第20話 ウッド家の城塞

文登港からウッド家の領地まで、天候が良ければ騎馬でわずか六、七日で到着する。


しかし実際は理論通りにはいかない。野宿は単に不快なだけでなく、明らかに危険でもある。だからこそ二人は朝に出発し、できるだけ遠くの村や町まで辿り着き、翌朝また出発することを選んだのだ。


雪解け後の道は所々ぬかるんでおり、出発して二日後にようやく固い路面に戻った時には、外套の外側に薄い泥の殻が張り付いていた。途中の村々で立ち寄りながらさらに六日を費やし、九日目の夕暮れにようやくウッド町へ帰還した。


多くの集落と同様、ウッド町も水源に近い場所に築かれている。低い山々に挟まれた河谷地形で、背に山を控え川に面した細長い土地だ。川幅は十メートルほど。広いとは言えないが、渡るのが厄介な川だった。


老ウッドが幼い頃、町は川の片側だけで発展しており、対岸へ渡るには上流の浅瀬まで大回りするか、泳ぐか舟を頼むしかなかった。


この不便を痛烈に嫌った老ウッドは、対岸の土地を有効活用するため、城塞建設の残り石材で川に石橋を架けた。まさに住民サービス事業だった。


今、ラインとクラフトはその石橋を渡り、町を通り抜け、背後にある小高い山の上の城塞へ向かっている。


城塞の立地は非常に理にかなっている。町の背後の小山は、ウッド町と川に面した側が緩やかな斜面で、背面は切り立った崖壁になっている。防衛時には仰角の坂道を登ってくる正面の敵だけを迎え撃てばよく、背面の防御工事が大幅に削減できる。


同時に、この緩やかな傾斜は攻撃側に極めて不快な体験をもたらす。体力を消耗させつつ突進攻撃を封じ、逆に防衛側は形勢が逆転した時には勢いよく駆け下り、短距離で人を吹き飛ばすほどの運動量を蓄積できるのだ。


三十年の歳月をかけ、老ウッドはまず斜面頂上の樹木を伐採し、その木材で仮設の木製城壁を築いた。そして崖沿いに城塞の主塔となる太い塔楼を建て、塔を囲むように厩舎、工房、台小屋などの取り壊し可能な木造建築を建てた。


この段階は十数年続き、工事全体の半分を占めた。つまりクラフトが生まれる前後まで、ウッド家の城塞外周は木製城壁だったのだ。


長期化した工事は経済事情と実用性の兼ね合いによる。ウッド町と周辺の小村々を領地に持ち、小貴族の中では比較的豊かとはいえ、新興の家系には他にも出費がかさんだ。老ウッドは自分に従って退役した古参兵たちにも所領を整える必要があり、彼らの子孫もウッド家に仕えることになる。


ウッド町は軍事上の要衝ではない。一族の城塞は様々なリスクに対して有効だが、実際にそのリスクが発生しなければ意味がない。仮に戦争が起きても、わざわざ軍隊を分けてここを攻める者などいない。使者を送って領主の服従を形式的に受け取る程度が関の山だ。


時が熟すまで――あるいは老ウッドが家計が好転したと判断するまで、ウッド家は木製城壁を解体し、本物の石造りのカーテンウォールに置き換え始めなかった。


比較的小規模な工事量が幸いし、老ウッドは頑なに城壁の高さを三メートル以上にまで引き上げた。凹凸のある銃眼と組み合わせれば、いずれ十分な弩や弓を調達した際に効果を発揮する。


そして十数年かけて改修を重ねた付属建築物も、拡張された塔楼に取って代わられ、次第に分厚い塔楼付きの堡塁として一体化していった。こうして城塞は完全に完成し、攻めにくく攻める価値もない厄介な存在へと変貌を遂げた。一族の系譜を支えるにはうってつけの城だ。


時は流れクラフトが成人した頃、近年になって城塞から町までの道に砂利が敷かれ、馬や車両の滑落事故が大幅に減った。


クラフトとラインがジグザグの道を登っていくと、夕陽が城塞の背後にゆっくり沈み、建物の長く伸びた影がまばらな木々の生える緩やかな斜面に落ちた。いつの日か攻めてくる敵は、毎夕この影に覆われながら、傾斜路で動かしにくい攻城兵器を準備し、上方から転がり落ちてくる重い落石に怯えることになる。


