳が温められていく、微かな音。
蛍:「(右耳元・囁き、すぐ近くに来た気配)…ねえ。今日は、君と一緒にしたいことがあるんだ。…ううん、未来のために、してみたいこと」
蛍:「(囁き)…手紙を、書かない? …過去の言葉をなぞるんじゃなくて。未来の、私たちに宛てた手紙」
蛍:「(正面・近め)十年後でも、二十年後でもいい。いつか、また二人でこの店にいる時に、一緒に開けてみるの。…どうかな。素敵だと、思わない?」
蛍:「(嬉しそうに)よかった。…じゃあ、決まりだね。ミルクが温まるまで、道具の準備をしちゃおうか」
SE:蛍が、あの小さな木箱をカウンターの上に「ことり」と置く。真鍮の留め具が「カチリ」と外れる音。
蛍:「(左耳元・囁き)硝子ペンは、もちろんこれを使うとして…。問題は、インクだよね」
蛍:「(囁き)未来への手紙だから、『記憶のインク』じゃない方がいいと思うの。これから作る、未来の記憶の色。…だから、これを用意したんだ」
SE:蛍が、木箱の隅から、一つだけ違うデザインの小瓶を取り出す。
蛍:「(右耳元・囁き)見て。夜が明ける直前の、東の空みたいな色でしょう? 紫と、深い青が混じり合ったような…。私は『黎明(れいめい)インク』って呼んでる。…始まりの色」
蛍:「(微笑む気配)君の未来も、私の未来も、きっと、こんなふうに希望に満ちた色をしてると思うから。…このインクで、私たちの未来への言葉を、綴りたいな」
SE:キッチンのミルクが「ふつふつ…」と沸き立つ小さな音。蛍が慌てて火を止める。
蛍:「(くすくす笑う)あ、いけない。お話に夢中になってた。…すぐ持っていくね」
SE:マグカップを二つ用意する音。温まったミルクを注ぐ音。スプーンで蜂蜜を掬い、かき混ぜる「からん…からん…」という音。生姜をすりおろす「しゃり、しゃり」という微かな音。
蛍:「(正面・近め)はい、お待たせ。やけどしないように、ゆっくり飲んでね」
SE:あなたの前に、マグカップが「ことり」と置かれる。
(…数秒の間。二人で温かいミルクを飲む、静かな時間。ストーブの燃える音だけが響く…)
蛍:「(満足そうに息をつく)…ふぅ。美味しい。…心まで、解けていくみたいだね」
蛍:「さて。じゃあ、始めようか。未来への、手紙の準備」
蛍:「(集中した声で)便箋は、これがいいかな。少し厚手で、インクが滲みにくい、真っ白な紙。君の未来も、まだ、こんなふうに真っ白なんだよ。これから、どんな色にもなれる」
SE:上質な便箋の束から、二枚を取り分ける音。「さら…」。
蛍:「封筒も、お揃いのを二つ。…そして、今日の主役がもう一つ」
SE:蛍が、別の小さな引き出しから、何かを取り出す音。
蛍:「(左耳元・囁き)シーリングワックス。…封蝋(ふうろう)だよ。手紙に封をするための、蝋。…色は、インクに合わせて、この深い青色にしよう」
蛍:「(囁き)それから、スタンプ。…お店の屋号、『月影堂』の『月』のマーク。…可愛いでしょ? これも、おじいちゃんが作ってくれたものなんだ」
蛍:「(正面・近め)さあ、準備は万端。…じゃあ、インクの蓋を開けるね」
SE:黎明インクの瓶の、ガラス栓が「こぽん」と静かな音を立てて抜ける。
蛍:「(右耳元・囁き、吐息多めに)…新しいインクの匂い。少しだけ、つんとしてて…でも、奥の方に、甘い花の香りが隠れてる。…夜明けの空気の匂いみたい」
蛍:「(正面・近め)じゃあ、ペン先にインクを含ませて…。…はい、どうぞ。これは君の分」
SE:硝子ペンが、あなたの前にそっと置かれる。
蛍:「(微笑む気配)私も、こっちで書くね。…何を書こうかな。未来の私に、なんて言おう。…未来の君は、隣で笑ってるかな、とか」
蛍:「(囁き)…しー。ここからは、内緒。お互い、何を書くかは、開ける時までのお楽しみ」
(…しばらく、二人が手紙を書く音だけが響く。カリ…カリ…サラサラ…。硝子ペンが紙の上を走る、繊細な筆記音。時々、ペン先をインクに浸す「とぷん…」という音。ストーブの音と、窓の外の静寂。時間は2分ほど。リスナーが音に集中するための時間…)
