『俺達のグレートなキャンプ86 異世界から召喚したサキュバスと恋愛相談』

海山純平

第86話 異世界から召喚したサキュバスと恋愛相談

俺達のグレートなキャンプ86 異世界から召喚したサキュバスと恋愛相談


(夕日が山々を赤く染める中、三人のテントが立ち並ぶキャンプサイト。焚き火の炎がパチパチと音を立て、薪の燃える香りが漂っている)

「よーし!今日のグレートキャンプも準備万端だ!」

石川が両手を腰に当て、胸を張って宣言する。その表情は満面の笑みで、目がキラキラと輝いている。まるで子供が新しいおもちゃを手に入れたかのような興奮っぷりだ。

「今回はどんな奇抜な暇つぶしなんですか?」

千葉が目を輝かせながら尋ねる。石川のキャンプに参加するようになって半年、すっかり奇抜キャンプの虜になってしまっている。手をこすり合わせながら期待に胸を膨らませている様子が手に取るように分かる。

一方、富山は焚き火の薪をいじりながら、ため息をついている。

「また変なこと思いついたのね...」

(心の声:今度は何をやらかすつもりなのかしら。前回の『宇宙人との交信キャンプ』では、他のキャンパーさんに白い目で見られたのよ...)

富山の表情には諦めにも似た表情が浮かんでいる。長年の付き合いで石川の突飛な発想には慣れているが、毎回ドキドキハラハラさせられるのは変わらない。

「今回の奇抜でグレートな暇つぶしは...」

石川が一呼吸置いて、ドラマチックに指を空に向ける。

「『異世界から本物のサキュバスを召喚して恋バナする』だ!」

「うおおおお!面白そう!」

千葉が目を輝かせて飛び跳ねる。まるでロケットのように勢いよく立ち上がり、拳を握りしめて興奮している。

「ちょっと待って!本物って何よ本物って!」

富山が薪を持ったまま立ち上がる。目がまん丸に見開かれ、口がポカンと開いている。まるで突然異次元の扉が開いたかのような驚愕の表情だ。

「決まってるじゃないか!魔法陣を描いて本当に異世界からサキュバスを召喚するんだ!」

石川が得意気に胸を張る。まるで世紀の大発明を発表する科学者のような堂々たる態度だ。

「無理よ!そんなの絶対無理!魔法なんて存在しないのよ!」

富山が両手をブンブンと振りながら抗議する。顔が真っ赤になって、湯気が出てきそうなほどだ。

「大丈夫だ!僕はこの日のために特別な魔導書を手に入れたんだ!」

石川がバッグから分厚い本を取り出す。表紙には「真・異世界召喚術大全」と書かれている。

「どこで手に入れたのそんなもの...」

富山が頭を抱える。

「ネットオークションで98円だった!送料の方が高かったぞ!」

石川が誇らしげに言う。

「98円て!怪しすぎるでしょ!」

富山がツッコミを入れる。

「でも本格的ですね!石川さん、準備万端じゃないですか!」

千葉が感心しながら本を眺める。その瞳には純粋な期待の光が宿っている。

(周りのキャンプサイトからチラチラと視線が向けられ始める。他のキャンパーたちが「また始まった」という表情でこちらを見ている)

「よし!それじゃあ魔法陣を描こう!」

石川が地面に向かってしゃがみ込む。

「ちょっと!本当にやるつもりなの?」

富山が慌てて止めようとする。

「もちろんだ!グレートなキャンプに後戻りはない!」

石川が魔導書を開きながら答える。ページをパラパラとめくると、複雑な魔法陣の図が描かれている。

「うわあ、本格的な図ですね!」

千葉が身を乗り出して見る。

「でしょう?この『ルシファー式サキュバス召喚陣』が今回の要なんだ!」

石川が指でなぞりながら説明する。

「ルシファー式って...大丈夫なの?危険じゃない?」

富山が不安そうに尋ねる。

「大丈夫だ!この魔導書によると、召喚されるサキュバスは基本的に友好的らしい」

石川が軽々しく答える。

「基本的にって何よ基本的にって!例外があるじゃない!」

富山が突っ込む。

「細かいことは気にするな!」

石川が手を振って気にしないアピールをする。

(隣のサイトから「今度は魔法かい」「若いっていいねえ」という声が聞こえてくる)