異界の魂ですら、冷兵器時代におけるこの城塞の強固さに感嘆せざるを得なかった。水と食料の備蓄が十分であれば、この石造建築群を包囲するには数倍の人員が必要だ。


大型の攻城兵器など持ち込むのは不可能。戦時には下流の石橋を破壊すれば、人間が渡るのも困難になる。現地で伐採して作った兵器も、傾斜路を逆らって押し上げるのは命懸けだ。そして苦労して城壁の前に辿り着いたところで、職業戦闘員に率いられた民兵団に迎え撃たれるのだから、まさに究極の苦行である。


そう、安きに居て危うきを思う。ウッド家には常備の戦闘員も存在した。確かに人数は多くない。十数名から二十名ほどで、主に老ウッドに従って退役した古参兵たちだ。


老ウッドが成功すると彼らも周辺の所領を分け与えられ、彼らもまた老ウッド同様に若者を鍛えるのが好きな連中だった。こうして家系の伝統となった職業兵が育まれたのである。


クラフトの父が戦場へ連れて行ったのも、この「親衛隊」を従士とし、臨時に武装させた民兵で数を補った小規模な軍隊だった。最後に不運に見舞われたのは、幼少期から訓練を受けた彼らの技量が低かったからではない。


クラフトの世代にも、城塞内で訓練を受ける同年代の若者がいる。ただし彼らの大半は生涯城塞を守る運命で、戦場で富を得る機会はない。


薄暗がりの中、城塞の門のあたりに揺らめく火影が見えた。夜警の衛兵が掲げる松明だ。金属のぶつかり合うかちゃかちゃという音もかすかに聞こえる。


「ジョン?それともジョージ?まだ閉めるなよ!」クラフトが大声で叫んだ。「お願いだ、外であの忌々しい巻き上げ機を弄るのを待ちたくないんだ」


「ははっ、若旦那がお帰りだ!」門の向こうから笑い声が返り、金属音が止んだ。若い顔が松明を掲げて壁から身を乗り出した。「お入りください」


「最後の警告だ、ジョージ。ここで男爵と呼ばれるのはただ一人だ!」クラフトはこの若者たちと仲が良い。老ウッドの訓練を共に受けた仲だし、田舎貴族に形式張った礼儀作法などない。「俺に名前がないとでも?」


ラインとクラフトは馬を厩舎に預けると、食堂で夕食を摂っている老ウッドとアンダーソンを見つけた。ろうそくの灯りの下、長い食卓にはパン、ポタージュ、城塞自家製のソーセージが並び、白髪の老人と少し禿げ上がった中年が向かい合って座っている様子は、どこか寂しげな情景を思わせた。


「我が愛しきクラフトよ、ようやく戻ったか。ちょうどアンダーソンとお前の話をしていたところだ」がっしりした老人は手にしたパンを置き、孫を熱烈に迎えた。「ラインもいるな。さあ座れ。きっと腹が減っているだろう」


……


……


「つまり結局、あの男には会えなかったのか?」二人が食事を終え、ラインがあの石の手を取り出した時、老ウッドは突然クラフトの旅の目的を思い出した。


行き帰りでほぼ一ヶ月。雪が降り積もり、やがて解けるまでに、冬の半分が過ぎた気がする。ラインが土産を持ち帰らなければ、皆すっかり忘れていたかもしれない。


「ええ、ただの未熟な詐欺師でした。自分の手を燃やし、我々が文登港に着く前に死んでしまった」クラフトは腕を組み、呆れたように肩をすくめた。「ライン従兄が買ったものの方がよほど面白い。少なくともこの手は自ら燃え上がったりしない」


「はは、確かに」アンダーソンは老ウッドから手を受け取ると、ひっくり返してみたが、特にこれといったものは見つからなかった。「だがこれは確かに興味深い。売り手はどこのものか言っていたか?」


「いや、でもノース王国のものには見えない」ラインは顔色一つ変えずに答えた。「面白い話と言えば、クラフトの方ですよ。何があったか絶対に想像できません」彼はわざとらしく言葉を止めたが、顔に浮かんだ笑みは隠しきれていない。


「まさかクラフトが文登港学院に合格したとか?」老ウッドは相変わらず最もありえない方向で推測した。この荒唐無稽な予想にアンダーソンも笑い出した。


「……」


「……」


「どうした?二人とも黙り込んで。いったいどんな面白いことがそんなに神秘的だというんだ?」突然の沈黙にアンダーソンは笑いを止めた。笑うべきでない場面だったかと心配した様子だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 12:00 予定は変更される可能性があります

クラフト異態学筆記〜不可視の狂気に異態観察記〜 @MomoStellaris

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