蛍:「(ペンを置く、小さな音)…ふぅ。…書けた。君は、どう?」
蛍:「(嬉しそうに)そっか。じゃあ、便箋を丁寧に折って…」
SE:二人が、それぞれの手紙を三つ折りにする音。「さらり、さらり」。
蛍:「封筒に、そっと入れる。…破かないように、ゆっくりね」
SE:便箋が、封筒に滑り込む音。「する…」。
蛍:「(楽しそうに)いよいよ、最後の仕上げだよ。封をしよう」
SE:蛍が、アルコールランプに火をつける。「しゅっ、ぼ…」という音。
蛍:「(左耳元・囁き)この蝋を、火で溶かしていくの。…見てて。だんだん、蜂蜜みたいに、とろとろになっていくから」
SE:スプーンの上で、蝋が溶けていく音。最初は硬いものが当たる「こつこつ」という音から、次第に「じゅわ…」「ぷつぷつ…」という、液体が沸き立つような微かな音に変わる。
蛍:「(囁き)いい匂い…。蝋が溶ける時の、甘くて香ばしい匂い。…好きだな、この香り」
蛍:「(集中した声で)よし。これくらいかな。…いくよ。封筒の、この場所に、ゆっくり垂らして…」
SE:溶けた蝋が、封筒の上に「とろり…」と落ちる音。
蛍:「(右耳元・囁き)固まらないうちに、スタンプを…。真ん中に、そっと押し当てる。…息を止めて…ぎゅーっ…」
SE:金属のスタンプが、柔らかい蝋に押し付けられる、鈍い音。
蛍:「(囁き)このまま、少し待つ。…十、数えるね。…いち、に、さん…し、ご…ろく、なな、はち、きゅう…じゅう」
蛍:「(囁き)…よし。そっと、離すよ」
SE:スタンプが、固まった蝋から「…ぺり」と静かに剥がれる音。
蛍:「(嬉しそうに)…できた。見て、綺麗に月の模様ができたよ。…君の分も、やってあげるね」
SE:もう一度、蝋を溶かし、封筒に垂らし、スタンプを押すまでの一連の作業音が繰り返される。
蛍:「(満足そうに)はい。これで、二人の未来への手紙が、完成したね」
蛍:「(正面・近め、優しい声で)この手紙は、私が預かっておく。このお店の、一番大事なものをしまっておく引き出しに、ちゃんと保管しておくから。…だから、安心して」
蛍:「(囁き)そして、いつか。…君と、またここで、一緒に開けよう。その時、私たちは、どんな顔でこの手紙を読むんだろうね。…楽しみだな」
蛍:「(微笑む気配)…約束だよ。絶対に、一緒に開けるんだからね」
(…数秒の間。完成した手紙を眺める、穏やかな時間…)
蛍:「(後片付けを始める気配)さて、と。火を消して、道具をしまわないと」
SE:アルコールランプの蓋をかぶせて火を消す音。「ふっ」。硝子ペンを水で洗う「ちゃぷ…」という音。木箱の蓋が閉まり、留め具が「カチリ」と音を立てる。
蛍:「(正面・近め、穏やかな声で)…これで、おしまい」
蛍:「(ふふ、と笑う)お代? もちろん、いらないよ。…これは、未来の私たちへの投資、だからね」
蛍:「…雪、まだ降ってるかな」
SE:蛍が、そっと窓に近づくスリッパの音。
蛍:「(囁き)…うん。まだ、降ってる。さっきよりも、少しだけ、大粒になったみたい。…綺麗。キラキラ光ってる」
蛍:「(あなたの隣に戻ってくる気配)…もう少し、ゆっくりしていくでしょう? 雪が止むまで、とは言わないけど…。もう少しだけ、一緒に、この雪を見ていたいな」
蛍:「(右耳元・囁き、吐息多めに)…君が隣にいてくれるだけで。ただ、それだけで、こんなに寒い日も、世界で一番、温かい日になる」
蛍:「(囁き)…ありがとう。今日も、会いに来てくれて」
蛍:「(優しい声で)…もう少ししたら、また、温かいミルク、淹れ直してあげるね」
(BGM:ストーブの「ぽ…」という音と、窓の外の静寂だけが続く。二人の間に、言葉はいらない。ただ、穏やかで、温かい時間が、雪と共に静かに降り積もっていく。ゆっくりと、フェードアウトしていく)
硝子ペンと記憶のインク【ASMR】【G’sこえけん】 ☆ほしい @patvessel
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