石川が白い石を使って地面に魔法陣を描き始める。直径3メートルほどの大きな円の中に、複雑な幾何学模様と見慣れない文字が書き込まれていく。

「すげー!本当に本格的だ!」

千葉が興奮して見守る。

「こんなの絶対うまくいかないわよ...」

富山がぶつぶつと文句を言いながらも、興味深そうに見ている。

30分後、ついに魔法陣が完成する。

「よし!完璧だ!」

石川が汗を拭いながら満足そうに立ち上がる。

「本当にすごいですね!映画のセットみたいです!」

千葉が感動して拍手する。

「まあ、確かに見た目はそれっぽいけど...」

富山も渋々認める。

「それでは、いよいよ召喚の儀式を始めるぞ!」

石川が魔導書を手に取り、魔法陣の前に立つ。その表情は真剣そのものだ。

「本当に大丈夫なんですか?」

千葉が少し心配そうに尋ねる。

「問題ない!この石川に任せておけ!」

石川が胸を張って答える。

富山は諦めたように焚き火の前に座り込む。

「もう知らないわよ...何が起きても責任取らないから」

「よーし!それでは『ルシファー式サキュバス召喚術』、開始!」

石川が魔導書を開き、呪文を読み上げ始める。

「オー・サキュバス・オブ・ザ・デモニック・レルム!アイ・サモン・ユー・ウィズ・ザ・パワー・オブ・ラブ・アンド・フレンドシップ!」

なぜか英語で唱えている。発音もかなり怪しい。

「英語なんですか?」

千葉が首をかしげる。

「魔法の言葉は英語の方がかっこいいからな!」

石川が適当に答える。

「適当すぎるでしょ!」

富山がツッコミを入れる。

「カム・フォース・トゥー・アワー・キャンプサイト!ウィー・ウォント・トゥー・トーク・アバウト・ラブ!」

石川が両手を天に向けて叫ぶ。

その時、突然強い風が吹いて、焚き火の炎が大きく揺れる。

「うわあ!」

三人が驚いて身を寄せ合う。

そして魔法陣の中央に、紫色の煙がもくもくと立ち上がり始める。

「え?えええええ!?」

富山が声を上げる。

「まさか本当に...?」

千葉が目を見開く。

「やったぞ!成功だ!」

石川が拳を握りしめて喜ぶ。

煙がだんだん濃くなっていき、その中にシルエットが現れる。

「きゃあああああ!」

富山が石川の後ろに隠れる。

「すげえええ!本当に出てきた!」

千葉が興奮して叫ぶ。

煙がゆっくりと晴れていくと、そこには...

