ゾッとした夏の朝
天音空
招かざる同居人
※これは、私が実際に体験した、”身の毛もよだつ”、忘れられない夏の朝の恐怖体験です。
ある夏の明け方——
スネのあたりが、くすぐられるように——ゾワ……ワ……。
皮膚の奥まで、細い爪でなぞられるような感覚が這い上がる。
半覚醒のまま、恐る恐るタオルケットをめくると——
そこには、ムカデ!
しかも、ゆっくり、サラ……サラ……と上ってきている。
刹那、呼吸も思考も止まった。
心臓だけが、ドクン、ドクンと耳に響く。
体温が一気に上がり、冷たい汗が手のひらをつたう。
動けば刺される。しかし、周囲に武器はない。
究極の選択——指で弾き飛ばすしかない。
右手の親指と人差し指に、
波動砲、発射——!
波動砲は虚しくもムカデをかすめた。
——失敗。
ムカデは愛おしそうに私の右手の甲に、スル……スル……と絡みついた。
節足が肌を這う感触に、背骨の奥まで冷たい電流が走る。
急がねば——刺される!
全身の筋肉が瞬時に硬直し、思考は
私は一気にベランダへ走り、窓を開けた。
大きく振りかぶり、外へ——
——失敗。
振りかぶりすぎて、足元にポトリ。
ムカデはカサ……カサ……と這い寄ってくる。
別れた恋人が、よりを戻そうとするかのように。
近くのクリアファイルを掴み、救い上げた。
そして、世界で一番かわいい笑顔で——ぶん投げた。
空を舞うムカデが、こう言った気がする。
「また来るかもね」
——来るがいい。
今日の闘いで、ユニークスキル《耐性》を得た。
お前がストーカーに堕ちようとも、私が退くとでも思ったか。
次はない——その覚悟で挑むがよい。
【完】
≪あとがき≫
ムカデとの戦いは一瞬でしたが、あのとき全身が総毛立った時間はやたら長く感じました。
読んだ皆さんのベッドにも、招かれざる同居人が現れるかも……!
もし経験したことがあれば、コメントで教えてください。あなたの『恐怖の瞬間』、読んでみたいです。
ゾッとした夏の朝 天音空 @iroha_no_karte
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