「あら?ここはどこかしら?」

美しい女性が立っていた。腰まである長い黒髪、透き通るような白い肌、そして頭に小さな角。背中には黒い翼がついている。

「さ、サキュバス...」

富山が震え声でつぶやく。

「やあ、僕が君を召喚した石川だ!」

石川が堂々と名乗りを上げる。

「あら、召喚者様ね。初めまして、私はリリア。サキュバス界では新人なの」

リリアが優雅にお辞儀する。その動作は上品で洗練されている。

「新人って...サキュバスにも新人とかあるんですか?」

千葉が素朴な疑問を投げかける。

「ええ、私はまだサキュバス歴3か月なの。まだまだ修行中の身よ」

リリアが恥ずかしそうに微笑む。

「3か月て!新卒サキュバスじゃない!」

富山が思わず突っ込む。

「そうなの。だから召喚されるのも今回が初めてなの。ドキドキするわ」

リリアが胸に手を当てて言う。

「初召喚がキャンプ場って...」

石川が苦笑いする。

「でも素敵な場所ね!自然がいっぱいで、空気も美味しいし」

リリアがきょろきょろと辺りを見回す。

「あの...リリアさん?」

千葉がおずおずと声をかける。

「何かしら?」

「サキュバスって、その...男性の精気を吸うんじゃ...」

千葉が恐る恐る尋ねる。

「あら、それは古い考えよ。現代のサキュバスは恋愛相談とかカウンセリングが主なお仕事なの」

リリアがくすりと笑う。

「恋愛相談!?」

三人が同時に驚く。

「そうよ。恋愛のプロフェッショナルとして、皆様の恋の悩みをサポートするのが私たちの使命なの」

リリアが胸を張って説明する。

「時代は変わってるのね...」

富山が呟く。

「それは完璧じゃないか!」

石川が手を叩いて喜ぶ。

「僕らも恋愛相談したかったんだ!」

千葉が目を輝かせる。

「本当?それは嬉しいわ!」

リリアが嬉しそうに微笑む。

(周りのキャンパーたちがざわざわし始める。「あの子、誰?」「コスプレ?」「角が本物っぽい...」という声が聞こえる)

「それじゃあ早速、恋愛相談会を始めましょう!」

リリアが魔法陣の中央に座り込む。翼を畳んでちょこんと座る姿がとても可愛らしい。

「僕から質問があります!」

千葉が手を挙げる。

「はい、どうぞ!」

リリアが微笑む。

「僕には気になる人がいるんですが、なかなか話しかけられません。どうしたらいいでしょうか?」

千葉が真剣な表情で相談する。

「なるほど...まずはその方はどんな人なの?」

リリアが優しく尋ねる。

「同じ職場の先輩で、とても優しくて頭がよくて...」

千葉が頬を赤らめながら語る。

「素敵な方ね。きっと千葉さんの真面目な性格なら、誠実にアプローチすれば大丈夫よ」

リリアがにこやかにアドバイスする。

「誠実に...ですか?」

「そうよ。まずは仕事の話から始めて、だんだん仲良くなっていけばいいの」

リリアが具体的にアドバイスする。

「なるほど!ありがとうございます!」

千葉が感動して拍手する。

「次は僕だ!」

石川が手を挙げる。

「石川さんはどんなお悩みかしら?」

リリアが興味深そうに尋ねる。

「僕には長年の友人がいるんですが、僕の趣味に付き合わせて迷惑をかけてしまってるんじゃないかと...」

石川がチラッと富山を見る。

「あら、それは富山さんのことね」

リリアが察しよく答える。

「え?なんで分かるの?」

富山が驚く。

「サキュバスは人の心が読めるのよ。富山さんは確かに時々困っているけど、根本的には石川さんとのキャンプを楽しんでいるわ」

リリアが微笑む。

「本当ですか?」

石川が希望に満ちた表情になる。

「ええ。ただし、時々は富山さんの意見も聞いてあげることが大切よ」

リリアがアドバイスする。

「分かりました!」

石川が嬉しそうに答える。

「ちょっと待って!私の心を勝手に読まないでよ!」

富山が慌てて抗議する。

「ごめんなさい。でも富山さん、何か相談はない?」

リリアが優しく尋ねる。

「私は...別に...」

富山が口ごもる。

「遠慮しないで。何でも聞くわよ」

リリアが励ますように言う。

「じゃあ...最近、職場の後輩に頼られることが多くて...嬉しいけど責任を感じちゃって...」

富山がポツリポツリと話し始める。

「それは素敵なことじゃない。きっと富山さんが信頼されている証拠よ」

リリアが温かくフォローする。

「そうかな...」

「ええ、でも無理しすぎないことも大切。時には『今日は忙しい』って断ることも必要よ」

リリアが的確にアドバイスする。

「なるほど...ありがとう」

富山が小さく微笑む。

(いつの間にか周りに他のキャンパーたちが集まってきている。「すごい美人だなあ」「あの角、本物?」「恋愛相談してるの?」などの声がささやかれている)

「あの...」

突然、隣のサイトの中年男性が声をかけてくる。

「はい?」

リリアが振り返る。

「もしよろしければ、私たちも相談に乗っていただけませんか?」

男性が恐る恐る尋ねる。

「もちろんよ!どうぞどうぞ」

リリアが快く受け入れる。

「やった!リリアさん、人気者だ!」

石川が嬉しそうに言う。

どんどん人が集まってきて、気がつくとリリアの周りには20人以上の大人が座っている。

「それでは改めて、恋愛相談会を開催いたします!」

リリアが立ち上がって宣言する。その姿はまるで天使のように美しい。

「私、結婚して20年になるんですが、最近夫との会話が減っちゃって...」

最初に相談したのは中年の女性だった。

「それはよくあることですね。まずは共通の話題を見つけることから始めてみてはいかがですか?」

リリアが優しくアドバイスする。

「共通の話題...」

「例えば、一緒にテレビを見たり、散歩したり。小さなことから始めればいいんです」

リリアの的確なアドバイスに、女性の顔がパッと明るくなる。

「次の方、どうぞ」

「僕、大学生なんですが、同じクラスの女の子が気になって...」

若い男性が恥ずかしそうに相談する。

「素敵ね!その子はどんな人なの?」

リリアが興味深そうに尋ねる。

次々と相談者が現れ、リリアは一人一人に丁寧にアドバイスしていく。その姿はまるで恋愛カウンセラーそのものだ。

「すげー!リリアさん、プロじゃないですか!」

千葉が感動して言う。

「新人って言ってたけど、全然そんなことないな」

石川も感心する。

「本当にすごいわね...」

富山も認めざるを得ない。

一時間後、相談会は一段落ついた。

「皆さん、ありがとうございました!」

リリアが深々とお辞儀する。

「ありがとうございました!」

相談者たちが口々にお礼を言って、それぞれのサイトに戻っていく。

「お疲れ様、リリア」

石川が労いの言葉をかける。

「ありがとう。とても楽しかったわ」

リリアが満足そうに微笑む。

「でも、そろそろ帰らなければいけない時間ね」

リリアが空を見上げる。もう夜も遅い。

「え?もう帰っちゃうの?」

千葉が寂しそうに言う。

「ええ、召喚の時間には限りがあるの。でも今日は楽しかったわ」

リリアが名残惜しそうに答える。

「また来てもらえるかな?」

石川が期待を込めて尋ねる。

「もちろん!いつでも呼んでちょうだい」

リリアが微笑む。

「やったー!」

三人が同時に喜ぶ。

「それじゃあ、帰還の術を使うわね」

リリアが魔法陣の中央に立つ。

「バイバイ、リリア!」

千葉が手を振る。

「また来てよ!」

石川も手を振る。

「気をつけて帰ってね」

富山も優しく見送る。

「みんな、ありがとう!また会いましょう!」

リリアが手を振ると、再び紫色の煙が立ち上る。

煙が晴れると、リリアの姿は消えていた。

「行っちゃったな...」

石川が少し寂しそうに言う。

「でも楽しかったですね」

千葉が満足そうに微笑む。

「ええ、意外と良い経験だったわ」

富山も認める。

三人は焚き火を囲んで座り込む。

「それにしても、まさか本当にサキュバスが現れるとは思わなかった」

富山がまだ信じられないような顔をしている。

「98円の魔導書、大当たりだったな」

石川が得意げに言う。

「次回はどんなの召喚しましょうか?」

千葉が期待を込めて尋ねる。

「それは...まだ秘密だ」

石川がニヤリと笑う。

「また変なこと考えてるのね...」

富山がため息をつくが、その表情にはもう期待の色が見える。

夜空には満天の星が輝いていて、三人の特別な夜を見守っている。今日もまた、奇抜でグレートなキャンプの伝説が一つ増えた。

「でも本当に、どんなキャンプでも三人でやると楽しくなりますね」

千葉が改めて実感する。

「そうね...一人だったら絶対信じなかったわ」

富山が正直に言う。

「それがグレートキャンプの真髄だ!」

石川が胸を張る。

三人の笑い声が夜空に響いて、今夜の奇跡的な出来事の余韻を楽しんでいる。

そして明日はまた新しい一日が始まる。でも今夜の記憶は、きっと三人の心に永遠に残るだろう。

「次回は絶対に普通のキャンプよ!」

富山が念を押すが、その声にはもう諦めと期待が混じっていた。

(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『俺達のグレートなキャンプ86 異世界から召喚したサキュバスと恋愛相談』 海山純平 @umiyama117

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